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小さく深呼吸をして気持ちを切り替え、あたしは山本に話しかけた。


「山本はどうしたの?こんな遅くに」

「あ、あぁ。ツナから一次通過したって聞いたからさ。
 おめでとうを言いに来た」

「うわー、ありがとう!」


雲雀さんに続いて山本まで直接お祝い言いに来てくれるなんて…!
あたしは嬉しくて素直にお礼を言った。
けれどそれとは反対に、穏やかな笑みを浮かべていた山本の表情は曇る。


「でも、ヒバリに先越されちまったな」

「え?」

「アイツも言いに来たんだろ?おめでとうって」


眉尻を下げて少し残念そうに言う。
珍しいな…山本のこんな顔。
どうして雲雀さんに先を越されたなんてコトを言うんだろう。
まるで競ってるみたい。
でも何を…?
近頃山本と雲雀さんが顔を合わせた時に流れる空気が少し怖いんだよね。
物凄く険悪なわけでもないから、あたしの気のせいかもしれないんだけどさ。


―――変な、感じ。


何だか胸の奥がざわざわしたけれど理由は自分にも分からなかった。
でもお祝いしてくれる気持ちは凄く嬉しいから、あたしは山本に笑顔を向けた。


「うん。でも後先なんて関係ないよ。ありがと、山本」

「…おぅ」


頬を指先でポリポリ掻きながら、山本は照れ笑いを浮かべた。


「それにしてもスゲーよな。
 この間スカウトされたと思ったら、オーディションに誘われて、あっという間に一次審査合格だろ?」

「でも一次は書類選考だし、まだあたし歌ってもいないんだよ?
 だから本当の勝負はこれから!」


グッと手を握り締めてガッツポーズをすると、山本はちょっと目を見開いた。
そして人好きする笑顔を浮かべて笑った。


「ハハ!音ノ瀬のそういう前向きなとこ尊敬するぜ」

「や、やめてよ…!山本の方があたしなんかよりめちゃくちゃ前向きじゃん」

「…そうでもねーよ」

「え?」

「このまま音ノ瀬がオーディション通過して、デビューして、有名になってさ。
 どんどん先に進んで、オレなんかの手の届かない人間になっちまうんじゃないかなんて考えたりもするんだぜ?」

「またまた〜」

「本当だって。それにちょっと嫉妬もしてる」


そう言った山本はほんのちょっぴり淋しそうに苦笑を漏らした。
嫉妬……それってあたしにおいていかれるって感覚なのかな。
確かに同じ場所に立っていた友達が、自分よりも先に進んでしまうのは淋しかったり場合によっては妬ましく思うかもしれない。

この間学校でツナとも話したけど、みんなそれぞれ将来のコト考えてるんだよね。
今更だけど、自分のことで精一杯で周りに目を向ける余裕なんてなくて。
こんなコトを言うなんて…山本は早く大人になりたいのかな?
今日の山本、やっぱりちょっと変。


「…山本は野球選手になりたいんだっけ?」

「あぁ」

「じゃぁ、まずは高校行って甲子園目指さないとね!」

「ってコトはまずは勉強か。オレ苦手なんだけどな」

「大丈夫だよ!スポーツ推薦があるじゃん!」

「おぉ、そうだな!…ってひでーな。あんま慰めになってねーんだけど」

「あはは、ゴメンゴメン!」


中学2年生。
周りの大人から見たらまだまだ子供で、思春期真っ盛りなこの時期。
勉強とか、部活とか、友情とか、恋とか。
色んなモノに夢中になって、自分が成長してる感覚なんて分からないくらい我武者羅に毎日を過ごして。
それでも重ね続ける日常が少しずつあたし達を前進させている。
今回はみんなよりもちょっと早くあたしにきっかけがやって来ただけだ。
山本にだってすぐにきっかけは訪れる。


―――――きっとあっという間に大人になってしまう。


だけど…。
一頻り笑って、あたしは同じ様に目の前で笑う山本を見上げた。


「山本」

「ん?」

「あたしは変わらないよ。
 ずっと変わらず歌い続けると思う。今までも、これからも」


歌い続けたい理由が出来たから。

そう言ってにっこり笑ったあたしに、山本も「オレも音ノ瀬に負けねーように頑張るわ!」と爽やかな笑顔を見せてくれた。



2010.5.26


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