「…」
なんだこの可愛いイキモノは。
「ぅ…、ん………」
鈴蘭と名乗った、白蘭によく似た子供と一緒にベッドに入った(断じて厭らしい意味ではない)のが最後の記憶。
先に寝てしまったのはこちらが悪いのだが、だからと言って、だからと言ってどうしてこんなに可愛いことになっているのだ。
いま鈴蘭は僕の胸元にすっぽり収まり、ワイシャツに皺が出来るほどしっかりと握りしめている。
(有り得ない…)
子供に懐かれる方ではないし、自分も子供が好きな方ではない。はっきり言ってうざったらしいと思う。
だが、庇護欲を掻きたて、胸中を乱すこの小さな存在。どうして今までそんなふうに考えていたのか、よく分からなくなるほど可愛い。
力の加減をしながら、そっと抱き締めるとぽかぽかと温かい。それに、やわらかい。
「ぬいぐるみみたいです…っ」
卒業して久しいクマが懐かしくなってしまい、ついぎゅうっと抱き締めてしまったら、んん、とうめき声が聞こえたので慌てて離れた。
しかしよほどシャツを掴む手の力が強かったらしく、結果的に鈴蘭をひっぱることになった。
「っあ!」
「…んー…あ、おはよ骸クン」
「す、鈴蘭、起こしてしまいましたね…」
ぽけっとして何事か理解できていないらしく首を傾げる鈴蘭。
丁度いいので鈴蘭の手を解いて起き上がり、壁に掛けられた時計を確認する。長針を短針はぴったり重なって1をさしていた。
「すっかり寝てしまいました…」
「ふわー、よく寝たぁー」
「…クフフ」
無邪気に顔をほころばせる鈴蘭に癒されて笑うと、つられたように彼も笑う。
「骸クンおなかすいてない?ぼくペコペコ」
「そうですねぇ」
視線をテーブルの方に移すと、朝食と昼食と見られる食事が置いてある。気を遣って起こさないでくれたのだろう。
僕の見る方に気付いた鈴蘭は嬉しそうな声をあげ、ベッドを降りてかけていった。