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雲雀さんとの思い掛けないデート。
最近出来たお洒落なカフェに連れて行ってもらって、キャラメルマキアート奢ってもらったの!
ケーキ屋さんとかファミレスは行ったコトあるけど、初めてあんな大人っぽいカフェ入った。
すっごく楽しくて嬉しかったんだけど……緊張しちゃって何話したのか全然憶えていないんだよね。
応接室で歌を聴いてもらう時だって2人きりなのに、デートなんだって思ったら変に意識しちゃって身体がカチンコチン。
でも変に気持ちは舞い上がってて。
雲雀さんも無口ってほどじゃないけど口数多い方じゃないから、あたしが一方的にベラベラ喋ってたような…。
いっそ歌ってた方が楽だったんだけど、場所が場所だけにそういうわけにもいかず。
雲雀さんにも「雅よく舌回るね」って言われちゃう始末。
う、うわーん…!絶対変なヤツって思われたよぉぉぉ!
でもね、雲雀さんちゃんと家まで送ってくれたんだよ?
最後まで笑顔だったし。
あたしと一緒にいて、楽しいって思ってくれてたのかな。
***
そんなこんなであっという間に1ヶ月が過ぎた。
学校に行って、並盛トリオと遊んで、曲作って、雲雀さんに歌を聴いてもらって。
あたしは今までと変わらない日常を過ごしてた。
でもここ2、3日ソワソワして落ちつかない。
そろそろ一次審査の結果が封書で届くはずなんだよね。
しかもこんな時に限って掃除当番とか…!
そうだ!
あたしは机から身を乗り出して、ホームルームが終わってツナのところへやって来た獄寺のセーターをぐぃっと掴まえた。
予想外していなかった力に引っ張られて、獄寺の身体が仰け反る。
「ぉわ!ッんだよ、アホ女!」
「お願い!掃除当番代わって!」
「はぁ?んでだよ!
つかおめー、代わったところでオレが真面目に掃除すっと思ってんのか?」
「思ってないけど」
半眼であたしを見下ろした獄寺を、同じ様に半眼で見返す。
獄寺はあたしの返しに片眉をピクピクさせた。
「じゃ、堂々とサボりやがれ!」
「それは良心が痛むからイヤ!」
「ケッ自分勝手な女だな!」
「お願い、獄寺〜」
彼のセーターをくぃくぃ引っ張る。
「やなこった!つか離せ!伸びんだろッ」
獄寺はセーターを掴んでいたあたしの手を乱暴に払うと、腕を組んでプィッとそっぽを向いた。
くっそー!手強いなぁ。
よーし、こうなったら最後の手段よ!
「あたしと代わってくれたら、ツナも掃除当番だから一緒に掃除出来るよ〜?
ツナも獄寺と掃除出来たら嬉しいと思うんだけどなぁ。
ね、ツナ?」
「へ?あ、う、うん」
あたしと獄寺のやり取りを傍観していたツナは、急に自分に話を振られて驚きながらもコクンと頷いた。
獄寺はそれを見て「ぐっ」と言葉を詰まらせる。
ツナを慕っている獄寺が、彼を置いてひとりで帰るなんてコトはない。
迷ってる、迷ってる!
あたしはダメ押しにパンッと両手を合わせて拝み倒す。
「お願い!」
「…し、仕方ねーな。代わってやる」
「ヤッター!ありがとう、獄寺!」
「か、勘違いすんなよ!オレはおめーの為じゃなくて、あくまで10代目の為にだな」
「うんうん、それでもいいよ!今度お礼するね!」
あたしはさっさと鞄を肩に掛け、ギターを背負う。
1分1秒だって惜しい。
「それじゃ、また明日!」
呆気に取られるツナと獄寺に軽く手を振って、あたしは一目散に自宅へ向かった。
***
全力疾走で家へ帰って来たあたしは、弾む呼吸を整えながらポストを覗いた。
夕刊の陰に隠れて『音ノ瀬 雅様』と書かれた薄緑色の封筒が見える。
あたし宛の封筒!
急いで取り出して差出人を確認すると、封筒には『並盛プロダクション』と書かれていた。
一次審査合否の通知だ…!
早く結果が知りたくて、あたしは家の中に入らずその場で封を開ける。
ドキドキして封筒の中から紙を取り出す手が震える。
だってコレにはあたしの夢が叶うかどうかが懸かっているんだもん。
どうか…どうか受かっていますように…!
一気に紙を引き抜いて書かれている文字を読む。
他よりも少し大きめの字で書かれた文字に読んでいた目が止まる。
『一次審査 合格』
ご、合格…合格した…!
「ヤッターーー!!」
倉元さんには大丈夫だって言われていたけど、やっぱり心配だったんだよね。
それが一気に安心と喜びに変わって。
あたしは合格通知を抱き締めて、ひとり玄関先でピョンピョン飛び跳ねた。
2010.2.23
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