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「つー訳で、さっさと飯作れ。メニューは肉だ」
「えっ!」
命令…指示された言葉に驚いて声を上げてしまった。
聞こえたよな。すっげぇ睨んでるし。
声上げるぐらいは許してくれよ。
「発言を許可してやるから何が言いたいのか言え」
今の状況で発言を許されるのは怖い。
まだ黙れだの何だの言われる方がましだ。
しかも滅茶苦茶視線感じる…!
もう言うしかないよな。
「う、噂で、肉は食べないって、聞いたから」
だから俺は驚いたんだよ。
清隆寺の有名な噂。
『ウサギは野菜しか食べない』
白い髪に紅い瞳、おまけに名前に『兎』が入ってるから誰がそう呼んだのが始まりかは知らねぇけど清隆寺は『ウサギ』と影で呼ばれたりしてる。
おまけに見た目は小柄で可愛らしい部類だしな。
今の俺にはもう、ウサギなんて可愛いもんに見えない。
「テメェはそんな下らねぇ噂信じてんのか?」
ただ静かに、確実に怒気を含んだ声が耳に届く。
ああああ殺される。こいつならマジで殺る。
「あれはなぁ、俺様を馬鹿にしてるバ会長が勝手に言い触らしてるガセネタだ」
あ、あれ会長が。
あの人なら清隆寺の神経逆撫でする事ぐらい簡単にしそう。
いや、そんな事実より今は清隆寺を宥める方法が知りたい。
立ち上がろうとするもんだから思わず後ろに尻餅をついて後退る。
「テメェも俺を馬鹿にする気か?上等だ。生まれてきた事を後悔させてやるよ」
こっえぇぇぇぇ!!
俺、だから、人畜無害だからマジで!
つか、これ地雷だったのかっ!!
くそうっ…
「せっ、清隆寺と!」
「あぁん?」
「清隆寺と、これからな、仲良くやっていきたくて、色々話を聞いたんだよっ。ま、まさかガセネタだったなんて…」
視線を合わせらそれを引き金に殺られそうだったからうつ向いて言い訳を紡ぐ。
半分嘘で半分本当だ。
清隆寺に憧れた時から地味に清隆寺の噂とか聞いて覚えてた。
野菜しか食べないとか、可愛い顔をして夜は小悪魔とか、長年片想いの相手が居るとか。
あー、やっぱ噂は当てにならねぇ。
実際、清隆寺と喋ったら全部嘘だったって分かる。
「おい」
「……」
「返事しろ。潰すぞ」
「はいぃぃっ!」
だから何を潰すんだよっ!
肩を竦めて返事をすると髪を掴まれて無理矢理顔を上げられた。
見たら怒られるから自然と視線を伏せる。
清隆寺の口許しか見えてないけど、綺麗な笑みを浮かべてた。
「俺は下僕と仲良くする気なんか更々ねぇからな」
ですよねー。
声と口許だけは爽やかなのにな。
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mokuji]