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01


彼との出会いは最低最悪だった。
今まで同じ学校に通いながら遭遇するコトがなかったのが不思議なくらいだけど、彼は普通に生活していたら決して交わるコトのない人種で。
ただ目があった瞬間、綺麗な容姿に似合わない仏頂面がヤケに瞼に焼きついた。


***


今月何度目の遅刻だったっけと数えながら、本当なら2時間目の授業を受けている時間にあたしは並盛中に向かって走っていた。
背中のギターがアスファルトを蹴るリズムに合わせて揺れる。
寝る直前にいいフレーズが思い浮かんでしまったのが運の尽き。
書き留めないと忘れちゃうじゃない?そういうのってさ。
んで書いてたら、どんどん寝るのが遅くなって…。
両親は共働きで朝早く家を出て行く。
一人っ子のあたしを起こす役目は携帯のアラームが担っているが、まぁ、無意識に止めちゃうんだよね。
んで、二度寝。
気が付けばとうに1時間目の授業は始まっているみたいな。
ははは。我ながら神経図太いと思うよ。

うちの学校には風紀委員会があって、下手に1時間目に間に合う時間に校門にいれば遅刻者として捕まってしまう。
んで罰則を受ける。校庭の草むしりとか、トイレ掃除とか。
学校の教員にまで及ぶその権力は侮れない。
だから見つからないようにこっそり校舎裏の塀をよじ登って、登校している。
風紀委員が怖いというよりも、どちらかといえば罰則を受ける方が面倒だとあたしは思っていた。

辺りをきょろきょろ見回して人がいないのを確認し、あたしはいつものように塀をよじ登る。
塀の上に一旦立ち上がって、気分良く飛び降りた。
とその時突然近くに生えていた木の陰から、あたしの着地地点と定めた場所に人が飛び出してきた!


「「!!!」」


目が合ったのはほんの一瞬。
お互い予想外の出来事に、飛び出してきたその人もあたしも避けられるはずもなく、見事にぶつかってしまった。
ぶつかるというよりもあたしがその人を押し倒す形になっちゃったんだけどね。
慌てて地面に腕をついて上体を起こして謝る。


「ご、ごめんなさい…!」

「………」


あたしの下敷きにされたその人はムッとした表情であたしを睨む。
あっちゃー。めっちゃ怒ってる顔だよ。
あれ?学ラン着てる…まさか!
チラリと視線を左袖に走らせれば『風紀』の腕章…!
よりによって風紀委員に上空からタックル食らわせちゃったよぉぉぉーーー!
しかも今現在マウントを取っている。
ここは顔を覚えられる前に、逃げるが勝ちだ。


「す、すみませんでした!」


勢い良く立ち上がって頭を下げ、その場を走り去る。
後ろで「ちょっと、君」って呼び止められたっぽいけど、構わずひた走る。
一度振り返って追ってこないコトを確認して胸を撫で下ろし、校舎に駆け込んだ。

それにしてもリーゼントじゃない風紀委員初めて見た!

不可抗力とはいえ男子を押し倒したコトに、ちょっと動揺してる。

…怖い顔してたけど、綺麗な顔してたな。あの人。

そんなコトを考えて廊下を歩き、教室の前まで辿り着く。
ドア窓から中をそっと覗いて先生が黒板に向かっているのを確認する。
うし!OK!
ゆっくり音を立てないように注意して後ろのドアを開けて、身を屈めて自分の席まで移動する。


「音ノ瀬!見えてるぞぉ!コソコソしとらんでさっさと席に着け!」

「は、は〜ぃ」


ちぇ。後頭部に目でも付いてるのか・・・!
ギターを椅子の背凭れに引っ掛け、急いで自分の席に座る。

授業が終わると前の席のツナが振り返って話しかけてきた。
ツナとは小学校の時からずっとクラスが一緒だった。
腐れ縁ってヤツ。
『ダメツナ』なんて皆に言われてるけど、あたしはコイツがそんなに嫌いじゃなかった。
小学校の時はホントどうしようもないヘタレだと思ってたけど、近頃随分しっかりしてきたんだよね。
山本とか獄寺とか友達が出来たからかもしれない。


「雅ちゃん、また夜に曲作って寝坊?」

「うん、まぁそんなとこ」

「ホント好きだねぇ」

「あたしにはコレしか取柄ないもん」


椅子に引っ掛けたギターを軽く叩くと「知ってるよ」と笑われた。
あたし、勉強はあまり出来ないけど小さい頃から歌うコトが大好きで、
小5の時にギターを買ってもらってからは寝ても覚めても音楽のコトばかり考えている。
両親もツナも友達も、あたしの歌を好きだと言ってくれる。
それが凄く嬉しくて、もっと歌うコトが好きになった。


「そうだ、ねぇツナ。風紀委員にさ、リーゼントじゃない人っている?」

「え゛!!」


明らかにツナの動きが固まった。


「ちょ、怖い反応しないでよ」

「そ、その人と何かあったの?」

「いやぁ、いつものように塀よじ登って飛び降りたんだけど。急にその人着地地点に飛び出してきてさ。
 ちょ〜っと上空からタックルかましてしまったのよねぇ…あは、あはは!」


ツナの顔が見る見る青褪める。
そして恐怖に顔を引き攣らせ、ポツリと呟く。


「……それ、風紀委員長のヒバリさんだよ…」

「え?!えええぇぇぇーーーーー!!
 ふ、不良の頂点に君臨して並盛仕切ってる、あの『雲雀恭弥』?!」

「う、うん」

「群れてる連中を見ると即トンファーで潰しにかかるという、あの『雲雀恭弥』?!!」

「その『雲雀恭弥』だよ…」


そそそそそ、それってものすっごいまずくない?!
目の前のツナ同様あたしも一気に青褪めた。
顔覚えられてたら絶対目つけられる…!
い、いや、逆光だったと思うし、きっと大丈夫…な、はず…。
その時無情にもスピーカーから呼び出しの放送が流れてきた。



『2−A、音ノ瀬雅。昼休み応接室ね』



げ!!!ば、バレてたぁぁぁぁぁぁっ!!!
天井を仰ぎ頭を抱えるあたしに、ツナは「ご愁傷様…」と哀れみの目を向けた。



2008.8.3


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