▼ 目覚めて-02-
とにかく落ち着こう、と懐に手を入れた。竹成様から受け取った簪にどうしても触れたくなったんだ。彼女を近くに感じたくて。
しかし、今の格好はいつもの忍装束ではなくて白いガウンのようなものだ。手当てするときに着替えさせてくれたんだろう。それに気付き、布団のすぐ側に畳んであった俺の忍装束の中を探った。
だが、どこにも目当てのものがない。サァッと血の気が引いて顔が青くなるのがわかった。
『あ、あの!俺の懐に何か入ってませんでしたか!?』
さっきこの部屋に入ってきた青年に詰め寄って聞くが彼は首をこてんと倒し、頭に疑問符を浮かべている。
「えっと、何もなかったですが…。」
『〜〜!!』
何処だ、何処で落とした!? あれは竹成様の大切な形見なのに!!
勢いよく立ち上がると体が悲鳴を上げる。だが今はそんなことどうでも良かった。
たった一つの形見。俺と竹成様を繋ぐ目に見える唯一のモノ。どんなことをしても早く探しださなければならない。
「どうしたんですか!?まだ動いちゃ駄目です!」
彼が慌てて俺を止めようとした時、襖を開けて土井先生が廊下から現れた。その手に、竹成様の簪を持って。
「探しているのは、これかな?」
『…な……何で、それを…。』
「倒れた時に落としたんだ。覚えてないか?」
覚えてない。……でも良かった。
……本当に、本当に良かった。
『ありがとう、ございます…っ!』
簪を受け取り胸に抱く。言い表せないぐらいに感謝した。無くしていたら、今頃俺は発狂していたかもしれない。
無事に見つかった簪にほっと胸を撫で下ろした。けれど何故ここまでしてくれるんだ?
俺は土井先生に疑問をぶつけた。
『何故、助けて下さったのですか?俺は貴方に刀を向けたのですよ?』
「それはだな。……うーん。そうだな、とりあえず学園長先生の所に行こう。話はそれからだ。」
そう言って、土井先生は優しく微笑んだ。
白いガウンからいつもの忍装束に着替え終わり、保健室を出る時に青年に丁寧に頭を下げた。
着替えも手伝ってくれたし、きっと気を失ってる間世話をしてくれたのは彼だろうから。
『ありがとうございました。では、失礼します』
「いえ、また話が終わったあとに来てください。まだ完治していないので無理は禁物ですからね。」
にこっと微笑んだ彼は昔TVで見たことがある人だったと気づく。詳しくは覚えてないけど。
でも、凄く不運な人だった気がする。
prev / next