馬車に揺られて……町からかなり離れた集落に着いた。周りは広い草地や畑がある、のどかな所に、私が育った家はある。 「お姉ちゃん、ただいま……」 ノックして、開いた扉の中の人物は驚いた顔をしていた。 「ど、どうしたの……その顔!」 「怪我しちゃって……休暇貰って……」 もじもじする私を招き入れ、お茶を入れて来ると言って、私をソファーに座らせて、お姉ちゃんが台所に立った。 お姉ちゃんと言っても、本当の姉ではない。私は両親を亡くして、幼い頃にこの家に来た。兄弟の居なかった私は、優しいお姉ちゃんが大好きだった。もちろん、今も。 「ナマエ……怪我しただけじゃないんでしょう?」 テーブルにカップを置いたお姉ちゃんは、私の横に座って……そっと抱き締めてくれた。 「な……んでっ……バレちゃうの……かなぁ……」 「さぁね。顔に書いてあるからかしらね」 優しく頭を撫でてくれる手が、リヴァイの手だったらと思うと、涙が出て来た。 「いっぱい我慢したね」 私はお姉ちゃんに経緯(いきさつ)を話した。 昔、お姉ちゃんが大好きで、お姉ちゃんの友達が凄く嫌いで、嫌で……いなくなっちゃえばいいと思ったことがあった事も。 だから、ヒナちゃんは私が邪魔だったんだろう。私はヒナちゃんに幸せを味わって欲しかった……と。 「ナマエは優しいね。いい子だね」 「お姉ちゃん……」 「でも、大事な事……ひとつ忘れちゃったね」 「……えっ?」 「ヒナちゃんは幸せかもしれないけれど、彼はどうかしら? 黙って居なくなったら、悲しくはないかしら?」 「だ、だって……こんな顔見せたくないもん」 治ったら、いっぱい謝って……いっぱい叱られなさい……そう言って、お姉ちゃんは笑ってくれた。昨日寝ていなかった私は……そのまま眠ってしまった。 あれから5日……ナマエに会っていない。 餌を雛にやりながら、ナマエを思い出していた 俺は、心配そうに覗く雛に気付いた。 「何だ、俺が心配か?」 頭を撫でようとすれば、自分から擦り寄せて来る。可愛いと思う気持ちは、こんな感じなんだろうと思いつつ、撫でてやるとうっとりと目を閉じた。 今日は何となくだが、飛びそうな気がして、立体機動を装備した。親みたいにはいかねぇだろうがな…… 枝から飛び上がった雛は、飛ぶと言うよりは、前に進みながら落ちて来た。俺の足元に着地……と言うには無様な格好で転がった。今度はそこから枝に飛ぼうと走りながら羽ばたいて、何度も何度も飛び上がろうとしていたが、飛び上がるための踏み切りの様な物がなく、惰性で進んでいるだけだった。 「付いて来い!」 俺は走りながらアンカーを飛ばし、強く踏み切って見せた。その横で一際大きく羽ばたいた雛は、体を浮かせ舞い上がった。 「……出来るじゃねぇか」 乗る予定だった枝を蹴って、俺が先へと跳べば、雛も最初はふらついていたが、段々とスピードも出て来た。そのまま森を突っ切り、草地に降りた。 少し遅れて来た雛は上手く羽ばたいてスピードを殺し、ふわりと肩に降り立った。 「良く出来たな」 頭を撫でてやりながら、森へ帰す日が近いのかと思ったら、少し寂しく感じた。 帰りは、手に乗せて投げ上げてやり、俺が追う形で飛んだ。たまに揺さぶりを掛けてみたが、上手く避けていた。上達の早さに驚いた。 明日はナマエが帰って来る…… 喜んでくれるだろうか? ……いや、その前に、俺は会って貰えるのだろうか? あの時の「ごめんね」の意味は、未だにわからないままだった。 ゆっくりと、寂しいけれど温かい時間を過ごした私は、姉に背中を押されて馬車に乗った。 正直、帰っても自分の居場所などもう無いのだろうと思う気持ちが大きい。それでも、今、私の帰る場所はあそこなのだとお姉ちゃんは言った。 「本当にダメだったら、此処に帰って来なさい」 お姉ちゃんは優しく笑って手を振ってくれた。私は頷いて手を振って、「ありがとう」と小さく言った。 目的の場所が近付くにつれ、私の気持ちは沈んでいった。リヴァイに会うのが怖い。今更何だと言われたらきっともう……私はダメだろうと思うと、帰りたくなくなってしまう。ヒナちゃんも、私なんか見たくもないだろう…… どんなに気持ちが沈んでいたって……帰りたくないと思ったところで、頼んだのだから……着いてしまった。 食事もお風呂も終わった時間、人気の少なくなった兵舎の、更に人気の少ない通路を選んで自室へ向かった。 うまい具合に誰にも会わずに辿り着いた。 [ *前 ]|[ 次# ] [ main ]|[ TOP ] |