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05


うわあぁぁぁぁぁぁんっ!!!

今朝も当たり前の様に寝坊をしたあたしは、通学路をひた走っていた。
昨日あんな怖い目に遭っておきながら、何で寝坊した…!
ホントあたしバカッ
ま、まぁ、あんな目に遭ったからこそ、ドキドキしちゃって眠れなかったんだけど…。
ドキドキの理由が良く分からなくて、ご飯食べてる時も、お風呂入ってる時も、ベッドに入ってからもモヤモヤが消えなかった。
原因を突き止めるのを諦めて寝ようとするのに目を閉じると、雲雀さんの怖い顔思い出しちゃうし。
条件反射で家を飛び出してきちゃったけど、学校に行ったら雲雀さんに遭遇してしまう。

それを思うと走っていたスピードが自然と緩む。

彼に捕まったらただで済むとは思えない…。
でも学校はもう目の前。
遅刻ばっかしてるし出席日数もヤバいし、取り敢えず行かなきゃ…だよね。
…雲雀さんも他の風紀委員も今授業中だろうし。
上手く隠れれば、今日も捕まらなくて済むかもしれないし。
そんなに悪いコトが続くわけない…よね?
うん、ない。よし、行こう!


***


いつもの校舎裏の塀まで人目を避けてやってきた。
よしよし、誰もいない。
あたしは慣れた手つきで塀をよじ登って飛び越えた。
スチャッと着地も決めて、昇降口に向かおうと一歩踏み出したその時。


「やっと見つけたよ。音ノ瀬雅」


え゛…?!
今一番遭遇したくない人物の声に、身体が硬直する。
漫画だったらギギギッて効果音がつきそうなくらい不自然に振り返る。
そこには我らが並盛中風紀委員長雲雀恭弥が、たった今あたしが飛び越えた塀に腕を組んで寄りかかっていた。

その顔には獲物を追い詰めた肉食獣のような残忍な微笑。

こ、こ、ここここここわっ!!!
どんな風に笑うんだろうって思ったあたしがバカでした!
そんなおっかない顔で笑わないで下さいっ
っていうか何でそんな所にいるんですかっ
気配なんて感じなかったし、あんた忍者か?!
大体、あたしが必ずここを通るとも限らないのにいつから待ってたんですか?!
そんなにあたしに押し倒されたのムカついたんですか?!
雲雀さんは塀から離れ組んでいた腕を解くと、どこからともなくトンファーを取り出した。


「昨日の今日でまた遅刻するなんて、君いい度胸だね」


ヤバ…ッ逃げなきゃ完璧殺される…っ
でも怖過ぎて身体が動かない!


「遅刻の常習犯な上に、スカートも規定より短いよね?
 それにその背中のギター。うちには軽音楽部はないと思ったけど?」


ゆっくりとけれど力強い足取りで彼は近付いてくる。


「風紀を乱すのは許せないな」


逃げなきゃあのトンファーで殴られるって分かってるのに、根が生えてしまったように足が動かない。
正に蛇に睨まれた蛙状態。


「おまけに二度も僕を押し倒してくれたよね」


遂に雲雀さんは立ち尽くすあたしの目の前に来てしまった。
トンファーを器用にクルッと一回転させると、そのままあたしの首に突きつける。
な、殴られるかと思った…!
首に感じるひんやりとした感触にゴクリと唾を飲み込む。


「……捕まえた」


彼は不敵な笑みを浮かべたまま、首に当てた得物をずらしてあたしの顎を掬い上向かせる。


「ねぇ、僕の話聞いてる?黙ってないで何とか言いなよ」


雲雀さんは今の状況を明らかに愉しんでいる。


「…あぁ、怖くて喋れないの?まぁいいや。責任、取ってもらうよ」


雲雀さんはお互いの呼吸が分かるくらい顔を寄せて、不敵に笑った。
せ、責任?!
普通そんなコト言われたら赤面するんだろうけど、あたしは一気に蒼褪めた。
こんなか弱い女の子をどうするつもりですか…!
フルボッコですか?!
お父さん、お母さん…!貴方達の可愛い愛娘は、今朝見た顔と違う顔になるかもしれません…っ
雲雀さんが動いて、背中に冷たいモノが走った時だった。


「音ノ瀬?!」


あたしを呼んだのはツナを10代目と慕い、自称その右腕の獄寺だった。


「ご、獄寺…!」


クラスメイトの顔に安堵して身体の硬直が解ける。た、助かったかも…!
雲雀さんはあたしの声を聞いて一瞬身体を硬くしたみたいだけど、トンファーであたしの顎を掬い上げたまま顔だけ獄寺に向けた。


「ヒバリ…!てめぇ何してやがる」

「君こそ授業中だろ。こんな所で何してんの」

「うるせー。女襲ってるヤツに言われたかねーよ」


多分授業サボって一服しに来たんだ。
いつの間にか雲雀さんから笑顔が消えてる。
彼は心底不機嫌そうに溜め息を吐いて獄寺を睨んだ。


「今取り込み中なんだ。僕の邪魔しないでくれる?」

「そういう訳にもいかねー。そのアホ女は10代目のダチなんだよ。
 このままおいてったら10代目に顔向け出来ねぇ!」


獄寺は目であたしに合図を送るといつも持ち歩いてるダイナマイトに火を点けた。

数え切れないダイナマイトが宙に舞う!

お、おぃ!!いくらなんでも多過ぎ…っ
慌てて逃げ出そうとしたあたしの前に、雲雀さんがスッと足を出して引っ掛けた。

ちょ…!!!いったぁ…っ

昨日怪我したのと同じところをまた打った。
あくまでも逃がさないおつもりですか!委員長!
ダイナマイトがあたしと雲雀さんを取り囲む。
そ、そんな!これじゃ雲雀さんにボコられるのと変わらないじゃんかぁぁぁ!
獄寺のバカーーー!!!!!!


「ヤベッ!伏せろ、音ノ瀬!!」

「!!!」


転んだ姿勢のまま反射的に背中のギターを前に回して守るように覆い被さり、目をぎゅっと瞑って耳を塞ぐ。
焦った獄寺の声を掻き消すようにダイナマイトの爆発音が校舎裏に響く。
熱を帯びた爆風が身体を撫でて…いかない。
あ、あれ?
怖々目を開けるとはためく紅いモノが見えた。

え、これ雲雀さんの学ラン?!

あたしが見たのは雲雀さんの学ランの裏地だった。
いつの間にか頭から被せられたそれが、爆風と熱を遮ってあたしを守ってくれたらしい。
見上げればワイシャツ姿の雲雀さんが、トンファーを回転させて爆風とそれで舞い上がった土煙や小石を見事に払っていた。
爆風に煽られて飛びそうになった雲雀さんの学ランを慌てて掴む。
す、すごい…。
顔色ひとつ変えずにこんなコトやってのけるなんて…!


…ちょっとカッコいいじゃないですか。


こんな時なのに創作意欲を刺激しないで欲しい。
無駄のない動きはまるで剣舞でも見ているよう。
風に舞う黒髪、鋭い眼光、しなやかな肢体。
目の前の美しい光景に、恐怖で震えていた胸がいつの間にか好奇心にでいっぱいになっていた。

時間にすればほんの数秒だったんだと思う。

同時にまるであたしを庇う様な雲雀さんの行動に、あたしも獄寺も面食らっていたのも事実で。
粗方払い除けた雲雀さんはパシッとトンファーを握り直した。


「…僕の獲物を横取りする気かい?」


そ、そういうコトですかぁーーー!
変な独占欲見せんで下さいっ
やっぱり雲雀さん怖い…!
一瞬でもドキッとしたあたしのトキメキを返して…!
…へ?トキメキ…?

雲雀さんは不機嫌そうに二三度得物を振るう。


「目障りだな。まずは君から咬み殺そう」

「チッ!音ノ瀬!早く行け!」

「で、でも…!」

「いいから、早く行けっつってんだよ!」

「余所見する余裕あるの?」


獄寺は再び取り出したダイナマイトに火を点け、向かって来た雲雀さんに飛び退り様に投げつけた。
雲雀さんはその全てを爆発する前にトンファーで弾き飛ばす。
彼は怯まず初めに投げたダイナマイトの爆発に乗じて、第ニ陣をまたもや後退しながら投げる。
そっか!自分に雲雀さんを引きつけてあたしの逃げ道を作ってくれてるんだ!
ありがとう、獄寺!あんたの犠牲は無駄にしないわっ
あたしは雲雀さんの学ランをその場に置いて、ギターを背中にぐるんと回し立ち上がった。

カラン!コロンコロン…

え゛。
丁度その時足元に転がってきたのは、雲雀さんが弾いたと思われるダイナマイト。
導火線はもう…燃え尽きてる!
叫ぶ間も逃げる間も無く、ダイナマイトはあたしの足元で爆発した。
雲雀さんの学ランが土煙と一緒に宙に舞うのが見える。


―――――あぁ、今度こそあたし死んだかも…。



2008.8.27


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