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雲雀さんは切れ長の瞳を大きく見開いて、目を瞬かせた。
「……僕の笑顔が好き?面白いことを言うね、雅は」
彼はクツクツと愉しそうに笑い出す。
良かった。
雲雀さん、いつもの調子に戻ったみたい。
「変わっててもいいんです。ヒトそれぞれ好みってモノがありますから!」
「物好きだね」
「雲雀さんだってヒトのコト言えませんよ?…あたしの歌が好きだなんて」
ちょっと照れながら言うと、彼はちょっと驚いたように目を瞬かせた。
そして「そうかもね」とまた笑う。
やっぱり雲雀さんは笑っている方が素敵だ。
一頻り笑うと雲雀さんは思い出したように話し出した。
「そうだ雅。君、両親共働きで確か携帯持ってたよね」
「あ、はい」
「今持ってるかい?」
「持ってますけど…」
「ちょっと貸して」
何で携帯…?
半信半疑で上着のポケットから携帯を取り出し、雲雀さんに渡す。
すると彼も携帯を取り出し何やら操作すると、あたしに携帯を返した。
「番号とアドレス、赤外線で交換しといたから」
「え、えぇ!」
きょ、強制交換ですか…!
ていうかそんな簡単にいいんですか?!
何で両親が共働きとか知って……あぁ、雲雀さんならちょっと調べたら分かるか。
並盛最強の風紀委員長の雲雀さんと番号交換とか…ゆ、夢みたい…っ
慌てふためくあたしに雲雀さんは苦笑して口を開いた。
「この間みたいなコトがあったら僕に連絡するといい。
……何かなくても連絡してくれて構わないけど」
最後の一言はスッと視線を逸らして、少し小さな声で呟いた。
彼の顔が赤く染まって見えるのは夕陽のせいだけではなさそうで。
え、えぇー!
ちょ、ちょっとそんなコト言われたら、勘違いしちゃうじゃないですか…っ
きっと今のあたしの顔も雲雀さんに負けないくらい真っ赤だと思う。
何となく照れくさいような、気まずい雰囲気が2人の間に流れる。
ど、どうしよう…!
おおお、落ち着け、あたし…!
そうだ!こんな時こそ歌よ、歌!
あたしは背中に背負ったままのギターを前に回して構える。
「あ、あの、歌ってもいいですか?」
「構わないけど……もう歌えるのかい?」
「雲雀さんに逢ったら何か無性に歌いたくなっちゃいました」
「…そう。君は本当に変わってるね」
「あはは…あ、リクエストありますか?何でも歌っちゃいますよ?」
「そうだな…久し振りに君の校歌が聴きたいな」
「お任せを!」
あたしは一度ジャーンと弦を掻き鳴らして、深く息を吸い込んで校歌を歌い出す。
暫く歌っていなかったせいで初めは喉が絞まっていたけれど、歌っていくうちにそれもなくなって。
笑顔で歌うあたしを見て雲雀さんもホッとしたように微笑んでくれた。
彼があたしの歌を聴いて笑ってくれるコトがこんなにも嬉しいなんて。
自分の気持ちに気がついた今は前以上に幸せで。
歌がなかったらきっと雲雀さんとこんな風に一緒に過ごすことなんかなかっただろう。
歌ってやっぱり凄い。
自分だけじゃなくて回りに居るヒトも巻き込む力があるんだから。
歌があって良かった。
歌うコトが好きで良かった。
嬉しくて、楽しくて。
この幸せな時間がいつまでも続けばいいと思いながら。
あたしは夜の帳が下りるまで校歌を歌い続けた。
2009.3.24
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