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32


「……知らないうちに凄いコトになってたんだね」


学校に向かう通学路の途中で、ツナは驚きの表情を隠さずに言った。
その隣を歩く獄寺もいつも寄せている眉間の皺をもっと深くして「うぇぇ」とか言ってる。
山本は今日は朝練でいない。


「ごめんね。隠すつもりはなかったんだけど、電話くれた時は話す気力もなくてさ」

「うん、いいよ。雅ちゃんが元気になったんならそれが一番だからね」

「流石10代目!おいアホ女。10代目の器のでかさに感謝しやがれ!」

「してるよ!つか獄寺がえばるなーっ」

「っるせ!オレは右腕だからいいんだよ」

「意味分かんない…」

「まぁまぁ、2人とも!もうすぐ学校着くし声抑えて。
 今日は風紀検査の日だよ?」


ヒートアップし始めたあたしと獄寺の会話をツナが止める。
ツナの言うとおり、先に見える校門にリーゼント頭の風紀委員が立っていた。
危ない危ない…!
言い合いなんてしてたら咎められる。

―――それに雲雀さんがいるかもしれない。

スカートの丈…平気だよね。
髪、乱れてないかな?
制服の襟を正して少しドキドキしながら、風紀委員が両脇を固める校門に突入する。


「おい、そこの女子!」


え!あ、あたし?!
身嗜みを確認したにも拘らず、ひとりの風紀委員に呼び止められてしまった。


「は、はい」

「背中のギターはなんだ?
 学業に不必要な物の校内への持ち込みは禁じられている。
 没収させてもらうぞ」

「えぇ!!」


ま、またぁ?!
どうしてあたしのギターはこう憂き目にばかり遭うの…!
ど、どうしよう…。
胸の前のストラップをぎゅっと握って、言い訳を考えていると「何の騒ぎ?」と声がした。
声の方に視線を向けると、学ランを肩に羽織った雲雀さんが立っていた。
彼はあたしの姿を一瞥すると、風紀委員を見据えた。


「その娘はいいんだよ」

「ですが、委員長…」

「僕がいいと言っているんだ。文句ある?」

「い、いえ、すみませんでした!」


あたしに声をかけた風紀委員はビシッと気を付けの姿勢をとると、慌てて元居た列に戻った。
助かったぁ〜。
あたしは雲雀さんの傍に駆け寄る。


「おはようございます、雲雀さん!」

「あぁ、おはよう」

「声かけてくれてありがとうございます。
 危うくギター没収されるところでした」

「没収されたとしても僕のところに上がってくるだけだから、心配いらないよ。
 もう君のギターを取り上げるようなマネはしないから」

「雲雀さん…」

「それにしても…風紀委員達には君は見逃していいって言っておいたんだけど。
 彼、新人だから知らなかったみたいだね。
 連絡事項もろくに伝えられないなんて…伝達経路と方法の見直しが必要だな」


雲雀さんはちょっと不機嫌そうに並んでいる風紀委員達を睨んだ。
睨まれた方は冷や汗どころか脂汗モノだ。
可哀想に足がブルブル震えてる。
せ、せめて話題を変えてあげないと立ったまま失神してしまいそうだ。


「あ、あの雲雀さん!」

「ん?」

「今日も歌聴いてもらえますか?」

「あぁ。……そうだね、今日は少し忙しいから放課後でもいいかい?」

「勿論です!」

「じゃ、また放課後にね」

「はい!」


あたしは一礼して少し離れた所で待っていてくれたツナと獄寺の所へ向かった。
そこには朝練が終わった山本も合流していた。
駆け寄るあたしを一瞬複雑そうに見つめたけど、すぐにいつもの晴れやかな笑顔を浮かべた。


「おはよ!山本」

「よ!音ノ瀬は今日も元気なのな」

「うん。それだけが取り柄だからね」


あたしもいつもどおりの笑顔で返す。
ちょっと気まずくなるかと心配だったけど、山本普通だ。
良かった……!
心の中でホッとしていると、ツナが「そうだ」と口を開いた。


「今3人で話してたんだけど、雅ちゃん復活祝いにまた路上ライブしない?」

「え!マジで?!」

「うん。獄寺君もまた伴奏してくれるって言うし、どうかな?」

「やりたい!やりたい!…あ、でも…」

「何だよ。オレの伴奏じゃ不服か?あぁ?」

「い、いや、そうじゃなくて…雲雀さんに怒られるかなって…」


あたしの口から雲雀さんの名前が出ると、並盛トリオは一瞬動きが止まった。
きっとこの間のライブを思い出したんだと思う。
だけど、獄寺が少し重くなった空気を払うように喋り出した。


「ヒバリだぁ?ほっときゃいいだろ」

「そうなんだけど、また前回みたいになるの嫌だし…。
 今日の放課後歌聴いてもらう約束してるから、その時訊いてみるよ」

「それじゃ、一応明日の夜空けといて」

「オッケー!」


あたし達はみんなで輪になって、バチンとハイタッチを交わした。



2009.4.19


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