静かな寝息を立て出した骸の寝顔に見惚れながら、白蘭は視界を必死で維持する。
(本当に気付かれなかった…)
もともとそのつもりだったとはいえ、骸クンのことだからすぐに悟って鼻で笑われるに違いないと思っていた、のに。複雑な気分だ。
結果だますことになってしまったけれど、少しの間くらいならきっといいはず。
(というか、なんであんな笑顔なのさ)
暗い気分がもやもや、心の中に蔓延っていく。
僕がいつも尋ねるときは不機嫌そうにむすっとしてきつい声色なのに、「鈴蘭」には柔らかい表情で優しい言葉。
ああこれが嫉妬か。
「自分に嫉妬ってのもおかしい話だけどさー…」
「んー…、…」
「てか、ほんとに寝てなかったのかなぁ」
独り言を呟いても目覚めないところを見ると眠りが深いことが分かる。それに、先ほど指で確認した見間違いじゃない目の下のクマ。
(僕を待ってた、とか、だったら、いいのに)
切なすぎる願望は流石に声に出せず、胸の中にまたもやもやと溜まっていく。
もういい、考えるのはよそう。強制的に心をシャットダウンし、目を閉じる。
どうせこちらも寝ていない、お誘いに乗るのが賢い選択だ。
そうは思っても、重く黒い気分は悪夢を見せそうで、骸の服の裾を握ってやっと白蘭は眠りにつけたのだった。