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23


あっという間に日曜日。
普段料理なんてしないし、お弁当だって作るのは初めてで。
料理本と睨めっこして何を作るか決めて、母さんに色々訊きながらどうにかこうにか完成させた。
母さんが作るお弁当に比べたら、あたしが作ったのなんて、ちょっと…いやかなり形がイビツ。
コレを雲雀さんに食べてもらうのかと思うと、何でお弁当作る約束なんかしちゃったんだと後悔の嵐が心の中に吹き荒れる。
は、初めてだもん!仕方ないよね?!


「雅〜?そろそろ行かなくていいの〜?」


洗濯物を干す母さんに訊かれて、時計を見る。
うわ!もうこんな時間!
急いでお弁当を包み壁に立てかけておいたギターを背負って、あたしは家を飛び出した。


***


今日の野球の試合は年に数回行われる隣町の中学校との交流試合で、今回は並中で行われる。
だから雲雀さんとも学校で待ち合わせ。
お弁当崩れないように気を使って持っていたせいで二の腕が痛い…。
弾む息を整えながら雲雀さんの姿を探すが、チラホラと応援に来た生徒や保護者の姿しか見当たらない。
グラウンドでは既にうちの野球部が練習をして、その中には勿論山本もいる。
あたしに気が付いた彼は軽く手を上げて挨拶してきた。
おぉ〜、山本ヤル気満々じゃん!
手を振って笑顔であたしもそれに応える。
すると背後から不機嫌そうな声が聞こえてきた。


「挨拶をする相手が違うんじゃないの?」

「ひ、雲雀さん!」


振り返るとそこには声の通り不機嫌そうな学ラン姿の雲雀さんが立っていた。
休みの日でも学ランなんだ…私服姿拝めるかもって思ってたからちょっと残念。
ムスッとしていた雲雀さんは一言「帰る」と溜め息交じりに呟くと踵を返した。
えぇ?!何で逢って早々機嫌悪いの?!


「え!あ、ちょっと待って下さいっ雲雀さん!」

「!」


あたしは慌てて雲雀さんの腕をガッチリ両腕で抱え込んで掴まえて、彼を引き止めた。
雲雀さんは歩みを止め、目を見開いてあたしを見下ろした。


「雲雀さんの為に人生初のお弁当作ったんですからね!
 食べてもらわないと困りますっ」


腕を放して彼の鼻先にお弁当を突きつける。
雲雀さんはあたしの剣幕にちょっとだけ驚いたみたいだったけど、目を瞑ってフッと笑った。


「…食後に歌のデザートは付くの?」

「勿論です。その為にギターだって…ほら!」


クルッと回って背中のギターを雲雀さんに見せる。
雲雀さんはやっと口元に笑みを浮かべて「それならいいよ」と言った。
作れって言ったのは雲雀さん、貴方でしょう…。
何であたしが無理矢理食べさせたいみたいな運びになってんの?
…でもまぁ、また歌聴いてもらえるならそれでもいいけど。

取り敢えずグラウンドの脇に移動して、他の応援客とは少し離れた場所にレジャーシートを敷く。
その上にギターとお弁当を先に置いて、さて腰を下ろそうかなと思った時、野球のユニフォームに身を包んだ山本がやって来た。


「あ、山本!」

「よ!音ノ瀬来てくれたんだな!…お。ヒバリも一緒か?珍しいな」

「…風紀委員長として君がちゃんと試合に勝つか見届けに来たのさ。
 この間は咬み殺すの見逃してあげたんだ。負けたら…分かってるよね?」

「あっはは!任せとけって!…オレは絶対に負けねーから」


意気揚々と、でも最後の一言に含みを持たせて言う山本の言葉に雲雀さんは眉をピクリと動かした。
そして2人は暫く睨み合う。
え、何この険悪な雰囲気…。
雲雀さんが怖いのはいつものコトだけど、山本の笑顔が、ちょっと怖い。っていうか黒い…?
不敵な笑みを浮かべていた雲雀さんは、学ランの内側から仕込みトンファーを取り出すと威嚇するようにチャキッと胸の前で構えた。


「何?喧嘩売ってるの?」

「わわっ雲雀さん!落ち着いて!山本これから試合なんですから…!」


な、何でそうなるんですか…?!
慌てて2人の間に割って入ると、彼はそっぽを向いてしまったけれどトンファーを下ろしてくれた。
はぁ…この2人最近衝突し過ぎ…。
山本も山本だよ…何か引っ掛かる言い方するし。
その時遠くから「おーぃ!山本〜!」とツナの声が聞こえた。


「おっと、ツナ達も来たみてーだな。ちょっと行ってくるわ。
 音ノ瀬、オレの活躍しっかり観ててくれよな!」

「うん!頑張ってね!」


山本は「おう!」と手を高く上げてから、少し離れたツナ達の方へ駆けていった。
その途中で『山本武ファンクラブ』の女の子達に黄色い声援を受けて、それにも手を上げて応える。
うわ〜、実際こうやって目にするとやっぱ凄い人気者だよね、山本って。
女の子達の目ハートマークに見えるよ…。
思わず口を開けてその光景を見ていたあたしに、雲雀さんが声をかける。


「…君は彼らのところに行かなくていいのかい?」

「あ、はい。後で顔見せくらいは行くかもですけど。
 今日はあたしの方から雲雀さんを誘ったんです。雲雀さん置いてなんて行きませんよ」

「…そう」


雲雀さんはスッとあたしから視線を逸らすと、少しだけ嬉しそうに呟いた。
あれ…?雲雀さんちょっと顔赤くない…?
あ、あたし何か変なコト言った?!
そんな雲雀さん見てたら、あたしまで顔が赤くなってきてしまった。


「え、えっと、座りましょうか?」

「あぁ、そうだね」

「ちょっと早いけどお弁当食べますか?」

「うん」


な、何か緊張するな…。
あたしはお弁当箱の蓋を開けて、雲雀さんに「どうぞっ」と差し出した。
中を見た雲雀さんの動きが一瞬固まる。
そして一言。


「……『天はニ物を与えず』って諺は本当みたいだね」

「あ、あはは!形は酷いですが味は大丈夫!です…多分…」

「………」


疑う雲雀さんの眼差しが痛い。

だ、だって初めて作ったんだからしょーがないじゃなぁーーーぃッ


***


食べてくれないかもと思ったお弁当を、雲雀さんはちゃんと食べてくれた。
しかも一品一品感想付きで…。
「コレは焼き過ぎ」とか「しょっぱい…」とか。
雲雀さんのあたしが作ったお弁当に対する総評は「見た目より悪くなかったよ」だった。
うう…不味いと言われるよりはいいけどさ。

交流試合はお弁当を食べ初めてすぐに始まった。
両者実力が拮抗していて、なかなか見応えのある良い試合をしている。
雲雀さんは野球に興味がないのか、さっきから欠伸を連発している。
水筒に入れてきたコーヒーをちょろちょろとカップに注ぐとふわっと香ばしい匂いが鼻を擽る。
雲雀さんも気が付いてこちらを見た。


「インスタントですけどコーヒー飲みますか?」

「うん」


カップを渡すと彼は少しフーフーと息を吹きかけてから、ズズッと飲んだ。
欠伸を噛み殺しながら目を潤ませる彼は、何というか…変な言い方だけど普通の男の子な感じがする。
お腹いっぱいになって眠くなるとか、自分と同じなんだと思うと妙な親近感が湧いてちょっと嬉しくなる。
いつの間にか雲雀さんをじっくり見てしまっているのに気が付いて、慌てて彼から視線を外して試合の方に集中する。
丁度山本に打順が回って来たところだった。
彼はピッチャーが投げた甘い球を見逃さず的確にバットで捉えると、軽々飛ばしてホームランを打ってしまった。
山本はベースを踏みながらこちらに向かって高く拳を突き上げた。
それに手を振って応え、あたしはちょっと興奮気味に雲雀さんに話しかける。


「山本ってばホームラン打っちゃいましたよ!
 ね?ボコボコにしないで正解だったでしょ?」

「…そうだね」


抑揚のない声が返って来た。
どうしたんだろう、雲雀さん。まださっきのコト怒ってるのかな…。
それともただ眠いだけ?
走っている山本をつまらなそうに目で追いながら、雲雀さんはぽつりと呟いた。


「…雅と山本武は付き合ってるの?」


予想外の言葉に飲んでいたコーヒーが気管に入りそうになって咽る。
い、いきなり何てコト訊くんですか、貴方…!


「ケホケホ…!な゛何言ってんですか…!山本は友達ですよ」

「ふぅん。そのわりにはいつも群れてるよね」

「それはあたしがツナ…あ、えっと沢田と長い付き合いで、沢田と一緒にいると自然と沢田と仲が良い山本も一緒になるだけですよ…!」

「…意外だな。君、あの草食動物と付き合ってるの?」

「ちちち、違います!言葉の綾です!
 長い付き合いっていうのは幼馴染みたいな意味ですっ」


顔の前でバタバタと手を振って否定する。
何でこんなに必死になって否定してるんだ、あたし…!


「…じゃぁ、君は誰のモノでもないんだね?」

「彼氏がいるかいないかという意味なら、残念ながらいません…」

「…そう」


それ以上彼は何も訊かず、一進一退の試合をただ眺めるだけだった。
雲雀さんってば変なコトを訊く。
あたしみたいな歌うコトしか取柄のないコを相手にしてくれる男の子がいるわけないじゃん。

―――こうやって今雲雀さんの隣で話してるのだって不思議なくらいなのに。

そういう雲雀さんはどうなんだろう…。
彼女…いるのかな。
雲雀さんカッコいいし、いても…不思議じゃないよね。

あれ…?何か胸が痛いや…。

雲雀さんが自分以外の女の子と仲良く話している姿を想像してチクリと痛んだ胸をあたしはそっと押さえた。



2008.12.21


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