明るい雰囲気の店内は、女性が多い。
時折デート中らしき可愛いカップルもいて微笑ましい。
「贔屓!せっかくだからテラスに行こうよ!」
オープンテラスの一角に座って、それぞれの注文を済ませる。
「そういえばファジーさん。今日はロイさんを見かけませんね?」
いつだってファジーさんより先に私の名前を呼びながら纏わり付くロイさん。
居ると鬱陶しいけど、居ないとなると物足りない。
身勝手なのは百も承知だけど、纏わり付かれて鬱陶しいと言うのが、私は好きなのに。
「ああ、なんか用事があるって言ってたよ。と言っても今日も最初にあんたを見付けたのはロイ様なんだけどね」
あ、そうなんだ。
ちょっとにやけちゃうな。
「なんだい?嬉しそうな顔しちゃって」
バレたか。
「あ、ファジーさん!頼まれてた写真、出来ましたよ!」
「ほんとかいっ?!」
「わっ・・・あつっ」
急にテーブルに身を乗り出したファジーさんの勢いに負けて、持っていた珈琲を溢してしまった。
「あーっごめんよー・・・やっちまったよ・・・大丈夫かい?氷貰って来ようか?」
「いえいえ、これくらい大丈夫ですよ!それよりこれ・・・」
バッグから、秘蔵の写真を取り出して渡す。
「こ・・・これは・・・」
「んふふー。頑張りました!」
誉めて誉めて、と頭を差し出す。
ファジーさんは私の頭を撫でながら、こんなのよく撮れたねぇ、と感嘆の息を吐く。
スキンシップが大好きな私は、大満足で答えた。
「これはですね。シンさんが・・・」
ほぅほぅと相槌を打ちながら聞いてくれるファジーさん。
「あんたもやるようになったねぇ。うんうん。もう立派な女海賊だよ!」
「盗撮ですけどね?」
「盗撮だろうと何だろうと、活かせる特技は多い方がいいに決まってるだろ?」
そう言ってファジーさんは、片目をバチンと瞑る。
「そうだ。これやるよ!」
「なんですか?」
これってさっきファジーさんが寄った店の袋だけど・・・。
「まぁまぁ、開けてごらんよ」
「え・・・」
中にはフリフリの可愛らしい服。
「あんたにはその色が似合うと思ってね」
私の好きな色。
黒いラインが入った目の覚めるような深い青のコルセットに、薄いターコイズブルーのワンピース。
裾はふわふわのフリフリ。
「や、でも・・・」
ここの服って高いし。
「遠慮なんかするんじゃないよ!あたいは着れないサイズなんだから、あんたが着なきゃ誰が着るんだい?」
でも・・・
「あっちに化粧室があったから、ちょいと着て見せておくれよ」
「え、今、ですか・・・?」
「今じゃなきゃあたいが見てやれないだろう?それにその汚れた服のままで歩くつもりかい?」
いやぁ・・・でもこれはちょっと・・・
「ほらほら!とっとと行った行った!!」
・・・仕方ない。
せっかく好意でしてくれてるんだもん。
「分かりました。ありがとうございます!ちょっと行ってきます」
私だって女だもん。
ファジーさんみたいな服は大好きだし、出来ることなら着たいんだよ。
でも、ねぇ。
とりあえず化粧室で着替えて、鏡の前に立つ。
・・・う。
ほらぁ・・・。
やっぱり。
変に厭らしい。
いつも履いてる黒いコンバットブーツが少し厭らしさを緩和してはいるけれど・・・。
似合わないわけじゃ、ない、と、思う。
うん。多分。
ただ、なんて言うか・・・うーん。
でもコルセットを絞めるのに時間を食ったから、これ以上ファジーさんを待たせるわけにもいかないし。
拳を握って、ファジーさんが待つ席に戻る。
人の目が痛い。
「ファジーさん・・・お待たせしました・・・」
「おっ、着れたか・・・いっ!?」
うう。やっぱりその反応。
「こっぱずかしいです・・・」
「あんた、似合うじゃないか!!」
立ち上がったファジーさんに抱き締められる。
「勿体ない!なんで今まで着なかったんだい?!」
ファジーさんの目が、物凄くキラキラしてる。
「でもなんか妙じゃないですか・・・?」
「なーに言ってんだい?この上なく似合ってるじゃないか!!よし!このまま酒場に行くよ!可愛いあんたを見せびらかしてやるんだ」
ファジーさんは上機嫌で、カフェの会計を済ませてくれた。
「すみません。こんな高い服を貰った上にご馳走にまでなっちゃって・・・」
「あたいはね。謝られるのは好きじゃないんだ」
あ。
「ファジーさん、ありがとうございます!!」
ペコリと直角にお辞儀をする。
「いいって!それよりあんた、そんなに体曲げたら、パンツ丸見えだよ?」
おっと!
慌ててお尻に手を遣った私をアハハと笑うファジーさんは、本当にイイ女だと思う。
ちょっと早いけど、集合場所が同じだったので、一緒に酒場へと向かうことになった。
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