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- ナノ -

06


う、うーん…ここは…どこ?
目を開けると白い天井と窓辺で揺れるカーテンが見えた。
薬が置いてある棚が目に入る。
―――保健室?
ボーッと辺りを眺めていたら横から声をかけられた。


「気が付いた?」

「……ツナ。授業は?」

「今お昼休みだよ。はぁ、良かったぁ〜。
 獄寺君が教室に駆け込んで来て、雅ちゃんが倒れたって聞いた時は驚いたよ」


そっか。あたしあのまま気を失ったんだ。
目を開けたら天国でしたってオチじゃなくて良かった…!
獄寺め…!節操なくダイナマイト投げやがって。
―――弾き飛ばしたのは雲雀さんだったけど。
取り敢えず凶悪な風紀委員長からは逃れられたみたいでホッと胸を撫で下ろす。


「もうすぐ獄寺君と山本も来るよ。シャマルがここで弁当食べていいってさ」


ツナがお弁当をくぃっと持ち上げた。
その許可を出してくれたシャマル先生の姿はこの部屋に無かった。
昼食を取りに外に出掛けたんだろうか。

それにしてもツナの声が少し聞き取り難い。なんかくぐもって聞こえる。
ベッドの上に起き上がって「あー、あー」と声を出して耳をポンポン叩くと、ツナが心配そうにしながらも苦笑した。


「至近距離で爆発音聞いたから、少し耳おかしく感じるかもって。
 でも暫くしたら治るから心配要らないってシャマルが言ってたよ」

「そっか。ならいいや。ところでさ、誰がここまで運んでくれたの?獄寺?」

「そ、それが…」


ツナが途端におどおどし出す。
え?またあたし変なコト訊いたかな…。
ツナは怪談話でもするようにちょっと声のトーンを落とし、小声で言った。


「それがさ、獄寺くんとシャマルの話だと雅ちゃん運んだのって……ヒバリさんらしいんだよね」

「…へ?ひ、雲雀さん?!」


意外な人物の名にあたしは思わず目を見開いた。
ツナはコクンと頷いて、話を続ける。


「う、うん。オレついさっき来たんだけど、ヒバリさんここ座ってジーッと雅ちゃんのこと見ててさ」

「えぇぇ!!何で?!どうして?!」

「い、いやオレにも分かんないけど。あ…もしかしたら…」

「な、何?!」

「シャマルがいたからかなぁ…なんて。ほら、あの人エロいから。女子と見ると見境なく迫るでしょ?
 何ていうか、雲雀さんなら風紀が乱れるって怒りそうじゃん?」

「えぇ!まさか…シャマル先生があたしにちょっかい出さないように見張ってたって言うの?!
 …そんなコトあるわけないよ。だってさっき雲雀さんにボコられかけたんだよ?
 あたしがどうなったって雲雀さんには関係ないじゃない」

「まぁ、だからオレもイマイチ分かんないんだけどさ。
 それから、凄く言い難いんだけど…」

「今度は何…?」

「えっとさ、雲雀さん没収するって雅ちゃんのギター持ってっちゃったんだよね」

「う、嘘!!!」


慌ててベッドの周りを見たけど、ツナの言うとおり自分の鞄があるだけでギターがない。
あたしの命よりも大切なギターが…!!!
よりによってあの雲雀さんに持っていかれただとーーー?!
ガシッとツナの襟首を掴まえて激しく揺する。


「どーして阻止してくれなかったのよぉぉぉっバカツナ!
 あたしがどれだけあのギター大事にしてるか知ってるでしょぉ?!!」

「わわっし、知ってる!知ってるけど、ヒバリさん相手じゃオレには無理だよ…!」

「やってみる前から諦めるな!男なら当たって砕けろ!!」

「それシャレになんないよ…!ヒバリさんだよ?!」


ガクガク揺さ振られながら彼は何とも情けない台詞を吐いた。
ちょっとはしっかりしてきたと思ったのに、ダメっぷりは健在か…!
恐怖に固まったツナの前を意気揚々とギターを持って通り過ぎる雲雀さんの姿が目に浮かぶ。
ツナに当たったってしょうがないんだけど、雲雀さんからギターを取り返せる自信なんかない。
あれは大事な相棒なんだよ…っ


「あぁ、もう!どうしよう!」

「あ、コラ!アホ女!10代目から手を離せっ」

「なんだ!元気そうじゃん、音ノ瀬!」


ツナが抵抗しないのを良いコトに力いっぱい揺さ振ってやり場のない気持ちをぶつけて解消していると、獄寺と山本がドアを開けてやってきた。
獄寺は凄い剣幕でツナとあたしの間に割って入って眼を飛ばしてきた。
対照的に山本はニコニコ人懐っこい笑顔を浮かべ、近くにあった椅子を持ってベッドの脇にやってきた。


「獄寺!雲雀さんから助けてくれようとしたのは感謝するけど、あたしまでダイナマイトで吹っ飛ばしてどーすんのよ…!」

「っるせ!オレだって考えて火薬の少ないダイナマイト使ってたんだ!
 結果的にヒバリから逃げられたんだからいーじゃねーか!」

「良くない!もっとスマートな救出してよね!
 第一あたし逃げ延びたんじゃなくて、気を失ったんじゃんっ」

「だぁー!うるせっ!これだから女は嫌だぜ。ほらよ!」


彼はそっぽを向きながら、つっかかるあたしにビニール袋を投げてよこした。
中を覗くと焼きそばパンと牛乳が入っていた。


「何よ、これ」

「あー、オレのダイナマイトのせいでおめーの弁当ぶちまけちまったんだよ。
 だから、その、なんだ。代わりだよ、代わり!」


獄寺は頭をガシガシ掻きながら小声で「悪かったな」と言った。
思わずぽかーんとしてしまった。
だって獄寺がツナ以外に謝ってるところなんて見たコトなかったんだもん。
帰りに槍でも降るんじゃないの…?


「あはは!獄寺照れ屋なのな!こいつ音ノ瀬のことスッゲー気にしてたんだぜ?」

「!てめっ一言多いんだよっ」

「まぁまぁ!落ち着けって。昼飯食おうぜ?
 オレもう腹減って死にそうだぜ。あ、ちなみに焼きそばパンは獄寺で、牛乳はオレチョイスな!」


ニカッと笑ってそう言うと、山本はさっき持ってきた椅子に腰掛けてお弁当を楽しそうに広げた。
獄寺も舌打ちしながら腰を落ち着けてビニール袋から自分の分の焼きそばパンを取り出した。
ツナも広げ出したから、あたしもそれに倣う。
今更気が付いたけど両手に包帯が巻いてあった。
膝も手当してある。
雲雀さんに睨まれながら、シャマル先生が手当してくれたんだろうか。
焼きそばパンに齧り付きながら自分の手を矯めつ眇めつ眺めていると、それに気が付いた獄寺が口を開いた。


「それ、やったのヒバリの野郎だぜ」

「え!シャマル先生じゃないの?」

「あぁ。シャマルが手当しようとしたけど突っぱねられたってよ。
 獲物だって言っておきながら、オレのダイナマイトから守ったり保健室に運んで手当したり…。
 あの野郎、何考えてんだかさっぱり分かんねぇぜ」


雲雀さんの不可解な行動に少し苛々した様子の獄寺は缶コーヒーを口に運んだ。
雲雀さんが、手当をしてくれたなんて…。
もう一度手に巻かれた包帯を見る。
確かにシャマル先生が巻いたにしてはちょっと荒く素人っぽい巻き方だ。
今朝トンファーを突きつけてきた人が、狙ってた人間の手当なんてするものかな。
彼の言うとおり、本当に何考えてるのか分からない…。

あぁ!でもそれよりあたしのギター…!!

獄寺と山本らしい昼食のチョイスにちょっと心が和んだけど、ギターが気になって上の空で昼食を済ませた。



2008.9.6


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