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一頻り飛び跳ねてからあたしは家の中に入った。
自分の部屋に駆け込んで鞄とギターを床に下ろし、もう一度届いた合格通知の紙を見る。
本当に合格って書いてあるよー!
再び込み上げて来た嬉しさに小躍りする。

そうだ!雲雀さんに連絡!

あたしはゴソゴソと鞄の中から携帯を取り出した。
そこではたと気が付く。
そういえば今日放課後、全委員会の委員長が集まって会議するって言ってんだっけ。

ん〜…どうしよう。

直接雲雀さんに伝えたいけど、流石に会議中に電話するのは気が引ける。
また怒られちゃうかもしれないけど一先ずメールしてみよう。
あたしは合格通知の『一次審査 合格』の文字をカシャッと写メに撮る。
それを添付して『無事通過出来ました!』と雲雀さんにメールを送った。
送信し終わった携帯を両手で握り締めて、そのまま仰向けにベッドへ身を投げ出す。

お、送っちゃった。

高がメールなんだけど、雲雀さんに送るのはすっごい緊張する。
友達には全っ然平気なんだけどなぁ。
並盛最強の風紀委員長だってだけでも恐れ多いのに、初めて好きになった人だもんね。
うわ、好きとか…恥ずかしいな!
明日は歌聴いてもらえるかなとか、雲雀さんのこと考えてたらあっという間に30分が過ぎていた。

雲雀さんからの返信は、ない。

不意にきゅぅっと胸が狭くなった。
実はすぐに返事くれるんじゃないかって、ちょっと期待してたんだよね。
やっぱり会議で忙しいのかな。
電話じゃなくてメールだから怒っちゃったとか?
んー、でも雲雀さん忙しい人だからあたしに構ってる暇なんてないよね。
鳴らない携帯をぎゅっと握り締める。
勝手に盛り上がってただけに、徐々に淋しくなってきた。
勢い良く起き上がって悪い考えを追い出すように、あたしは頭をブンブン振った。

うだうだ考えてたって仕方ない!
今はオーディションに集中しなくちゃ!

あ。ツナ達並盛トリオにもまだ連絡してなかった…。
ツナ家にいるかな?
あたしは一先ず制服から部屋着に着替えて、ツナに電話するコトにした。


***


「凄いじゃない、雅!一次審査通過だなんて!」


合格の報告に母さんは目を丸くして驚いた。
父さんも驚いたみたいで「おぉ…!」と小さな声を漏らす。
何その反応。
もしかして2人ともダメだと思ってたんじゃ…。
でも無理もないか。
大体いくら歌が好きだとはいえ、自分達の娘がまさかオーディション受けるとも思ってなかっただろうしね。
あたしはコロッケをお箸で一口大に切り分けながら答えた。


「うん!自分でもビックリしたよ」

「良かったわね〜。あ、でも油断は禁物よね。
 次は審査員の前で歌うんでしょ?」

「うん」

「雅なら大丈夫だろ。三度の飯より歌が好きなんだから」


ビール片手に父さんは笑った。
そんな父さんを見て、あたしと母さんも笑う。
父さんと母さんはあたしのやりたいコトを頭ごなしに否定せずに応援してくれる。
小さい頃は共働きのせいで淋しい思いもしたけれど、ちゃんとあたしを見守ってくれてるって感じてたから我慢出来た。
現にこうやって応援してくれる。
大好きな2人に大好きな歌で恩返しが出来たらいいなと思う。

こうなったら何が何でもオーディション合格しなくちゃ!

和気藹々と家族で食卓を囲んでいると、不意にインターホンが鳴った。
「こんな時間に誰かしら?」と母さんが立ち上がって玄関に向かう。
父さんと顔を見合わせて首を傾げていると、パタパタとスリッパを鳴らして戻って来た母さんが「雅、お友達」とにやにやして言った。

友達?こんな時間に?

…ツナかなぁ。
だったら母さんツナだって言うよね。
あたしは半信半疑で椅子から立ち上がり玄関に向かう。
するとそこには全く予想していなかった人物が立っていた。


「ひ、雲雀さん?!」

「やぁ」

「どどど、どうしたんですか?」


あまりの衝撃にどもるあたしに、雲雀さんは胸の前で両腕を組み仏頂面で答える。


「メールよこしたのそっちでしょ」

「へ…?」


確かに一次審査通過のメールは送った。
だけど本当にそれだけで、雲雀さんを呼び出すような内容は送信してないはず。
雲雀さんが家に来る理由が見当たらず首を傾げる。


「会議終わってからメールしたけど返信ないし、何度かけても繋がらないし」


あ…。
ツナと話した後携帯の電池切れちゃって、そのまま充電器に置いたから電源切れたままだったんだ!
あたしは口をへの字に曲げている雲雀さんに慌てて頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!
 えっと、携帯電池切れちゃって、電源落ちたまま充電してて、あの…!」

「……家にいたのなら、それでいいよ。
 何かあったのかと思っただけだから」

「心配、してくれたんですか?」

「……別に」


そう言って視線を逸らした雲雀さんの顔が、心なしかホッとしているように見えた…のは、あたしの勘違いかな。
でも風紀の仕事とか会議で疲れているだろうに、こうして家まで訊ねて来てくれるなんて…。
もしかしなくてもやっぱり心配してくれたってコトだよね?

どうしよう…変に期待しちゃうよ。

ドキドキと速まる鼓動を意識しつつ、あたしはもう一度彼に謝った。


「ごめんなさい、雲雀さん」

「…もういいよ。
 それよりまずは一次審査合格おめでとう、雅」


小さく息を吐いて許してくれた雲雀さんは、その口元に優しい微笑みを浮かべてお祝いの言葉をあたしにくれたのだった。



2010.3.14


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