▼ 文と涙と-01-
大川平次渦正殿
突然の文、申し訳ございません。
先日、私が女であると言う噂が広まり、城内に不穏な動きがありました。常々恐れていたこと、それが遂に現実になってしまったのです。
しかしながら、誰が私を裏切ったかなど詮索するつもりは毛頭ございません。全ては私の力不足。それを他人のせいにし、誰かを責めることなどできないのでございます。
ですが、私は周りの者に生かされていたのだと改めて痛感致しました。
城の者がいなければ私は何もできないのです。それがなんとも情けのうて、情けのうて。
己が大層ちっぽけでなんとも無力な存在かと、思い知らされたのです。
反乱が起き、この座を追われるのも時間の問題でございます。その前に、大川殿にササガタケ当主として、今まで私を支えて下さったお礼を申し上げたく、突然文を送らせて頂きました。
恐らく、この文が貴方様の元に届く頃には私はもうこの世にはいないことでしょう。ですが、この城に生まれ育ったことを悔やんではおりませぬ。
こうして大川殿や大切な友人、部下とも出逢えたのですから。
最後に、大川殿とお会いし、直接お礼を申し上げられぬ無礼をどうかお許し下さいませ。
貴方様と出逢えたこと、誠に感謝しておりまする。
笹ヶ茸竹成
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