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02


キーンコーンカーンコーン…

4時間目終了のチャイムが鳴る。
授業の緊張から解き放たれた生徒は一斉に溜め息を漏らした。
それに混じってあたしも一際大きい溜め息を吐く。
だって4時間目が終わったってコトはお昼休みの始まりなんだもん。
あの悪名高い風紀委員長直々に呼び出しをくらったんだよ?そりゃ溜め息くらい出るわよ。
盛大な溜め息に気が付いたツナが心配そうに振り返る。


「だ、大丈夫?雅ちゃん」

「……あんま大丈夫じゃないかも」

「だ、だよね。取り敢えずヒバリさんのところに行くとしても、その前に昼飯食べるよね?
 今日は一緒に屋上で食べようよ。山本も獄寺君もいるしさ。気分転換にどうかな?」

「そうだね、一緒させてもらおっかな」


ツナってこういうとこ良く気が付くんだよね。
…いじめられてたから他人の顔色伺うの上手くなっちゃっただけなのかもしれないけど。
話しているうちにチャイムと同時に購買部へ走っていった獄寺と山本が帰ってきた。


「10代目!お待たせしました!」

「お帰り、2人とも。今日は雅ちゃんも一緒に昼飯いいかな?」

「おぉ!オレは構わないぜ。皆で食べた方が飯は美味いからな!」

「オレも10代目がそう仰るなら」

「2人ともサンキュ!」

「それじゃ屋上行こっか」


ツナの一言で各々お昼ご飯やお弁当を持って屋上に向かった。
この3人組はいつも屋上でお昼休みを過ごしてるみたい。
今日は雲ひとつない快晴で、屋上でご飯を食べるのはとても気分がいい。
―――呼び出しさえなければ。トホホ。

ツナとあたしはお母さんの手作り弁当。
獄寺は焼きそばパン。
山本はサンドイッチと牛乳。

外見に似合わず焼きそばパンが好きなんだよね、獄寺って。毎日食べてる気がする。
山本はイメージどおり牛乳が好き。背が高いのはやっぱ牛乳の威力なのかな。
あ〜、なんかまったりしてていいわぁ。
天然な山本のボケに獄寺が過剰なほどキレて、それを宥めるツナ。
いいトリオだよなぁ〜。
見てると和むっていうか、青春だなぁって思う。
あたしも勿論青春真っ盛りなんだけどね!


「それにしてもヒバリに直接呼び出されるなんて、一体何したんだアホ女」

「ご、獄寺君!」


その言葉にあたしの顔は一気に引き攣った。
『アホ』呼ばわりにツナが獄寺を宥めるが、あたしとしては否定が出来ない。
だって、遅刻した上に風紀委員長にタックルかまして押し倒したなんてさ。
不慮の事故だとしても、せめて塀によじ登って登校してなきゃ起きなかった出来事なわけで。
ヒトが折角のほほんとした気分に浸り始めていたのに…っ獄寺め!
今朝の出来事を思い出してずーんと落ち込んだあたしに代わって、ツナが2人に理由を説明してくれた。

話を聞いた途端に2人の顔もあたし同様引き攣る。


「おめー…消されるな」

「ご、獄寺。あんまり脅かしてやるなよ」

「山本の言うとおりだよ。雅ちゃん、オレ達も一緒にヒバリさんのところに行こうか?」


……ツナ。そんなにブルブル震えながら言われても…。
あたしは引き攣った顔に苦笑いを浮かべて、手をヒラヒラ振った。


「いーよ、いーよ!あんたらまでボコられたら困るし。
 大丈夫。あたしひとりで行ってくるよ」

「確かにオレ達が一緒に行っても、ヒバリさん相手じゃ役に立てそうもないもんね。はは…」


ツナの乾いた笑いが、並盛中最強の風紀委員長『雲雀恭弥』の恐ろしさを如実に物語っていた。


***


ご飯を食べ終わった3人はそれぞれあたしを気にかけてくれたみたいだけど、先に教室に帰っていった。

あたしは応接室に行くのが億劫でまだ屋上にいる。
ひとりで行くと言ったものの、やっぱり怖い。
……もう少ししたら行こう。
5時間目が始まる直前に行けば、授業を口実に逃げ出せるかも。
うだうだ考えながら梯子を上って、給水タンクに背を預け座ってみる。
適度な満腹感が眠気を誘う。
大きな欠伸をしながら見上げれば……



―――――綺麗な空。



こんなに雲のない空って珍しい。

『青』というよりも『蒼』。

風もなくて穏やかで。
視界を『蒼』いっぱいにしたくて、ゴロンと仰向けに寝転がる。
眺めてるうちに段々自分が空に包まれているような錯覚に襲われる。
急に昨晩のようにフレーズが浮かんできて。
慌てて持っていた生徒手帳とペンをポケットから取り出して、夢中になって書き留める。

一度こうなっちゃうともう止まらない。

ああでもないこうでもないと、ペンを走らせては違うと思うフレーズを塗り潰す。その繰り返し。
あぁ、いいメロディーも浮かんできた!
手探りでギターを探す。
あ、あれ?ギターどこだっけ。
そこで一気に現実に引き戻されて、ハッとする。

い、今何時?!

腕時計を見れば16時を回っていた。

や、やっちゃったぁぁぁーーーーー!!!

頭を抱えて蹲る。
集中すると周りが見えなくなるんだよね、あたし。
応接室に呼び出されたコトなんてすっかり忘れて、ついでに午後の授業に出るのも忘れて作詞に没頭してしまった。

長所と短所は紙一重。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!
今更応接室に行ったところでボコられるのは目に見えている。
それが分かっているのに自ら行くのもバカらしい。

よし、決めた!もう今日は帰ろう!

きっともう風紀委員長殿も呼び出したコトなんて忘れてる。
たったひとりの遅刻者に構っているほど暇じゃないだろうし。

―――――っていうかそう思いたい…。

生徒手帳とペンを無造作にポケットにしまい、立ち上がってもう一度空を見る。
まだ明るいけれど遠くの空で夕闇が広がり始めている。
塒に帰る途中かな。数羽の鳥が羽を優雅に羽ばたかせ空を横切っていく。

―――――空を飛ぶのって気持ちいいんだろうなぁ…。

いつも塀の上から飛び降りてるけど、流石に飛んでる気分にはならない。
足元を見る。
高さにして3m弱くらい?
ここから飛び降りても『落ちる』くらいにしか感じないかな。
助走つけたらどうだろうという危険な考えが浮かぶ。
着地失敗したら勿論痛そうなんだけど、滞空時間のびるじゃない?

誘惑には勝てなくて。

あたしは軽く助走をつけて、梯子を使わず給水タンクのある場所から屋上のコンクリートに飛び降りた。

その時不意に真下のドアが開いた。

ちょ…!!

もうあたしの足は地を離れてる。
どいて!と叫んでも到底間に合わないし、何よりあたしは現れた人物に驚いて見入ってしまった。
足元の影と頭上の気配を感じ取り、振り仰いだその人は朝と同じ表情を浮かべて。


「「!!!」」


お互いあまりにビックリして声も出せず、そのままぶつかる。
本日2度目のタックルの相手は…何の因果か、またもや『雲雀恭弥』だった。



2008.8.10


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