この部屋で、自分がいる間はいつも骸との溝を埋めようとしていた。会話だとかセクハラだとか身体だけの繋がる行為だとか。
じゃあ、自分がいない間は?
「骸クンっていっつもこのへやで何してんだろ」
そう思い、骸クンがシャワーを浴びている間にうろちょろと部屋を探索する。
隣の書斎は自由にしていいと言ったから恐らく本を読んでいるのだろうが、一日中なんて気がふれそうな。
案の定何冊か本が見つかる。ジャンルは全て哲学や宗教学で、恋愛小説など読んでいたら可愛いのに、と勝手なイメージダウンだ。
しかしこれだけで長い一日を過ごすのだろうか。
「なんかないのかなぁ」
後は書斎から持ってきたらしいDVDの映画をスクリーンで見ているようで、いくつかドキュメントのパッケージが積まれていた。
ここまで真面目だとは。
「…はげしいAVとかおいたらどんな顔するんだろ…?!」
はっと閃いた悪知恵は小さい姿になっても健在だ。
恥ずかしがったりするのかもしれない、なんて考えると頬がにやけた。そんな初心な骸クン、レアすぎるでしょ。
初めて押し倒したときだって、けして怯えてはいなかった。
どこか諦めたような顔をしたまま、大人しく組み敷かれていた。
悔しさのあまり感情のまま乱暴に抱いてしまったが、彼は一体どう思っているのだろう。
「……考えるまでも、ないか」
「何がです?」
声に振り向くと、長い髪の先から水を滴らせバスローブを纏った骸クンがいた。
正に水も滴るいい男ってやつ。
「わ、骸クンいろっぽーい」
「はぁ…?」
「ねえ、髪、乾かしてあげるよっ?」
遠慮の言葉を口にされる前に、と骸クンの手を引っ張って洗面所に連れ戻す。
骸クンの隣に立った瞬間、ふんわりと香った林檎の香りに何か引っかかるものを感じた。
甘くて酸っぱいにおい。
「いいにおい、この林檎のにおいなあに?」
「入浴剤ですよ、鈴蘭は好きですか?」
「うん、甘いにおいは好き」
「そうですか」
骸クンを見上げると何だろう、複雑そうな顔をしていた。
理由を考えた瞬間、あっ、と声が出かかった。
それを必死に喉で食い止め、なんでもないふりを装う。
この入浴剤は、僕が贈ったものだ。