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静けさを取り戻したホールに響く、自分の歌声。


ただただ『想い』を込めた。


憶えているのは湧き上がる高揚感。


そして―――――雲雀さんの力強く、優しい笑顔だった。


***


学校へ向かってひた走る。

背中には相棒のギター。
手にはさっき封を切ったばかりの白い封筒。
差出人は『並盛プロダクション』だ。
勿論、先日行われたオーディションの合否通知が入っている。

本来なら行われたその日に結果発表だったんだけど、あたしの予定外の行動で結果は保留になり、急遽封書での通知となった。
普通なら課題曲を無視したあたしの行動は失格に値する。
けれどオーディションに誘ってくれた倉元さんが、審査員の人達や並プロの上層部に掛け合ってくれて望みを繋いでくれた。
あの時は自分の歌を聴いて欲しい一心で結果を気にせず歌ったけれど、参加したからにはやはり審査してもらいたい。

そして、合格したい…!

オーディションの日から今日まで、あたしは学校から帰っては真っ先にポストを覗く日々を過ごしていた。


待ちに待った結果。


玄関先で通知を読んだあたしの頭に、真っ先に思い浮かんだのは雲雀さんの顔だった。
今日は風紀委員の仕事が溜まってて放課後片付けるって言ってたから、まだ学校にいるはず。
そう思ったら、あたしの足は彼のところへ向かって勝手に走り出していた。


***


風紀委員の仕事が書類整理なら、きっと雲雀さんは応接室だ。
チラホラと下校する生徒達と擦れ違いながら校門を潜り、昇降口へ真っ直ぐ向かう。
その時不意に声をかけられた。


「あれ?音ノ瀬?」


逸る気持ちを抑えてその場で立ち止まる。
かけられた声の方を向くと、並盛トリオが居た。
山本は野球のユニホームに身を包み、ツナと獄寺はこれから下校するようだ。
爽やかな笑顔を浮かべて山本が話しかけてきた。


「さっき帰ったんじゃねーの?」

「う、うん。ちょっと、ね」


あたしは咄嗟に言葉を濁していた。
結果が分かった今、一緒に路上ライブをしてくれて、オーディション会場に応援に来てくれた彼らにそれを伝えるべきだ。

だけど、どうしても雲雀さんに一番最初に報告したかった。

沢山迷惑かけたし、応援してくれた並盛トリオに凄く悪いと思う。


でも今回だけは……!


申し訳ない気持ちから無意識にストラップを握り締めていたあたしに、トレードマークとも言える笑顔を消した山本が問う。


「……行くのか?」


―――――ヒバリのところへ。
そう訊かれた気がしてドクンと心臓が跳ねた。
山本はあたしが向かっている場所を見抜いてる…?
そう感じたのは後ろめたい気持ちのせいだけじゃない。


彼の怖いくらい真剣な瞳。
でもどこか淋しげで。


どうしてそんな視線をあたしに向けるのかは分からなかったけれど、彼には嘘を吐いちゃいけない気がした。
きっと嘘を吐けば、深く彼を傷付けてしまう。
あたしはこくんと頷いて彼に答えた。


「そっか…」


そっと瞼を閉じた山本は、何かを噛み締めるような顔をした。
けれどすぐに短く息を吐き、再びいつもの人好きする笑顔を浮かべた。
何かが、吹っ切れたみたいに。


「気をつけて行けよな!」

「ありがと…。後でちゃんと報告するから!ごめん!本当にごめんね!」


あたしはみんなに向かって、背中のギターが落ちそうになるくらい深く頭を下げる。
そして再び全力で駆け出した。


大好きな彼の元へ―――――



2010.9.18


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