fetish (ALL→select type) 裏 ※連載中
「や、ぁ...ぃた...っ... あっ... 」
身体中に無数に付いた切り傷。
殆どの傷は、乾きかけた血で塞がれ始めていたけれど、僅かな摩擦で簡単に外気に晒される。
「痛っ!」
深い傷口はまだ新しい血が流れていて、その周りに少し触れるだけでも痛みを増す。
それでも止めてくれそうにない気配に、私は大人しくするしかない、と観念した。
久しぶりの寄港。
ナギさんはようやく食糧の補給が出来ると、彼らしく無表情ながらも喜んでいたし、トワくんもお手伝いに張り切っていた。
シンさんとハヤテさんは、武器の整備と弾の補充に出掛ける話で珍しく盛り上がっていたし、ソウシさんも豊富な薬草が揃うらしいこの街に降りるのを楽しみにしていた。
船長は相変わらず馴染みの店に顔を出さないとな!と、鼻の下を伸ばしていた。
私はといえば、海軍もあまり立ち寄らず、比較的治安が良いからって、一人での買い物を許可されていた。
丁度女の子用品も買いたかったし、船長から持たされた金貨で新しい服も買おうと、ルンルン気分で飾り窓を眺めながら歩いていた。
「贔屓ー!!」
ん?
一瞬自分の名前を呼ばれた気がしたけど、女の人の声だったし、大きい街だから、気のせいかな。
立ち止まりかけた足を動かすと、
「贔屓ー!!おーい!お待ちよー!!」
どうも自分が呼ばれているような・・・。
「贔屓ってばー!」
声が迫って、主に気付いて振り返った。
「ファジーさんっ?!」
「ああもう、何回も呼ばせるんじゃないよ。ったく」
どすどすと走ってきた割に息の乱れがないのはさすが、というところ。
「ファジーさんも来てたんですね!」
ちょっと嬉しくなってしまう。
男ばかりの船での生活。
みんなとても良くしてくれるけど、やっぱり少しでも同性と過ごす時間があるとありがたい、と思うのは欲張りかな。
「あんた買い物するんだろ?あたいも今から行くとこなんだ。一緒に行くかい?」
ファジーさんは、世話焼きなお姉さんみたいで、とっても頼もしい。
「あ、じゃあ良かったら後であのお店にも寄りませんか?」
私は道すがら目に留まった可愛らしいカフェを指差した。
「ああ、いいねぇ!そうと決まれば早速買い出しに行くよ!」
腕を組まれてまず連れて行かれたのは、女の子用品の店。
それからいかにもファジーさんらしい服が揃った店。
私も勧められたけど、ああいう服を着ると妙に厭らしくなってしまう私は、似合わないから、と断って、船の上で動きやすい服を別の店で数着買った。
女同士での買い物は楽しい。
それを知ったのは、この船に乗ってからだ。
海賊船に紛れ込む前は、誰かと連れ立って買い物に行くなんてことなかったから。
初めて港に降りた時は、危ないからってソウシさんが買い物に付き合ってくれたっけ。
「あったあった!ここだろ?」
最初に見付けていたカフェの前でファジーさんが振り向いた。
「あ、そうです!」
きっと私一人だったら迷子になっていた。
この店にだって辿り着けたかどうか。
微かに苦笑していると、ファジーさんに腕を捕られた。
「ほらほら。ボーッとしてないで、入るよ!」
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