×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

08


真っ直ぐ家に帰ろうかと思ったけど、あたしは何となくまた屋上に来ていた。
梯子で給水タンクの所まで上ってタンクに寄りかかって座った。
この場所は空が近くて気に入ってる。
曲を作るのもここだとインスピレーションがよく働くし、伸び伸び歌えるのもいい。
五線譜とペンを鞄から取り出して思い付くままに音符を書き込む。

―――ギターがあれば、試し弾き出来るのになぁ。

やっぱりいつも傍にあるモノがないと落ち着かない。
エアギターで再現してみても、イマイチ物足りない。
仕方なしに鼻歌で音を再現して確認する。

ん〜、ここはもうちょっと高いキーでアクセントつけた方がいいかな…。

膝の上の五線譜にバツ印をつけては新しく書き込んでいく。
暫く作業に勤しんでいると、パタパタと羽音が聞こえてきた。
顔を上げると1羽の黄色い小鳥がこちらに飛んで来るのが見える。
五線譜を置いて立ち上がり包帯の巻かれた手を伸ばすと、その小鳥は警戒するコトもなく指先に舞い降りた。


「おまえ、また来たの?」


話しかけると小鳥は首を傾げた。
最近ここで歌を作ってるとこの子とよく遭遇する。
種類はよく分からないけど、頭が良いみたいで人の言葉をたまに話すの。
しかも誰が教えたのかうちの校歌歌うんだよね。


「ミ〜ドリタナ〜ビク〜、ナァミィモォリィノ〜♪」

「ぶっ!ちょっとそれ違うよ。良く聴いて?
 みーどりたなーびくー、並盛の〜♪ はいっ」

「ミードリタナービクー、ナミモリノ〜♪ ハイッ」

「惜しいっ『ハイッ』はいらないの」

「ナミモリ〜、ナミモリ〜♪」


楽しそうに校歌をさえずる小鳥に頬が緩む。
この子も歌好きなんだなぁ。
それともこの子に校歌を教えた人が歌好きなのかな?
小鳥と一緒に校歌を歌っているうちに、どんどん気持ちが安らいで楽しくなってきた。
ハードだった今日の出来事が嘘みたいで。

やっぱり歌ってると落ち着く。

3番まで歌い終えて、また初めから歌い出した小鳥と一緒に歌っている時だった。
キィッとドアの開く音がした。続いて梯子を上る音。
小鳥と校歌を口ずさみながらそちらを見る。
そしてひょっこり現れた人物に、歌っていた声がつまる。
ひ、雲雀さん…!巡回に行ったんじゃ…?!


「……君、だったのか」


少し驚いたように目を見開いた雲雀さんは、そのまま梯子を上り切った。
指先に止まっていた小鳥が「ヒバリッヒバリッ」と嬉しそうに彼の肩へ飛び移る。
ま、まさか、あの子雲雀さんの鳥なの?!
じゃぁ校歌教えたの雲雀さん?!
あの雲雀さんがそんなお茶目なコトを…?!
あぁ!いや、そうじゃなくて!ど、どうしよう。
これってもしかして絶体絶命?!
雲雀さんは梯子の前に立ってるし、ここから飛び降りても校舎に駆け込む前に捕まってしまう。
ギターも返して欲しいし…。

覚悟、決めますか…。

雲雀さんはあたしのすぐ傍まで歩いてくると、不敵な笑顔を浮かべた。
か、カッコいいんだけど、怖い…!
えぇぃ!怯むなあたしっ
向かい合って、雲雀さんを真正面から見据える。


「へぇ、逃げないのかい?」

「―――逃げても無駄な気がしたんで」

「ふぅん。いい度胸だね。嫌いじゃないよ、そういうの」


…あれ?いきなり殴られるかと思ったけど、そんな素振りは見られない。
朝より怖くないかも。機嫌いいのかな?
これならギターの話も切り出しやすいし、もしかしたら返してもらえるかもしれない。
まずは様子見に…思い切って話しかけてみよう。


「あ、あの」

「何」

「2回も押し倒しちゃってすいませんでした。
 それから、えっと、保健室運んでくれたって聞きました。
 ありがとうございます!あと手当もしてくれたって…」

「…気まぐれだよ」

「それでもありがとうございました」


ペコッと頭を下げると雲雀さんは「別に」とぶっきらぼうに呟いて肩の小鳥に顔を向けた。


「あ、あの」

「今度は何だい?」

「ギター…返してもらえませんか?」

「それは出来ないよ。あれは学業に不必要なモノだからね」
 
「で、でも!あのギターはあたしにとって凄く大事なモノなんです!
 初めて買ってもらったギターなんです!お願いしますっ返して下さい!」


殆ど涙目で雲雀さんに詰め寄るようにして訴える。
雲雀さんは肩の小鳥の方を向いたまま視線だけこちらに向けた。
値踏みするように上から下まであたしを見ると、口元に薄く笑みを浮かべた。
こ、怖い…。


「校歌、歌ってよ」

「へ?」

「さっきこの子と歌ってたみたいに歌ってよ。
 そうしたら考えてあげてもいいよ」


そう言って彼は小鳥を自分の指に止まらせて、あたしの眼前に差し出してきた。


ひ、雲雀さんの前で歌えだとぉーーーーー!


何故校歌?!
唯でさえ怖いの我慢してるのに、こんな状態で歌っても喉絞まってて声出ないよっ
雲雀さんが提示した予想外な条件にあたしはダラダラ脂汗を掻くしかなかった。



2008.9.14


|list|