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翌日の夕方。
またあたしと並盛トリオは駅前にやって来た。
勿論計画していた路上ライブを実行する為に。
「おい。曲はこの間と一緒でいいのか?」
「うん!あ、でも新しく作ったのもあるんだよね。
…これなんだけど、どうかな」
獄寺に譜面を見せると、彼はそれを指と目で追いながら確認した。
ドキドキしながら彼の反応を待つ。
「…へぇ。結構いい仕事すんじゃねーか、アホ女」
「アホは余計だって!」
「で、どんな曲なんだ?」
「オレも気になるな」
いつの間にか後ろに来ていた山本がひょっこり譜面を覗き込む。
ツナも興味深げだ。
何かちょっと照れるなぁ。
「えっとね、感謝の歌なの」
「感謝…?」
「この間の件であんた達にも他のヒト達にもいっぱい迷惑かけちゃったから。
ごめんねとありがとうを伝えたくて…ちょっとクサイよね、あは、あはは!」
自分で言ってて照れ臭くなって、あたしは頭を掻いた。
「ありがとな、音ノ瀬。最高のプレゼントだぜ!」
山本が真っ先にそう言ってくれた。
ツナもうんうんと頷き、獄寺もそっぽを向きながら「感謝されるのは悪い気がしねーな」とか言ってる。
てっきりいつもの調子でからかわれると思ってたのに…。
あたしは彼らの予想外の反応に面食らってしまった。
……やってくれるじゃん、並盛トリオ!
めちゃくちゃ嬉しいっ
「…よーし、それじゃめいいっぱい歌っちゃうからね!
獄寺、弾けそう?」
「ケッオレを誰だと思っていやがる!」
「ピアノも弾けちゃうツナの右腕、でしょ?」
そう答えると獄寺はちょっと驚いたように目を丸くした。
それからニッと笑って鼻を擦った。
「お、おぅ。分かってんじゃねーか」
「えへへ!そんじゃ張り切って音合わせいってみよー!」
あたしが元気いっぱいに弦を掻き鳴らすと、獄寺もニッと笑って電子ピアノでそれに答えてくれた。
***
「みんな、お疲れ!」
「おぅ」
「お疲れさん!」
「お疲れー」
あぁ、今日も楽しかった…!
無事に歌い終わってみんなで後片付けを始めると山本が寄って来た。
「音ノ瀬」
「ん?」
「おまえさ、歌ってる時何かキョロキョロしてなかったか?」
山本の質問にドキッとする。
天然そうに見えて山本ってば鋭い…。
「そ、そうだった?」
「あぁ、誰か探してるみたいに見えたんだけど…」
「そそそ、そんなコトないよ!
人が多くて何処見ていいのかわかんなくてさ!あは、あはは」
山本は「そっか」と人懐っこい笑顔を浮かべて片付けを再開した。
…咄嗟に嘘を吐いてしまった。
だって、言えないよ。
何処かに雲雀さんがいないか探してただなんて。
今日のコトは話してあったし、もしかしたら聴きに来てくれるんじゃないかって密かに思ってたんだけど…。
そんなわけないじゃんね。
雲雀さんは忙しいヒトだし。
来て欲しいとは言ってないわけで。
…ただちょっと、期待しちゃってただけ。
あの歌は並盛トリオは勿論、雲雀さんにも向けたモノだから。
―――――聴いて、欲しかったな…。
僅かな心残りを胸に、あたしは譜面をバッグに仕舞った。
2009.5.10
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