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ドキドキが治まらないまま、並盛トリオと夜の住宅街を歩く。
オーディションてどんなコトをするんだろうとか、歌うならあの曲がいいとか。
みんなもあたし同様興奮していて、帰り道の会話は弾み途切れるコトはなかった。
あっという間にあたしの家の前まで着いてしまった。
「それじゃ雅ちゃんまた明日」
「じゃぁな!」
「うん!またね」
ツナと山本は軽く手を振って、獄寺は視線だけを寄越して去って行った。
彼らの姿が見えなくなるまで見送って、まだ治まらない興奮を身体の外に逃す為に軽く息を吐く。
オーディションか…。
突然巡って来た大チャンス。
父さんや母さんに言ったら喜んでくれるだろうか。
でもその前に雲雀さんに伝えたい。
メールにしようか。
電話にしようか。
うーん。雲雀さん忙しいヒトだしいきなり電話は迷惑かもしれないよね。
…よし!メールにしよう。
あたしはガサゴソとバッグを漁って携帯を取り出し、門の前でメールを打ち出した。
送信…と。
するとすぐ傍で並中の校歌が聞こえた。
え?!校歌?!
驚いて顔を上げると雲雀さんがムスッとした顔で立っていた。
「どうして電話にしないの」
「雲雀さん…!いつからそこに…!」
あたしの質問には答えず、彼は不機嫌顔のまま携帯を開いた。
恐らくあたしが今送ったメールを読んでいるんだろう。
パタンッと携帯を閉じてこちらに歩み寄ると、雲雀さんはあたしをちょっと怖い顔で見下ろした。
「雅。重要な報告は自分の口で言いなよ」
あ…。
そっか。そうだよね。
またバッグの中を漁ってさっきもらった名刺を取り出して、雲雀さんの前に差し出す。
彼は受け取るとジッとそれを見つめ、ポツリと呟いた。
「並盛プロダクション…」
あたしはちょっと深呼吸してから話し出す。
「そのヒトにさっき駅前でオーディションに出てみないかって誘われました。
今までよりももっと沢山のヒトにあたしの歌を聴いてもらえそうなんです。
雲雀さん…あたし、チャレンジしてみます!」
雲雀さんの綺麗な目を真っ直ぐに見つめた。
彼はしっかりとそれを受け止めて、「そう」と表情を和らげる。
そしてあたしの頭に手を置くと、ゆっくりと撫でてくれた。
「良かったね、雅」
「…はぃっ!」
雲雀さんに優しく微笑まれて、あたしの胸は嬉しさではち切れそう。
返答した声がちょっと裏返ってしまった。
やっぱりあたし、雲雀さんの笑顔大好きだ。
どっぷりと幸せに浸っていたら、ふっと心地好い重みがなくなってしまった。
あぁ、もうちょっと撫でて欲しかったな…。
なーんてあたしの気持ちは露知らず、雲雀さんの視線は再び名刺に戻っていた。
「……ちょっとこの名刺借りてもいいかい?」
「へ?いいですけど…どうするんですか?」
「内緒」
雲雀さんは口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。
わ、久し振りに見たな。
このゾクッとするような表情。
「明日の放課後には返すから、また応接室に来なよ」
「はい」
「それから」
一度言葉を切って、雲雀さんはまた少し不機嫌そうにした。
「君、最近帰り遅いよ。
草食動物達に送ってもらっているようだけど、一応女子なんだし気を付けなきゃダメだよ」
「き、気を付けるって何をですか?」
「君って本当に鈍いね。
友達だかクラスメイトだか知らないけど、油断してると痛い目見るよ」
「痛い目って…ヤダなぁ雲雀さん!
ツナ達があたしに痛いコトするわけないじゃないですか」
変なコト言うなぁ、雲雀さん。
並盛トリオはいつもあたしに良くしてくれるのに。
獄寺は…まぁ分からなくもないけど、基本いいヤツだと思う。
あーだこーだいいつつピアノ弾いてくれるし。
ツナだって小さい頃から知ってるけど、どちらかといえば危害加えられる方だし。
山本に至ってはみんなの人気者で、いつも笑顔で、色々庇ってくれたし。
いつだってあたしを助けてくれて元気をくれる彼らが、痛いコトなんてするはずないじゃん。
ぱたぱたと手を振って否定すると、雲雀さんの機嫌はもっと悪くなってしまったようだ。
形の良い眉を寄せると口をへの字に曲げる。
「……もう、いい。兎も角、風紀乱さないでね」
「は、はぁ…」
「じゃぁね」
「あ…!おやすみなさい、雲雀さん!」
「…おやすみ」
雲雀さんはひらりと肩に羽織った学ランを翻し、並盛トリオが帰った道とは逆方向へ歩いて行ってしまった。
どうして彼の機嫌が悪くなったのかあたしには分からない。
でも、女の子扱いしてくれたってコトだよね?
『一応』って付いてたけど。
オーディションには誘われて。
予定外に雲雀さんにも逢えて。
…何ていい夜だろう!
やっぱり治まらないドキドキをちょっと心地好いなんて思いつつ、あたしは門に手をかけた。
2009.9.17
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