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勿論怖くて眠れるわけもなく。
そのお陰で今朝は特技の寝坊スキルは発動しなくて済んだ。
でも眠くて眠くて仕方がない。
立て続けに出そうになる欠伸を噛み殺しながら朝の通学路を歩く。
その途中でツナと一緒になった。
「あれ?雅ちゃん、おはよ。今日は早いじゃん」
「ツナか〜おはよ〜。何かもう寝てられなくてさ…」
「ず、随分だれてるね…まぁ気持ちは分かるけど。ハハハ」
「はぁ…それでもちゃんと学校に向かうあたしって偉いわよね〜」
欠伸と溜め息を交互に繰り返すあたしに、ツナは苦笑いを浮かべた。
「…ギターもうダメだろうなぁ。
きっともう雲雀さんのトンファーの餌食になって、原形を留めないくらい粉々にされてるよね…うぅ…」
「泣かないでよ…!きっとそんな悲惨なコトにはなってないと思うからさ」
「……根拠は?」
「…ない、けど」
陰鬱な視線を向けると彼はたじろいで、視線を泳がせた。
いい加減なコト言ってくれちゃって。
でも…ツナの感って結構当たるだよなぁ。
テストの山勘は当たらないけど。
「上手く言えないんだけどさ…。
昨夜のヒバリさん、確かに機嫌悪かったけど怒ってるのとは違う気がしたんだよね。
だってさ、怒ってたら我慢なんかしないじゃん、あのヒト」
「…うん」
「だからきっと、雅ちゃんのギターを壊すようなことはしてないと思うんだよね。
うーん、やっぱり上手く説明出来ないや。ハハ」
「ううん、ありがとツナ。何か元気出てきた!」
ツナと話しているうちにあっという間に学校に着いてしまった。
きょろきょろ辺りを見回したが今日は風紀検査はないようで、登校する生徒達の顔も穏やかなものだ。
雲雀さん、いない。
無意識のうちに雲雀さんの姿を探している自分に内心驚く。
ホッとしてるのにガッカリもしてる。変なの。
「どうかした?」
「あ、ううん」
「そうだ、今日も放課後ヒバリさんのところに歌いに行くの?」
「それなんだけどさ、どうしようかと思ってて…」
ドアが開いたままの教室に足を踏み入れる。
いつもの教室。
いつものクラスメイト。
先に異変に気が付いたのはツナだった。
「雅ちゃん…、アレ…!」
肩を叩かれ彼の指差す方に視線を向ければ、そこはあたしの席。
その机の上にはぽつんと置かれたあたしのギター。
どうしてギターが…。
先に教室に居た京子があたしに気が付いて、にこやかに声をかけてきた。
「雅ちゃんおはよう。
そのギターさっき風紀副委員長の草壁さんが置いていったよ」
「草壁さんが…?雲雀さんじゃなくて?」
「うん」
「…そう」
―――これは、どう解釈すれば良いんだろう。
罰則はもう終わりというコト?
それとも、もう雲雀さんはあたしの歌を聴きたくないというコト?
あたしはまだ彼を納得させる歌を歌っていないのに。
あんなに取り返したかったギターが目の前にあるのに…全然嬉しくない。
それどころか胸が苦しくて、息が詰まりそう。
「雅ちゃん…?」
佇んで呆然とギターを見つめるあたしを、ツナと京子は怪訝そうに見ていた。
2008.11.5
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