雲外蒼天-天女編- | ナノ


▼ 変化した日常-03-


とんとんとん、と野菜を切る音が台所に響く。おばちゃんの料理する音は全て軽やかで、流れるようなものだ。それに耳を傾けながら、俺は煮物をぐつぐつ煮て味付けをする。

「そう言えば、ずっと聞きたかったんだけど。」
『え?』
「4日間ぐらい食堂に来てなかったでしょう?ちゃんと食事はしてたの?」

それに俺は内心どきりとした。仕事の短い合間に兵糧丸を食べたりはしてたけど、まさか先程の握り飯が4日ぶりのまともな食事です、なんておばちゃんの前では言えない。

『まあ、しっかりとはいきませんが軽くは食べてましたよ。』

4日間何も食べなくても大して差し障りはない、こともないが忍務でそう言うことも普通にあるから。

「本当?とにかく食事はしっかりしなきゃ駄目よ。 育ち盛りなんだし、それに食事は身体の資本よ。いざというときに動けなきゃ駄目でしょう?」

おばちゃんの言葉に俺はうっと黙りこむ。最もすぎる意見だからこそ何も言い訳出来なかった。しかし、今更ながらそんなことに気づかされるとは情けない。ああ、でも何かあれば俺は、食事よりも睡眠よりもその事を優先してしまうのだろうけれど………。

「まあ、食堂(ここ)で食べたくない気持ちもわかるけどねえ……。」
『……天女様、ですか?』

その名前を出した途端におばちゃんは嫌そうに眉を寄せた。珍しい、こんな表情をおばちゃんがするなんて。

「あの子が来てから学園は変わったわ。それにあの子がここに居座るから取り巻きの子達もここに居座る。あの子を嫌うほとんどの忍たまは食堂ではなく食堂の外で食事するのよ。」

ああ、確かに。校庭の隅っこの方で何人かが集まって食べていたのを思い出す。

「仕事もしなければ挨拶もしない。あんな非常識な子初めてよ、困ったものだわ。どう対応していいかもわかりゃしない。」

食堂のおばちゃんにここまで言わせる天女様は本当に凄いね。尊敬するよ、もちろん悪い意味だけど。

「早く元の学園に戻って欲しいものねぇ……。」

少し困ったように、そしてどこか悲しげに呟く食堂のおばちゃんの声がやけに大きく聞こえた気がした。




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