28
自分の部屋に戻ってベッドの上にケースを置いて開けてみると、中から真新しいギターが現れた。
取り出してベッドの端に腰掛けて弦を弾き調律していく。
みんなが弁償してくれたギターは確かに今まであたしが使っていたモノと同じだけど、やっぱり新しくて手に馴染まない。
5日弾かなかっただけなのに、物凄く長い間ギターを手にしていなかったように感じる。
指が思うように動かなくてじれったい。
弾きたくて。
歌いたくて。
気持ちが急く。
けれどそこでふと頭に雲雀さんの顔が浮かんだ。
雲雀さん…どうしてギターを探してくれたんだろう。
いつもの雲雀さんならトンファーの一振りで簡単にみんなに制裁を下すはず。
けれど今回それをしなかったのは、何故?
いつものやり方だとまたあたしが同じ目に合うって考えた?
それともまたあたしの歌を聴きたいと思ってくれた?
何にしろあたしのことを考えてくれていたのは間違いない。
時計を見ると17時を少し回ったところだった。
―――まだ雲雀さんは学校にいるだろうか。
応接室で机に向かって書類整理してるかも……。
行ってみよう。
思い立ったら即行動だよね?
あたしは新しいギターを背負って、一路学校へと向かった。
***
学校に着くとあたしは一目散に応接室へと向かった。
ドアの前で大きく深呼吸をして、ノックする。
「失礼します」
そっとドアを開けたけれど、中に雲雀さんはいなかった。
窓際の机に近付いてみると、その上には書類や日誌が無雑作に開かれたままになっていた。
傍に置かれていたコーヒーカップからはまだ湯気が立ち昇っている。
まだ帰ったわけではなさそうだ。
うーん…雲雀さんが行きそうな所って何処だろう。
取り敢えず屋上に行ってみよう。
初めて雲雀さんの前で歌を歌ったあの場所へ。
何となくだけど、雲雀さんがいる気がする。
踵を返して今度は屋上に向かう。
1秒でも早く。
雲雀さんに逢いたい。
階段を駆け上って屋上に続くドアを体当たりするくらいの勢いで開け、梯子を上る。
「雲雀さん!」
「雅…?」
やっぱりいた!
雲雀さんは指にいつもの小鳥を止まらせて、あたしを見ると凄く驚いた顔をした。
―――そして眉を顰めた。
あれ?いつものように笑ってくれると思ったのに。
……何でそんな辛そうな顔をするんですか?
戸惑いながらもあたしは雲雀さんの傍に近寄る。
「隣、座ってもいいですか?」
「あぁ」
彼の了承を得て隣に腰を下ろす。
何だろう。
変な沈黙が2人の間に流れて…気まずい。
目の前には丁度沈みゆく太陽とそれが紅く染める空が見えた。
どう切り出そうか悩んでいたら雲雀さんの方が先に口を開いた。
「君に逢うのは5日振りくらいかな」
「あ、はい……学校休んじゃってすみませんでした」
「別に。無断欠席じゃないみたいだし」
「あの…!ギター…ありがとうございました。
さっき山本とファンクラブの人達がうちに来て…えっと雲雀さんがギター探してくれたって」
「あぁ。でも弁償したのはあの子達だよ」
雲雀さんは夕陽を見つめたまま呟いた。
そしてまた沈黙。
黄色い小鳥は彼の手の上で「ヒバリ?」と不思議そうに首を傾げた。
雲雀さんは小鳥を優しく撫でると、またポツリと話し出した。
「…君に謝らなくちゃいけないね」
「え…?」
「あの時君をひとりにしなければ、あんなことにはならなかった。
僕らしからぬミスだよ」
「雲雀さん…?」
ギターを壊されたあの日も彼はあたしに謝っていた。
雲雀さんが悪いんじゃないのに、どうして…?
「僕はね、雅。君のことを随分前から知ってるんだ。
君が塀を乗り越えて僕を押し倒したあの日よりも……ずっと前から」
そう言葉を続けて、雲雀さんは静かに茜空を映す瞳を閉じた。
2009.2.20
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