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ヤバイ!!!
ま、また遅刻しちゃう…!
あたしはタッタッタッと通学路を走る。
昨夜もいつものように作曲してたのは勿論なんだけど、気が付くと雲雀さんのコトを考えてちゃってて…。
ちょっとでも来てくれるんじゃないかと期待したコトに自己嫌悪。
沈む気持ちを持ち上げる為に五線譜と睨めっこし、また思い出して自己嫌悪。
そんなコトを繰り返してたからあっという間に時間が経っちゃって。
ホント、バカみたい。
雲雀さんがあたしを相手にしてくれるわけないじゃん。
彼が好きなのはあたしの歌であって、あたし自身じゃないのに。
ちょっと仲良くなったからって勝手に期待して、落ち込んで。
彼があたしの歌を聴いてくれるだけだって奇跡なんだ。
そうよ。
あたしには歌がある。
もしかしたら歌を通してあたしに興味を持ってくれるかも。
可能性はゼロじゃない。
並盛最強の雲雀さんに好いてもらいたいなんて恐れ多いコトは百も承知。
それでも好きになっちゃたんだからしょうがないじゃない!
彼が笑ってくれると嬉しいし、ドキドキしちゃう。
自分の気持ちを伝える勇気はまだない。
だから今まで以上にあたしは歌おう。
溢れ出そうなこの想いを込めて。
決意も新たに走っていると、前方にツナの姿を見つけた。
足を速め彼に駆け寄る。
「おはよ、ツナ!」
「わ、雅ちゃん!おはよ」
あたしに気がついたツナは少し走るペースを落とした。
2人で並んで走る。
「あんたも寝坊?」
「う、うん。昨夜ランボが大人しく寝てくれなくてさ」
「あはは、あの子いつも元気だもんね」
「元気なだけならいいんだけど…っと急がなきゃ!
全力疾走すればまだギリギリ間に合うよ」
「うん!罰則受けたくないもんね」
あたしとツナは再びペースを上げて、一路並中へと急いだ。
今日は大掛かりな風紀検査はないけれど、遅刻者の取り締まりは毎日行われている。
なるべく遅刻はしたくなかった。
動悸は不純なんだけど、ね。
学校には雲雀さんがいるから。
たとえ一緒に居られなくても、同じ校舎にいるんだと思うと嬉しくなる。
少しでも長い時間同じ校舎にいたいなんて思っちゃって。
そんな自分の乙女思考に心の中で苦笑した。
校門前まで来ると、数人の生徒が慌てて駆け込んでいた。
あたし達もそれに紛れて校門をくぐる。
後ろでは風紀委員達が校門を閉じる準備をし始めた。
「ふ〜!危なかったね雅ちゃん」
「うん」
「本当にギリギリだね」
2人で胸を撫で下ろしていると、低めの声が会話に割って入ってきた。
ビックリして思わずツナと同時にそのヒトの名前を呼ぶ。
「「ひ、ヒバリさん!」」
「ワォ。ドモリまで見事にハモッたね」
彼は口角を上げて面白そうに笑った。
う、うわ!凄い恥ずかしい…っ
ハモッたっていうより、今あたし声裏返ってたし―――っ!!!
かぁっと顔が熱くなる。
雲雀さんはまたクスッと笑って、こちらへ歩いてきた。
あぁ、どうしよう。
昨日のライブの話をしたいけど、なんて切り出せばいいかな。
いや、話したところでどうこうなるってもんじゃないんだけど…。
そんな話聞かされたって、雲雀さん興味ないかもしれないし。
この間の反応からそれは分かってるじゃん。
話すのは止めよう。
あたしは肩にかけたギターのストラップをぎゅっと握って、視線を地面に落とした。
そんなあたしの肩を雲雀さんはポンッと叩いた。
ハッとして顔を上げる。
「新曲、なかなか良かったよ」
横を通り過ぎる瞬間、彼は柔らかく笑ってそう言った。
…え…そ、それって…!
呆然として校門の風紀委員の方へ向かう雲雀さんの後姿を見つめる。
「…ヒバリさん、昨夜のライブ見に来てたんだね」
同じ様に呆然としていたツナがぽつりと零した。
新曲ってやっぱりあの感謝の歌のコトだよね?
興味なさそうだったのに、ちゃんと聴きに来てくれてたなんて。
雲雀さん、ズルイです…。
鼻の奥がツンとして視界が滲む。
一番聴いて欲しいヒトが聴いていてくれた。
その事実がただただ嬉しくて。
「良かったね、雅ちゃん」
「…うん!」
あたしは目の端に溜まった雫を軽く指で拭って、ツナに飛び切りの笑顔を向けた。
2009.5.22
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