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「#エロ」のBL小説を読む
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39


家に帰って父さんと母さんにオーディションの話したら、流石に手放しで喜んではくれなかった。
やっぱり詐欺じゃないかって疑ったみたい。
でもあたしはどうしてもチャレンジしたいんだって、渋い顔をする2人を拝み倒した。

そうしたら父さん、翌日の会社帰りに並プロに行って、声をかけてくれたプロデューサーさんと直接会ってきてくれたんだって!

熱心に経緯を話をしてくれたプロデューサーさんの態度に、本当の話なのだと確信したらしい。
父さんはオーディションのエントリーシートを貰ってきてくれた。
ジャンプして大喜びするあたしに、父さんは苦笑しながら「頑張りなさい」と言った。
その視線が応接室で「頑張りなよ」と言ってくれた雲雀さんと似ていて、正直ドキッとした。
父さんと同じだなんて言ったら、雲雀さんに失礼だよね!


何はともあれ、あたしの胸は開け始めた未来への期待でいっぱいだった。


***


「で、それがそのエントリーシート?」

「うん!」


前の席のツナは後ろ向きで椅子に座り、あたしの机の上の紙を覗き込んだ。
紙には名前や住所、特技なんかの記入欄があって、その殆どをあたしは昨夜のうちに埋めていた。
それを見たツナは眉尻を下げて笑った。


「なんか凄いや」

「へ?」

「だってさ、雅ちゃん着実に自分の夢に向かっていってるって感じじゃん。
 オレなんてまだ自分が将来何したいかなんて分からないのに…」


あ、あれ?
ツナってこんな顔するヤツだったっけ?
何処となく憂いを帯びた彼の表情にあたしはドキッとした。


「…ツナ、何かあった?」

「あ、いや!深い意味はないよ!
 やっぱ雅ちゃんは努力してるから報われるんだろうなと思って」


ツナはパタパタ自分の顔の前で手を振ると、慌てて笑顔を作った。
誤魔化してるのバレバレなんだけど。
半眼でツナを睨むと彼はキョロキョロと視線を泳がせた。
全く…。
あたしはわざと大きく溜め息を吐く。


「水臭いよ、ツナ。
 あたしにばっかり恩着せといて、自分は頼ってくれないの?」

「そ、そんなつもりは…!
 ただちょっと説明しにくいって言うか、さ。ははは」

「…まぁいいけど。あたしの手が必要な時はいつでも言ってよ?
 あたしがこうやって夢への第一歩を踏み出せたのは、あんた達並盛トリオのお陰なんだからね。
 分かった?!」

「う、うん」


ビシッとツナの鼻先に人差し指を突きつけて言い含めると、彼は苦笑いしながら頷いた。

―――――何だろう。

ダメツナだったのがウソみたいに、大人っぽい表情だった。
上手く言えないけど、男の子の顔っていうか。
並盛トリオで何かしてるみたいだけど、それが関係してるのかな。
気になるけど、きっと話せる時が来たら話してくれるよね?
ツナ…あたしだって友達の力になりたいんだよ?
少しモヤモヤしながらも突きつけた人差し指を下ろした時だった。


「音ノ瀬雅、いるかい?」


大好きなヒトの声が教室の前の方のドアから聞こえた。
一瞬にして教室の空気が凍る。
弾かれた様に顔を向けると、珍しくベスト姿の風紀委員長と目が合った。
わ、新鮮!
学ラン姿もカッコいいけどベスト姿もなかなか…。
思わず返事をするのも忘れて見惚れてしまった。
学ランは着崩すけど、ベストの時はしっかりネクタイ締めるんですね、雲雀さん。
どうしよう…カッコいいよ。
雲雀さんは一瞬怪訝そうにしたけれど、すぐにいつもの調子であたしを呼んだ。


「ちょっといい?」

「は、はぃ!」


並中の最高権力者の訪問にざわつく教室を気にせず横切って、あたしは雲雀さんの元へ駆け寄った。


***


あ、危なかった〜。
オレはタイミング良く現れてくれたヒバリさんに、心の中でそっと感謝した。
流石に「オレ、マフィアのボス候補なんだ」なんて相談するわけにいかないもんな。
きっと彼女ならそんな突拍子のない話でも信じてくれると思うけど、危ない世界に係わらせるようなコトはしたくない。

雅ちゃんには大切な夢があるんだから。

机の上のエントリーシートに視線を落してそう思っていたら、山本が「よ!」とこっちに寄って来て空いていた隣の席に腰を下ろした。


「ツナ、数学の宿題やったか?」

「しゅ、宿題?!」

「はは!その調子じゃやってねーか。見せてもらおうと思ったのにな」

「後で雅ちゃんに見せてもらおうよ」

「あぁ、そうだな!」


爽やかに笑う山本にオレは苦笑いを返す。
や、山本…オレを当てにしてくれたのは嬉しいけど間違ってるよ…。
笑っていた山本は、置きっ放しのエントリーシートに気が付いた。


「本当にオーディション受けるんだな、音ノ瀬」

「うん。朝から嬉しそうにしてたよ。
 ヒバリさんと雅ちゃんのおじさんが、並プロ行って詐欺じゃないって確かめてきたらしいよ」

「…ヒバリが?」

「ビックリだよね」


オレと山本はドアの所で話す2人に視線を向けた。
凄いな、雅ちゃん。
他の生徒が恐れて遠巻きに見ている中で、楽しそうに笑いながらヒバリさんと話している。
ヒバリさんもいつもより優しい顔してる気がする。
少なくとも不機嫌そうには見えない。
ヒバリさんが雅ちゃんを特別扱いしてるのは、オレの目から見ても明らかだ。
最近の態度で雅ちゃんもそれは同じじゃないかと思う。

ヒバリさんが何を考えているのかは分からないけど、もしかして雅ちゃんは…。

オレがひとつの結論に辿り着いた時、一緒に2人を見ていた山本がポツリと呟いた。


「…なぁ、ツナ」

「ん?」

「音ノ瀬ってヒバリのこと好きなのかな」

「んぶっ」


今正に考えていたコトを言われて、オレは思わず吹き出してしまった。
山本は驚いて少し身を引いてオレを見たが、すぐにまた雅ちゃんとヒバリさんの方に視線を戻して頬杖をついた。
び、ビックリした…!
オレは口元を手の甲で拭いながら山本に尋ねた。


「きゅ、急にどうしたの?」

「いや、ちょっと思っただけ」

「…山本?」


2人を見つめる山本の後姿からは表情は読み取れない。

でも、何でかな。

いつも頼もしいその背中が、オレには少し淋しそう見えたんだ。



2009.12.6


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