会議の時間になっちまって、ナマエの様子もわからないまま、苛つくのを抑えながら、会議が終わるのを待った。 雛は……大人しく肩で寝ていた。 会議が終わってすぐに、ナマエの部屋へ行ったが、鍵が掛かっていて返事もない。 救護室へ行ったが、姿はなかった。 「ナマエの怪我はどんなだった?」 「瞼の上の傷が深くて、縫ったので、暫く片目は使わない様にしてください。今は包帯で押さえてあります」 「そうか……頬の傷は残りそうか?」 「何とも言えないです」 「わかった。世話になった」 部屋にも、救護室も居ないとなれば、後は……あそこか……と、急いで向かった。 「ナマエはいるか?」 ハンジの執務室に駆け込んで、部屋の主に訊いたが、驚いた顔で来てないと首を振った。 見つけられずに夜になった。明日になれば会えるだろうと……仕方なく眠った。 翌朝、執務室には見慣れない箱があった。開けて見て、即座に閉めた。出来れば見たく無かった……大量のミミズが入っていた。 (ナマエ……だよな?) 雛に急いで餌をやり、食堂へ行ったがナマエは居なかった。 部屋にも居る様子がなく、宛もなく歩いていたら、エルヴィンが声を掛けてきた。 「災難だったな……」 「……? 何の事だ?」 「何の事って、ナマエの怪我しかないだろう? リヴァイもよく許したなと思ったんだ」 「何の話だ? 俺は怪我した時以来、ナマエの姿を見てねぇんだ……」 何故、あいつは俺を避けている? 「……詳しく話せ」 「あ、あぁ……わかったから落ち着け」 「……すまねぇ」 俺は咄嗟にエルヴィンの胸元を掴んでしまった手を放した。 「今朝、ナマエが休暇届けと診断書を持って来たんだ」 「なっ!……」 何でだと言いそうになったが、エルヴィンの話を聞こうと飲み込んだ。 「期間は1週間、怪我が落ち着いて、目が開けられるのが大体そのくらいとなっていたから、許可をした。休暇中は家に戻るそうだ」 「……」 「知らなかったのか……」 「……あぁ」 エルヴィンの話では、その後すぐに発つと言っていたらしい。探しても居ない筈だよな。あいつは俺を……嫌いになったのか? 「俺の事は何か言っていたか?」 「いや、特に何も……」 「そうか……」 俺は、それ以上言葉を交わす気力もなくなって、執務室へと戻った。 リヴァイに「ごめんね」と言って駆け出した私は、救護室へ向かった。 目の上の傷は……痕が残ってしまうと医者は言った。頬も……わからないと。 顔に巻かれた包帯と貼られたガーゼは思ったよりも大袈裟に見えた。 「これじゃぁ、恥ずかしくて人前に出れないじゃないか……リヴァイだって、きっとこんなじゃ恥ずかしくて連れて歩けないよね……」 鏡の前からスッと退いて、椅子に座った。 (心配……してるかなぁ……) 私は、なんでヒナちゃんが襲ってきたのかが、何となくわかっていた。 親を……リヴァイを取られたくなかったんだと。私だって取られたくない。でも、気持ちはわかるから、離れようと思った。 フードを目深く被り、人目を避けて私は畑へ向かった。途中で落ちていた箱も見つけ……土を少し入れて、ミミズを集めた。 (リヴァイじゃ無理だもんね) 「逢いたいなぁ、寂しいなぁ……」 泣きながらミミズを探していた。誰も見ていないから良いけれど、かなりシュールな光景だと思ったら、笑えてきた。 1週間分は集まらなかった。ヒナちゃんは肉食の種類だったはずだから、本当はネズミや兎などの肉も食べさせてあげたいけど、私じゃ捕まえられない。 夜通し探して、ミミズは沢山集めた。 今日は丁度、早朝の市が立つ日だと思い出して、そこで比較的安価な鳥肉を買った。 急いで戻って……リヴァイの執務室にミミズを置いて、食堂で鳥肉を預かって貰って、リヴァイが来たら少しずつ渡して欲しいと頼んだ。最後に、団長に診断書と休暇届けを出して、私は馬車に乗った。 執務室で、雛は羽ばたき始めた。 「何だ?飛びたいのか?」 いつ飛べるのかなど、俺は知らない。俺の知識は……全部ナマエの受け売りだった。 「羽が散らかるから、此処でやるな……」 眉間に皺を寄せれば、ピタリとやめた。そろそろ、練習をさせても良いと言っていたな…… 「来い」 ピョンと飛び乗る距離も、少し長くなった様だ。俺は訓練用の森へ行った。 適当な枝に停まらせると、理解しているのか、バサバサと羽ばたいて見せた。 何度も何度もそうしているが、飛ぶ気配はない。ただひたすら羽を動かしているだけの様だ。 「まだ、飛べる訳じゃねぇんだな……」 午前中は暇だったから、雛に付き合って……食堂へ行けば、小さな包みを渡された。 「これは何だ?」 「聞いてないのかい? ナマエちゃんから、兵長が来たら渡してって預かったんだよ。食事の度に少しずつ渡してくれって……その子の餌だって。仕方ないんだろうけど、贅沢な子だねぇ」 「あぁ、確かにな……」 自分の食事を済ませ、執務室で包みを開けると、雛は匂いを嗅ぐ様な仕草をみせた。 「お前は……わかっているよな?」 「ピィ」 「これも、ミミズも、ナマエがお前のために用意してくれたって……」 「ピィ」 「俺よりも、お前を大事にしてくれてたんだ……お前に傷つけられても……」 「ピ……」 まるで理解している様に……項垂れて、雛は目を閉じた。 「ナマエに感謝して食えよ……」 目の前に置いてやれば、器用に足で押さえて千切って食べた。 [ *前 ]|[ 次# ] [ main ]|[ TOP ] |