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- ナノ -

15


雲雀さん見えなくなっちゃったな…。

彼の姿が完全に見えなくなると自然と溜め息が漏れた。
変なドキドキが治まらない。
今日はなんて疲れる1日だったんだろう。
もうさっさとお風呂入って寝ちゃおうかな。
そう思って門を閉めた時、小声で「雅ちゃん」と呼ばれた。
声のした方を見るとツナが塀の外から顔を覗かせて「こっちこっち」と手招きをしていた。
獄寺と山本もいる。
あたしは彼らの方に駆け寄った。


「みんな!」

「良かったぁ!無事に帰って来られたんだね」

「う、うん。まぁね」

「…意外だな。あの野郎が女を家まで送るなんてよ」


獄寺が雲雀さんの去っていった方を見つめながら呟く。
うわ、見られてたんだ…!
知らない間に見られてるのって、何か気恥ずかしい。
彼の視線の先にはもう雲雀さんはいなくて、ただ等間隔に並んだ街灯が住宅街の暗闇を照らしていた。
あたしの顔を見てツナが首を傾げる。


「あれ?雅ちゃん、泣いた…?ヒバリさんに何かされた?」

「へぇ?!な、何にもされなかったよ?うん」

「あ、怪しいよ、その反応…。すっごい動揺してない?」

「うは、うはは!してないしてない。断じてしてない。
 雲雀さんにはちょっと怒られただけ」

「…雅ちゃん誤魔化す時変に笑うよね」

「う…」

「まぁ、言いたくないならいいけど」


ジト目でツナに見られて思わずたじろいでしまった。
ツナが心配してくれてるのは分かるんだけど、さっきの出来事を話すにはちょっと気が引ける。
だってさ、口論の挙句雲雀さんの前で泣き喚いて、だ、抱き締められちゃったとか…。
いくらツナとの仲でも、い、言えない…。
別に悪いコトをしていたわけじゃないのに、軽い罪悪感を感じるのは何で…?
頬に感じた雲雀さんの体温を思い出して、少し鼓動が速くなった。


「音ノ瀬、ごめんな。
 おまえ庇うつもりでオレが庇われちまったな…」


山本が頬をぽりぽり掻きながらすまなさそうに眉尻を下げて謝ってきた。
丁度壁越しにツナから鞄を受け取っていたあたしは、ブンブン首を振った。


「山本が謝るコトなんてないよ!
 雲雀さんに目つけられてるのはあたしなんだし、そのせいであんたが怪我したらあたしが困るもん」

「音ノ瀬…」

「そんな顔しないでよ。山本があたしの歌好きだって言ってくれるように、あたしもあんたが野球してんの見るの好きなんだよね。
 だから今度の試合もちゃんと出てくれないと、あたしがつまんないの!
 それに今夜はすっごい楽しかったんだから!湿っぽいのはナシ!
 っくぅ〜!思い出したらまた歌いたくなってきちゃった!」


にっこり笑顔を向けると一瞬呆気に取られていた山本も「そっか!」と笑い返してくれた。
山本の屈託のないこの笑顔。女の子がメロメロになるのも仕方ない。


「やっぱ、音ノ瀬ってすげーのな!」

「え、何で?」

「ヒトを元気にさせる天才だってコト!」

「えぇ?!」

「うん、そうかもね。オレ、雅ちゃんの歌に何度元気付けられたか分かんないよ」


ツナも山本の言葉に頷いた。山本やツナの方が凄いと思うけどなぁ。
う、うわー。褒められちゃったよ…!
面と向かって褒められるとすっごい照れる。
今なら感謝の歌とか作れそう。
獄寺もそっぽ向きながらボソッと珍しく褒めてくれた。


「…ヒバリがおまえに歌わせたくなる気持ちも分からなくもねーな。
 透明感のあるいい声だと思うし、オレのピアノについて来れるくらいだ。少しは自信持っていいんじゃねーか?」

「何、その上から目線…!」

「ハハ、素直じゃないね、獄寺君」

「結構ノリノリだったクセにな!」

「っるせ!野球バカ!10代目のお言葉に便乗すんじゃねぇ!」


お、怒るポイントソコなんだ。
獄寺って本当にツナのこと好きだよねぇ。
多分ね山本のことも口にするほど嫌いじゃないと思うんだ。
だってさ、本当に嫌いだったら一緒の空間にいるのも嫌になるじゃない?

…あれ?ってコトは雲雀さんはあたしのこと嫌いではないのか。
罰則だとしても歌わせる為に応接室に呼ぶくらいだし。
うーん、でも流石に嫌われちゃったかもな。
さっきあんな態度取っちゃったし…。
…何だろう。
雲雀さんに嫌われたかもしれないって思うと、胸が痛い。

明日もやっぱり応接室に行った方がいいのかな。
来るなとは言われてないし、まだあたしは彼を納得させる校歌を歌ってはいない。
だけど気まずい…。

ソコまで考えてあたしは大変なコトに気が付いて思わず頭を抱えて叫んでしまった。


「あああああぁぁぁぁぁっ!!!」

「うぉっ」

「な、何…?!」

「いきなりでけー声出すんじゃねーよ…!アホ女ッ」


並盛トリオの身体がビクッと反応し、視線が大声を上げたあたしに集まる。
こんな時間に大声上げるなんて、近所迷惑だとかそんなコトよりも…!


「あ、あたし、さっき勢いに任せて雲雀さんにタメ口きいちゃった…!」


一瞬にしてその場の空気が凍った。
心臓はバクバクと忙しなく血液を身体に送り出しているのに、あたしは血の気が引く相反する感覚に襲われた。

こともあろうにあの雲雀さんにタメ口きくなんて、何て大それたコトしちゃったんだ…!

あたしのバカーーーーーッ!!!



2008.11.5


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