▼ 目覚めて-03-
「失礼します。」
土井先生がそっと庵の襖を開ける。中に入ればそこには学園長と山田先生が座っていた。
「まあ座りなさい。」
山田先生に促され、俺は学園長の正面に座りそして斜め後ろに土井先生が座った。目の前の学園長はアニメで見たまんまの姿の白髪の老人だった。
これは、某教育テレビのアニメで決定かな。俺は、時代を遡って生まれ変わったのではなく、転生トリップしていたのか。内心苦笑を溢した。
ああ、そんな事より。と思考を元に戻し俺は、居住まいを正して学園長に深く頭を下げた。
『初にお目にかかります。私は秋月蓮夜と申します。此度は助けて頂き有り難うございました。』
「うむ、頭をあげなさい。儂はこの忍術学園の学園長じゃ。蓮夜と言ったか。怪我はもうよいのか?」
学園長が優しく微笑んで、俺に問いかけた。まず始めに俺の体の事を気遣ってくれるとは。
『はい。まだいつも通りにとはいきませんが、お陰様で少し回復致しました。』
すると学園長は、それは良かったと優しく微笑えんだ。……素直に驚いた。見ず知らずの俺に、間者かもしれない俺に、何故こんなにも彼らは優しく接してくれるのか。普通ならばこうはいくまい。
『しかしながら、そちらからすれば私は得体の知れぬ者。何故ここまでして下さるのですか?』
相手を射抜くような瞳でじっと見つめれば、学園長彼は少し目を伏せた。
「それはだな…」
ーーーバサ、バサッ、バサ
学園長が何か話そうとした時、外から鳥の羽ばたく大きな音が聞こえてきた。山田先生がすっと立ち上がり襖を開けると、外から見覚えのある朱色の鷹が庵に飛び込んできた。
『…しゅ、朱華……?』
それは組頭がいつも可愛がっていた珍しい朱色の鷹。俺にも凄くなついてくれていた。だからこそ見間違えるわけがないんだ。何でここにいる?
朱華はくるくるっと部屋の中を1、2回、旋回すると俺の手元に降りてきた。そっと撫でてやると、ピィッと甘えるように鳴く。それに俺の頬がゆるりと緩む。
『何でお前がここに?』
「その子がこれを持って来てくれたんじゃよ。」
朱華に問うと、学園長が俺の前にすっと文を出して代わりに俺の問いに答えた。差し出された文を丁寧に受け取ると、その文の宛名には"大川平次渦正殿"と書かれていた。
『……大川…?』
誰がみても達筆だ、と答えるであろうその字は俺にとってとても見覚えがあるものだった。これはきっと竹成様の書かれた文だ。
それに確か…………。
大川平次渦正殿といえば前の城主の御友人で、竹成様ともよく文を交わしていた人。でも、この文が何故ここにあるんだろう。
「大川平次渦正は儂なんじゃ。」
さらりと爆弾発言を落とした学園長に、俺は一瞬呆けて固まってしまった。
……学園長って、そんな名だったろうか?しかしながら、"あたし"がTVを見ていた時は学園長の名なんて気にした事など無かったから覚えていないのは当たり前か。そう1人で自己簡潔した。
「その文、読んでも構わんよ。」
『よ、宜しいのですか?」
少し吃驚しながらも聞いてみると彼は軽く頷いた。
「お主、竹成殿の友人の蓮夜であろう?よく、竹成殿から話を聞いておった。お主ならば何も問題あるまい。」
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