03 | ナノ

03


「…」


なんだこの可愛いイキモノは。


「ぅ…、ん………」


鈴蘭と名乗った、白蘭によく似た子供と一緒にベッドに入った(断じて厭らしい意味ではない)のが最後の記憶。
先に寝てしまったのはこちらが悪いのだが、だからと言って、だからと言ってどうしてこんなに可愛いことになっているのだ。


いま鈴蘭は僕の胸元にすっぽり収まり、ワイシャツに皺が出来るほどしっかりと握りしめている。


(有り得ない…)


子供に懐かれる方ではないし、自分も子供が好きな方ではない。はっきり言ってうざったらしいと思う。
だが、庇護欲を掻きたて、胸中を乱すこの小さな存在。どうして今までそんなふうに考えていたのか、よく分からなくなるほど可愛い。
力の加減をしながら、そっと抱き締めるとぽかぽかと温かい。それに、やわらかい。


「ぬいぐるみみたいです…っ」


卒業して久しいクマが懐かしくなってしまい、ついぎゅうっと抱き締めてしまったら、んん、とうめき声が聞こえたので慌てて離れた。
しかしよほどシャツを掴む手の力が強かったらしく、結果的に鈴蘭をひっぱることになった。


「っあ!」

「…んー…あ、おはよ骸クン」

「す、鈴蘭、起こしてしまいましたね…」


ぽけっとして何事か理解できていないらしく首を傾げる鈴蘭。
丁度いいので鈴蘭の手を解いて起き上がり、壁に掛けられた時計を確認する。長針を短針はぴったり重なって1をさしていた。


「すっかり寝てしまいました…」

「ふわー、よく寝たぁー」

「…クフフ」


無邪気に顔をほころばせる鈴蘭に癒されて笑うと、つられたように彼も笑う。


「骸クンおなかすいてない?ぼくペコペコ」

「そうですねぇ」


視線をテーブルの方に移すと、朝食と昼食と見られる食事が置いてある。気を遣って起こさないでくれたのだろう。
僕の見る方に気付いた鈴蘭は嬉しそうな声をあげ、ベッドを降りてかけていった。


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