嫉妬と羨望は欲情で融ける


人には、持って生まれた容姿と、培われた性格や品格、纏う雰囲気等で評価される事がある。だが、更なる要素をプラスする事で、見違えたりする事もある。

「お待たせしました」
「あぁ……」

品物を受け取り、俺は店を出た。

これが有れば、俺の評価も少しは変わるだろうか? いや、期待は最小限にしておくべきだろう。

まるで、これまでの人生が変わるかの如く高鳴る胸は、過度な期待をしている。それを小さく小さく押さえ込もうとしながら、「落ち着け」と繰り返し……本部へと戻った。

何事も無かったかの様に、俺は執務室で書類を書いた。

「今日の兵長、いつもと雰囲気が違いますね」
「そうか……?」
「ええ、素敵です」
「あぁ、ありがとう」

これで5人目……やはり、これは期待しても良さそうな気になってきたが、肝心な奴はまだ来ねぇ。

穏やかな雰囲気の執務室は、居心地もいい。いつもの紅茶ですら、どこか高級感漂う香りに感じる。

ナマエ……お前はどんな目で、俺を見てくれるだろうか?

ぼんやりと窓の外を眺めていると、雰囲気をぶち壊す足音が近付いた。

「リヴァイ! イメチェンしたんだって?」

飛び込んで来たハンジが、俺を見て固まった。

「そんなつもりはねぇがな……」

まじまじと俺を見て、考える素振りを見せた後、漸く口を開いた。

「もしかしてさ、老眼?」

今、コイツは何と言った?

「オイ……」
「だってさ、今まで目が悪いなんて聞いた事無かったからさ……」
「年寄扱いするんじゃねぇ」

気分は一気に急降下した。

そう、俺の期待を込めた物は……眼鏡だった。

確かに……掛けると文字は良く見えるが、店の奴はそんな事は言って無かった筈だ……

「んじゃ、アレか……この間のナマエの大騒ぎ。まさかリヴァイがね……」
「強制的にその口を塞いでやろうか?」
「それは遠慮しとくよ。でも、ぶふっ、そうか、思ったより気にしてたんだ……」

下品な笑いは、床でくぐもった声に変わった。

「もう一発食らいたく無ければ、とっとと出て行きやがれ」

ハンジの言う通り、恋人であるナマエの言葉が発端だ。




あの日……

珍しく正装した俺とナマエは、エルヴィンに貰ったチケットを持って、音楽会にやって来た。俺はあまり興味が無かったが、ナマエはとても喜んでくれた。

「ドキドキするね……」
「そうか?」
「こんなに近くで見れるなんて、素敵」
「招待席ってヤツだからな」

舞台のど真ん中では無かったが、それでもかなり良い席である事は確かだ。
目の前には大きなピアノがある。

演奏が始まると、楽器の数も去ることながら、音の大きさや迫力に驚いた。そして、目の前にあるからか、ピアノを弾く男の動きが目についた。

「凄い……素敵……」

休憩を挟んで前半と後半の二部構成だったが、演奏が止むと、皆が立ち上がって拍手をするのを俺は座って見ていた。

すると、ピアノを弾いていた男が俺を見た。その視線が隣のナマエの方へと移動した直後、微笑んで片目を閉じて見せた。

っ、くそっ……!

慌てて横を見れば、胸の前で手を組み……うっとりとソイツを見ているナマエが見えた。

「オイ……」

ドレスを引いて呼んだが、俺を見ようともしねぇ……歓声に手を挙げ、深々と頭を下げた男が去っても、舞台の端を見たまま放心している様だった。

「素敵……」
「オイ! お前はあんな奴が好みなのか?」
「うん、素敵よね……眼鏡の似合う、物腰の穏やかそうな人って……」

そう言ったナマエの目には、俺は映ってねぇ……早く出て来ないかと、待っている。

長身で、スラリと伸びた手足に、綺麗で長い指、俺には無いものばかりだ。自分の手を見て、俺を見ないナマエを見て、連れて来た事を後悔した。

後半は、やけに男は此方を見ていた。正確には、俺の隣を……

当然、ナマエはその男に釘付けで、きっと演奏すら耳に入っちゃいねぇだろう。俺は、その場に居る事すら苦痛だった。

「凄かったね……素敵だったなぁ……」
「そうか、良かったな」

純粋に音楽会の事だと思って、俺は返事をしたのだが……

「あの人、結婚してるのかなぁ……眼鏡の似合う人って、それだけでも素敵なのに、綺麗な指とか、手足の長さとか……」

そのまま暫くひとりで語っているのを、隣を歩きながら聞かされた俺は、食事の間も特に何も話さなかったのだが、ナマエは楽しそうにまだ話していた。

「お話してみたいな……」

その一言で、俺の我慢は限界を超えた。

「勝手にしろ」

食事は終わっていた。俺はさっさと席を立って会計を済ませると、ナマエは黙って着いて来た。

本部へと向かう馬車の中でも、俺は黙って外を見ていた。ナマエも黙って座っているのをチラッと見たが、俯いていて何を考えているのかもわからなかった。

「じゃあな」
「リヴァイ……?」

馬車を降りて、その日は俺の部屋に泊まる予定だったが、そんな気になれなかった俺は……その場でナマエを置いて自室に戻った。
追って来たら、入れてやろうとソファーで待っていたが、ナマエは来なかった。

普段なら……追ってくれるんだがな……自分が悪いとか、俺が何でこうしたかもわからねぇのか?

そこまで、アイツが気に入っちまったのか? と、俺は溜め息を吐いた。だが、明日は揃って休みだ。街へ出る約束もあったからか、それ程心配はしていなかった。




翌日、朝食の時も、ナマエは同期の女達と話していて、俺の方を向きもしなかった。

その時は、後で迎えに来るだろうと……思っていた。

「ナマエは……何処に行った?」
「昨日行った音楽会の会場に行くと言ってましたけど……」
「そうか……」

待っても来ねぇナマエを迎えに行った俺は、女数人で出掛けたと聞かされた。

それも、よりによってあの会場だと?

音楽会の日程は2日あった。今日もあるのはナマエも知っていた。という事は、会場に入る奴を待ち伏せるつもりだというのはわかった。
バッと走り出した俺は、門を出て足を止めた。連れ戻してやると思ったのだが、そこで拒絶されちまったら……と、そのまま自室へと戻った。

俺の事は……もういいのか?

帰って来て、部屋へ来たならば、俺とアイツとどっちが良いかと……ベッドの上で吐かせてやる位の勢いだったのだが、それすらも出来無かった。

それから3日経っても、ナマエは俺のところへ来る事も無かった。

「お前は、俺とアイツとどっちが良いんだ?」

とうとう俺は……我慢出来ずにナマエを捕まえて問い詰めた。

「え? やだ、そんなの聞くまでもないでしょう?」

あっけらかんと答えたナマエが、クスクスと笑っているのを見て、怒りを壁にぶつけて立ち去った。

俺ではない……そう思った。

予定をすっぽかし、それすら謝るつもりもねぇ……俺よりアイツの方が良いと言われた様なものだった。

その翌日、俺は眼鏡を作りに行った。

これは、検証だ。眼鏡ひとつで変わって堪るかという思いもあった。だが、試しに掛けてみた眼鏡を見て、俺が俺では無い様な錯覚を覚えた。




そして、今に至るのだが……

ハンジが出て行ったドアを暫く眺めていた俺は、また、書類を書いた。

嫉妬……なのはわかっている。問い詰めて以来、俺からナマエに声を掛ける事はしていない。ナマエも、俺には近寄らなかった。別れるにしても、何にしても……俺からは何も言ってやらねぇ。

ナマエは周りを巻き込んで、アイツ……ピアニストの話題で数日騒いでいた。

その夜、久し振りに自室のドアを叩く音が聞こえた。本を読むのに眼鏡を掛けていた事を忘れ、俺はドアを開けた。

「何か用か?」
「リヴァイ……やだっ、何それ……」

ナマエは笑った。俺には似合わねぇと言っているのだと思った。

悔しかった、腹が立った……

俺は腕をつかんで引き入れて、ドアにナマエを押さえ付けた。

「っ、なに……」

ナマエの言葉を口で塞ぎ、両手を頭の上で押さえ、片手でボタンを外していく。抵抗している様だが、構うものかと胸を掴んだり先を潰したりしてやれば、熱い息が漏れる。

どうだ? アイツじゃなくて残念か?

スカートも床に落とし、下着も下げ、容赦なく指で撫でてナカを掻き回してやると……全身をビクつかせて、立ったままナマエはイった。

「まだまだ、だ……」

更に激しく指を出し挿れして、そこで何度もイかせてやった。
ぐずぐずに蕩けた顔のナマエを机に仰向けに乗せ、大きく足を広げさせ、丸見えのそこへと突き立てた。

どうせ終わりならと、どこかで思っていた。自分のだった女をレイプしている……その背徳感が追い立てる。

髪を振り乱して善がる……こんな姿は見たことがねぇ。打ち付けながら、胸も両手で掴んで捏ね上げ、叫ぶ様に声を上げたナマエの中に吐き出してやった。

ズルリと引き抜いたそこからは、身体を震わせる度に流れ出し、床を汚すのを……複雑な気持ちで見ていた。

「リヴァ……イ……」

他の男を好きだと言われるくらいならば、嫌いになったと言われた方が数倍ましだ。

「まだ足りねぇ様だな?」

もう一度押し込んで、俺はナマエを犯した。

「訴えるなら……好きにしろ……」
「し……ない……」

力の抜けた身体で、ナマエは起き上がろうとしていた。

「ごめ……ね。ごめん……ね」

泣き出し、謝るナマエを見るのは辛かった。

他の奴を好きになった事を謝るな……

俺は黙ってナマエの身体を拭いた。触れるだけで震わせる、まだ感覚の残っているだろう身体に、申し訳なさもあふれてくる。

「悪かった……」

そっと起こして抱き締めたが、抵抗する力も入らねぇんだろう。

「アイツが……好きなんだろう?」

俺の声も震えた。

「ちが……っ、好き……じゃない」

なっ……どういう事だ?

何を言っているのだと、腕を緩めて顔を見れば、泣きながら俺を見た。

「リヴァイだけ……あの人は、憧れてみたかっただけ……」
「何故……そんな……」

それはわからないと言ったが、決して自分の相手になどならない相手に、憧れる事が楽しかったのだと、ナマエは俯いた。

「リヴァイはわかってくれてるって、勝手に思ってた」
「俺はそこまで出来た人間じゃねぇよ……今だって、こんな……」

ぐっと握った拳は……爪が皮膚を破る程に力が入っていた。

「嫌な思い、したよね……でも、き、嫌いにならないで……」

抱き着いて来たナマエに、こんな事をされてもかと問えば、小さな声が返って来た。

「凄く……興奮しちゃった」

余程恥ずかしかったのか、耳まで赤くしたナマエを見て、力が抜けそうになった。

「……俺もだ」

思わず、そう答えていた。




あれ以来、眼鏡はナマエに取り上げられた。それは、ナマエの嫉妬だと聞いて……俺は嬉しかった。

そして、あの事が気に入っちまったらしいナマエは、時々……急に芝居を始める様になった。

「嫌っ……来ないで……助けてっ」
「呼んでも誰も来やしねぇ……大人しくしやがれ」

あぁ、これは……癖になるな。

End



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