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20


と、とりあえず教室行こ…。

人気のない廊下を早足に突き進んで教室へ向かう。
真っ暗な教室から置き去りにされた鞄を攫うように取って、また足早に廊下を歩いて昇降口に向かう。
べ、別に人気のない校舎内が怖いとかじゃないんだからね?
あ、いや。ちょっとは怖いけど。
靴を履き替えて外に出ると、既に雲雀さんが待っていた。
早っ!何でもういるの?!
用事済ませてから来るって言ってたじゃん!


「遅かったね」

「…雲雀さんが早いんだと思います」

「そう…?まぁいいや。帰るよ」


トレードマークの学ランを翻して向きを変えると、雲雀さんは校門に向かって歩き出した。
慌ててカルガモの親子よろしくその後に続く。
昨夜は彼に引き摺られるように後ろを歩いたっけ。
何か変な感じ。
暫く黙って歩いていたが…見事に会話がない。
前で揺れる雲雀さんの学ランを見つめながら、どんな話題を振ろうか考えていると「そういえば」と彼の方から喋り出した。


「僕に気配を感じさせないであの距離まで接近するなんて。
 君、センスあるんじゃない?」

「な、何のですか?」

「戦闘の」


そう言って立ち止まり、チラリと肩越しに視線をよこした雲雀さんの声はとても愉しそうだ。
固まったあたしを見てククッと笑い、「冗談だよ」とまた前を向いて歩き出す。
な、なんだ。冗談か。
この人のことだからそのままトンファーで攻撃してきそうで怖い。
また沈黙。
どうせならもっと広げられる会話振って下さいよ、雲雀さん。

でも笑ってくれてる。

―――あ、そういえば。聞きたいコトあったんだ。


「あの、雲雀さん」

「何」

「えっと、昨日も思ったんですけど、どうして家知ってるんですか?」

「君が遅刻をした挙句塀を乗り越えて僕を押し倒した時に、一通り君の身辺は調べたからね」


う…忘れてたのに、墓穴掘った…。
あれはインパクト大だったよね。
学校を仕切ってる風紀委員会だもん、住所調べるのなんて簡単なんだ。
恐るべし、風紀委員会…!
二の句が告げなくなって途切れた会話はそこでそのまま終わり、あたしと雲雀さんは家まで無言で歩いた。

家の前に着くと、雲雀さんは「じゃぁね」と踵を返した。


「あの!」

「…何だい?」

「また…」


『またあたしの歌を聴いてくれますか?』と言いかけてそれを飲み込んだ。
もしかしたらもう雲雀さんは満足してて聴きたくないかもと思ってしまった。
だって最後寝てたし。
さっきは良いように解釈したけど、自信は無かった。
言い淀んだあたしを彼はまた肩越しに見ていたけれど、フッと笑って話し出した。


「さっき、僕の寝顔見たよね」

「あ、はぃ…」

「見物料、払ってよね」

「ぇえ?!け、けけけ、見物料?!」

「まさかタダ見するつもりだったのかい?」

「タダ見も何も…!お、お金取るんですか?」

「見物料は歌で許してあげる」

「へ?」

「だからまた歌いにおいで」

「……!はぃっ」


雲雀さん…あたしの思ってるコト察してくれたの?
やっぱり素直に歌いに来いとは言わない辺りが彼らしい。
でもでもでも!
またおいでと言われて否応無しに心が躍る。
「またね」と再び歩き出した彼の背中に慌てて声をかける。


「雲雀さん、おやすみなさい!また明日!」


彼は振り返らずに手を軽く上げて答え、夜の閑静な住宅街に消えてしまった。

―――また歌う約束をした。

門の前でガッツポーズを決めると、小躍りしたい気持ちを抑えてあたしは自宅の門を開いた。


***


「ただいま〜!」

「おかえり、雅。…あら、何だかご機嫌ね」

「え、そ、そう?」


不自然に裏返った声が出て、慌てて口を両手で覆うと母さんはクスクス意味ありげに笑った。


「最近帰って来るのも遅いし、彼氏でも出来た?」

「か、母さん!」

「もしかして沢田さんちのツナ君?」

「違う!ありえないからっ」


全力で否定すると母さんはつまらなそうに「なーんだ」とガッカリした様子でキッチンに戻って行った。
母さんたら急に何言い出すんだか!
あたしは自分の部屋に行く為に階段を上る。
ツナには悪いが恋愛対象として考えたコトないし…!
幼馴染っていうか、腐れ縁っていうか。
第一ツナは京子が好きなんだから、益々ありえなくて想像も出来ない。
このところ毎日帰りが遅いのは罰則で雲雀さんに呼び出されていたからで、恋愛なんてこれっぽっちも…。

恋愛なんて…。

あぁ、まただ。
あたしは自室のドアノブに手をかけて、止める。
その手で自分の胸にそっと触れてみた。

雲雀さんのことを考えると胸がモヤモヤして、切なくて…。

さっき別れたばかりなのに、もう雲雀さんに歌を聴いて欲しくて。
明日になればまた聴いてもらえるんだ。
このところちょっと滞っていた曲作りも今は気分が良いから出来そう。
ちゃっちゃとご飯食べて、戻ってきたギターで作曲しよう。


そしてまた雲雀さんに聴いてもらおう。


自分の胸に触れていた手を再びドアノブに戻してカチャッと回した。



2008.11.28


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