空の落とし物 2


会議の時間になっちまって、ナマエの様子もわからないまま、苛つくのを抑えながら、会議が終わるのを待った。
雛は……大人しく肩で寝ていた。

会議が終わってすぐに、ナマエの部屋へ行ったが、鍵が掛かっていて返事もない。
救護室へ行ったが、姿はなかった。

「ナマエの怪我はどんなだった?」
「瞼の上の傷が深くて、縫ったので、暫く片目は使わない様にしてください。今は包帯で押さえてあります」
「そうか……頬の傷は残りそうか?」
「何とも言えないです」
「わかった。世話になった」

部屋にも、救護室も居ないとなれば、後は……あそこか……と、急いで向かった。

「ナマエはいるか?」

ハンジの執務室に駆け込んで、部屋の主に訊いたが、驚いた顔で来てないと首を振った。

見つけられずに夜になった。明日になれば会えるだろうと……仕方なく眠った。




翌朝、執務室には見慣れない箱があった。開けて見て、即座に閉めた。出来れば見たく無かった……大量のミミズが入っていた。

(ナマエ……だよな?)

雛に急いで餌をやり、食堂へ行ったがナマエは居なかった。
部屋にも居る様子がなく、宛もなく歩いていたら、エルヴィンが声を掛けてきた。

「災難だったな……」
「……? 何の事だ?」
「何の事って、ナマエの怪我しかないだろう? リヴァイもよく許したなと思ったんだ」
「何の話だ? 俺は怪我した時以来、ナマエの姿を見てねぇんだ……」

何故、あいつは俺を避けている?

「……詳しく話せ」
「あ、あぁ……わかったから落ち着け」
「……すまねぇ」

俺は咄嗟にエルヴィンの胸元を掴んでしまった手を放した。

「今朝、ナマエが休暇届けと診断書を持って来たんだ」
「なっ!……」

何でだと言いそうになったが、エルヴィンの話を聞こうと飲み込んだ。

「期間は1週間、怪我が落ち着いて、目が開けられるのが大体そのくらいとなっていたから、許可をした。休暇中は家に戻るそうだ」
「……」
「知らなかったのか……」
「……あぁ」

エルヴィンの話では、その後すぐに発つと言っていたらしい。探しても居ない筈だよな。あいつは俺を……嫌いになったのか?

「俺の事は何か言っていたか?」
「いや、特に何も……」
「そうか……」

俺は、それ以上言葉を交わす気力もなくなって、執務室へと戻った。




リヴァイに「ごめんね」と言って駆け出した私は、救護室へ向かった。
目の上の傷は……痕が残ってしまうと医者は言った。頬も……わからないと。

顔に巻かれた包帯と貼られたガーゼは思ったよりも大袈裟に見えた。

「これじゃぁ、恥ずかしくて人前に出れないじゃないか……リヴァイだって、きっとこんなじゃ恥ずかしくて連れて歩けないよね……」

鏡の前からスッと退いて、椅子に座った。

(心配……してるかなぁ……)

私は、なんでヒナちゃんが襲ってきたのかが、何となくわかっていた。
親を……リヴァイを取られたくなかったんだと。私だって取られたくない。でも、気持ちはわかるから、離れようと思った。

フードを目深く被り、人目を避けて私は畑へ向かった。途中で落ちていた箱も見つけ……土を少し入れて、ミミズを集めた。

(リヴァイじゃ無理だもんね)

「逢いたいなぁ、寂しいなぁ……」

泣きながらミミズを探していた。誰も見ていないから良いけれど、かなりシュールな光景だと思ったら、笑えてきた。

1週間分は集まらなかった。ヒナちゃんは肉食の種類だったはずだから、本当はネズミや兎などの肉も食べさせてあげたいけど、私じゃ捕まえられない。

夜通し探して、ミミズは沢山集めた。
今日は丁度、早朝の市が立つ日だと思い出して、そこで比較的安価な鳥肉を買った。

急いで戻って……リヴァイの執務室にミミズを置いて、食堂で鳥肉を預かって貰って、リヴァイが来たら少しずつ渡して欲しいと頼んだ。最後に、団長に診断書と休暇届けを出して、私は馬車に乗った。




執務室で、雛は羽ばたき始めた。

「何だ?飛びたいのか?」

いつ飛べるのかなど、俺は知らない。俺の知識は……全部ナマエの受け売りだった。

「羽が散らかるから、此処でやるな……」

眉間に皺を寄せれば、ピタリとやめた。そろそろ、練習をさせても良いと言っていたな……

「来い」

ピョンと飛び乗る距離も、少し長くなった様だ。俺は訓練用の森へ行った。

適当な枝に停まらせると、理解しているのか、バサバサと羽ばたいて見せた。
何度も何度もそうしているが、飛ぶ気配はない。ただひたすら羽を動かしているだけの様だ。

「まだ、飛べる訳じゃねぇんだな……」

午前中は暇だったから、雛に付き合って……食堂へ行けば、小さな包みを渡された。

「これは何だ?」
「聞いてないのかい? ナマエちゃんから、兵長が来たら渡してって預かったんだよ。食事の度に少しずつ渡してくれって……その子の餌だって。仕方ないんだろうけど、贅沢な子だねぇ」
「あぁ、確かにな……」

自分の食事を済ませ、執務室で包みを開けると、雛は匂いを嗅ぐ様な仕草をみせた。

「お前は……わかっているよな?」
「ピィ」
「これも、ミミズも、ナマエがお前のために用意してくれたって……」
「ピィ」
「俺よりも、お前を大事にしてくれてたんだ……お前に傷つけられても……」
「ピ……」

まるで理解している様に……項垂れて、雛は目を閉じた。

「ナマエに感謝して食えよ……」

目の前に置いてやれば、器用に足で押さえて千切って食べた。


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