翌日……朝一番から、ハンジの奇襲にエルヴィンからの追加書類と……執務室は緊迫した雰囲気になっていた。 時刻は9時50分、俺を含む全員がきっとカウントダウンを始めていただろう。 ノックが、ナマエが、コーヒーが、きっとこの痛いくらいの空気を変えてくれる事を信じていただろう。 予想以上に長い時間に感じた。 自分が作り出したであろうこの状態をどうにかするには、先ずは俺のこの苛つきをどうにかしなきゃならねぇが……自分でどうする事もできずに、余計に苛ついて、結果……ナマエのコーヒーを待っている。 カチッ…… 長針が真上を指し、短針がカチリと動いた。張り詰めた空気が一瞬緩んだ。息を潜め耳を澄ました状態で全員がドアに神経を集中させていた。 殺気めいた空気は……勘のいい奴ならドアの外からでもわかるだろう。 (来ねぇ……) 長針が動いていく…… 身動きも出来ずに、祈る様な顔の班員達には流石に悪いと思い、立ち上がった。 「悪いが……少し出る」 ゆっくりとドアへ向かい、「遅くなりました……」と、困った顔のナマエが居るのではないかと、少し期待しながら開けてみたが、通路にもナマエの姿は見えなかった。 (遅れてる……だけだよな?) 食堂から執務室迄のルートを逆からゆっくりと歩く。人も疎(まば)らな通路で行き違いになる事も無いだろう。 (俺は……ノックを待っていたのだろうか……?) 歩きながら、考えた。 (コーヒーを待っていたんだよな……?) 何故か足が速くなる。 (俺は…………!) どうやらやっと、俺は答えを見つけたらしい。 勢い良く、食堂のドアを開け放つが、そこには誰も居なかった。 ナマエはハンジの班だ……と、ハンジの執務室へ行けば、誰も居ない。実験かと探し回るが、どこにも居ない。 地下の実験施設がまだだったと、ドアを開ければ、半分寝ているハンジと……書類に書き込んでいるモブリットしか居なかった。 「クソ眼鏡、ナマエは何処だ?」 「ん〜?」 働いてるのかわからねぇ頭で考えているのか、首を捻っている。 「あれぇ? 今日は見てない気がするよ……モブリット……見た?」 「そういえば、姿を見てないですね。いつもなら、朝一番にスケジュール確認に来ますよね?」 「あぁそうだ……ナマエのコーヒー飲んでないから眠いんだよ! リヴァイもコーヒー届かないから探してるとか?」 「……」 いつもの冗談だとわかっていたのだが、上手く切り返せなかった…… 「えっ? もしかして本当に?」 眼鏡の奥の瞳がギラギラと光った。ヤバいと思ったが、今更だった。 「……いつもはどこにいるんだ?」 「執務室……?」 「誰も居なかったぞ」 「温室かなぁ……?」 「他の奴しか居なかった」 「り、リヴァイ……?」 驚いた顔のハンジとモブリットに……更に墓穴を掘った事を理解したが、こうなりゃもうどうでもいい。とにかく居場所が知りたい。 「他に居そうな場所はねぇのか?」 「もしかしたら、具合が悪くて休んでいるのかも知れないね」 「そういえば、ナマエさんは同室が居ないので、前に寝込んだ時も連絡が無くて心配しましたよね」 その可能性が高いと二人が話しているのを黙って聞いていた。 「具合が悪いかも知れないなら、仕方ない……」 俺は執務室へ戻るか……と、地下室を出ようとした。 「そうだ、リヴァイ……ナマエの様子見て来てくれないかなぁ?」 「何故、俺が……」 「え? あぁ、そうだよね。じゃぁ……モブリット、頼める?」 チラリと俺を見ながら、そう言ったハンジに舌打ちをしながらも…… 「部屋は何処だ……」 野郎になんか行かせられるか! と、場所を聞いた。 宿舎は皆出払っていて、当然ながら静まり返っていた。自分の足音がやけに響く。 ナマエの部屋の前まで来たが、ノックをしようとして躊躇った。 (何て……言えばいいんだ?) 暫く考えたが、わからない。だが、このまま戻っても仕事が手につかないのは明白だった。ならば……と、思い切ってノックをした。 ……返事がない。 諦めて戻るかと思った時に、ドアがカタカタと音を立てて、鍵の開く音がした。 待っても開かないドアに不思議に思って……外開きのドアをそっと引いてみようと、ノブを回した途端、ドアが勢い良く開き、ナマエが倒れ込んできた。 「おい、大丈夫か?」 咄嗟に抱き留め、抱え上げた。 返事もせずにぎゅっと首にしがみつかれて……思考が停止するかと思ったが、なんとか考えた。 (熱いな……それもかなり……) 首筋に顔を寄せるナマエの息は熱く…… 「へい……ちょう……?」 「あぁ……そうだ」 耳元で熱い吐息混じりに呼ばれ、体が錯覚を起こしそうになった。 このままじゃまずいと、部屋に入り、ベッドに降ろそうとしたのだが、離してくれない。 「やだ……いっちゃ……やだ……」 具合が悪いと寂しくなるとか……人肌が恋しくなるとか……そういったものだろうか。座ったまま抱き抱えていると、胸に頬を刷り寄せて微笑んだ。 (仕方ねぇなぁ……) 向きを変え、上体を後ろにゆっくりと倒し、横になって俺の上のナマエをそろりとベッドに寝かせた。 まだ、離してくれない。 横向きに、添い寝……というよりは、抱き合っている状態になった。 こうなったらもう、寝るまでは付き合ってやるかと諦めた。 「へいちょう……」 「あぁ、なんだ……?」 うわ言なのか、何度か呼ばれて返事をするが、居ることを確認しているのだろうか? その後はなにも言わない。 同じ体勢に疲れて、少し体を動かそうとすれば、足の間にナマエの足が滑り込み、絡めてきた。 「オイ……」 どうでもいい奴なら、最初に抱きついた段階で落としているだろう。そうじゃないと自覚しちまった状態で、これはキツい。寝惚けてるなら、お前が悪いと事に及んでも「仕方ねぇよなぁ?」と、言えるだろうが、病人相手にそうはいかねぇ…… 「……んっ……」 そんな事を考えている間に、更に密着させてくるナマエに困り果てた…… (お前の腹に押し潰されてるモノを……察して欲しいんだがな……) ナマエが大きく息をする度に、押され……擦られ……埋まる。妙な心地好さに流されそうになる。 離れてくれそうな気配も、眠る気配もない……俺も流石に退屈になり、尻でも撫でたら嫌がって離れるんじゃねぇかと思った。 柔らかい躰を背中から下へと手を滑らせると、軽く背を反らす様に動いた。これはいけるかと、今度は下から撫で上げてみたら、更に背を反らしたが、逆に下半身は余計に密着してしまった。 [ *前 ]|[ 次# ] [ main ]|[ TOP ] |