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13


ど、どうして雲雀さんが…!!

思ってもみない人物の登場にあたし達4人は固まってしまった。
いや、浮かれ過ぎて考えなかったという方が正しい。
風紀委員が町を巡回しているのは知っていたし、この間だって山本の口からそんな話を聞いていたんだから。
文字通り蛇に睨まれた蛙状態。
握った掌にじわりと汗を掻いているのが分かる。


「並盛の風紀を乱す行為は許せないな」


雲雀さんはひとりひとりに視線を投げると、最後にあたしを見た。
そして口角を上げて薄く笑う。


「そうか…放課後、君の様子がいつもと違ったのはこのせいだね」


こ、こわっ!!
雲雀さん、口は笑ってるけど目が笑ってません…!
ゾクリと背中に悪寒が走る。
我に返ったツナが慌てて手を振って弁明した。


「ひ、ヒバリさん、雅ちゃんは悪くないんです!オレが無理矢理誘ったんです!」

「違うぜヒバリ!オレが10代目に提案して誘ったんだ」

「あはは!それならオレも手伝ったし共犯ってコトになるな」

「ちょ、ちょっとみんな何言って…!」


並盛トリオは一斉にあたしを見ると「シーッ」と人差し指を立てて口に当てた。
おぉ、息ピッタリ。
…って感心してる場合じゃない!
そんなバレバレの言い訳、雲雀さん相手に通じるわけないじゃんか…!
案の定雲雀さんの機嫌は見る見る悪くなった。
仕込みトンファーを取り出して、威嚇するようにヒュッヒュッと空を切る。


「僕の前で群れないでくれる…!」

「すみません、すみません!すぐに解散しますっ」


人通りの多い駅前で風紀委員長様が暴れ出しては不味い。
あたしは獄寺がキーボードを片付けるのを手伝おうと駆け寄ろうとした。
すると雲雀さんに手首を掴まれて引き止められる。
ビックリして振り返ると突き刺さるような冷たい瞳と視線がぶつかった。
夕方の応接室で垣間見た彼とのギャップに、思わずゴクリと唾を飲み込む。


「君は僕について来て」

「え…でもあたしツナと帰る方向一緒なんで…」

「ついて来るんだ」

「…は、はぃ」


有無を言わさぬ雰囲気と口調に逆らえず、頷いて了承する。


「君達、咬み殺されたくなかったらとっとと片付けて真っ直ぐ家に帰りなよ」

「ちょっと待てよ、ヒバリ。音ノ瀬をどうする気だ」


あたしの手首を掴んだまま一歩踏み出した雲雀さんに山本が声をかけた。
いつものほほんとしている山本の表情が、少しだけ怖い。
バッターボックスに立った時の真剣な彼に似ていると思った。
夜だし、雲雀さんだし、心配してくれてるんだと思うと嬉しいけど、あたしは巻き込みたくない。
いくら雲雀さんでもいきなり女子をボコボコにするコトはない…と思うし。
ツナがハラハラして成り行きを見てる。


「君、この間から煩いね。一体何なの」

「何って言われてもなぁ…音ノ瀬は友達だしさ。
 ヒバリの音ノ瀬に対する態度、ちょっと酷くね?
 そいつだって一応女子なんだし、もう少し優しくしてやれよ」

「僕がこの娘にどう接しようと、それは僕の勝手だよ。君には関係ないだろ?」

「いやだからさ、オレが言いたいのは…」

「僕に意見する気かい?山本武。…目障りだよ」


雲雀さんの行く手を遮るように立っていた山本に彼の得物が牙を剥く。

ヤダ!雲雀さん止めて!!

そう思った時には身体が勝手に動いて、あたしは雲雀さんと山本の間に割り込んでいた。
襲ってくるであろう衝撃に、腕が反射的に動いて頭を庇う。
だけど衝撃は来なかった。
雲雀さんのトンファーは腕に当たる寸前でピタリと止まった。


「何のつもり」

「…山本、来週大事な野球の試合あるんです。
 レギュラーの彼が怪我でもして負けたら、雲雀さんの大切な並盛中の名に傷が付きますよ?」


頭を庇ったまま彼の目を真っ直ぐ見据えて言う。
これは一種の賭け。
雲雀さんは学校が大好きだ。
卑怯かもしれないけどこういう言い方をすれば止めてくれるかもしれない。
ジッとあたしの目を見ていた雲雀さんはチラリと山本を見た。
もう一度あたしに視線を戻した後、フンッとそっぽを向くとトンファーを下ろし、目を瞑って短く息を吐き出す。


「行くよ」


雲雀さんはあたしの手を引っ張って歩き出した。
良かった…!雲雀さん引いてくれた。
「オイ!」と尚止めようとする山本の方を振り返って、ブンブン首を振る。
心配そうに山本がこっちを見るが、折角止めたのにまた始められちゃ堪らない。
口パクとジェスチャーで「鞄お願い」と伝えて、あたしは雲雀さんに引き摺られるようにその場を後にした。


***


「雲雀さん、何処に行くんですか?」

「……」

「逃げませんから手離してもらえませんか?」

「……」


あたしの手を引いたまま無言で前を行く雲雀さんの歩調は速い。
たまについていけなくて転びそうになるが、止まってくれないから必死でついて行くしかない。
商店街を抜けて住宅街に入ってもそのペースは衰えなかった。
強く雲雀さんに掴まれたままの手首がじんじん痛んできた。
更に公園を横切るように突き進む彼の背中からは、やっぱり不機嫌オーラが漂っている。
あぁ、もう!何考えてるかさっぱり分かんないっ
いい加減疲れてきたあたしは雲雀さんに掴まれている腕をブンブン上下に振った。


「雲雀さん!そろそろ離して下さいっ」


返事はない。
その代わり手首を掴む彼の手に更に力が篭った。
痛さに顔が歪む。
くっそー!意地でも離さないつもりね。
そっちがその気なら最終手段よ!
あたしは近くの街灯に手を伸ばして抱きついた。
急に重くなった感覚にやっと雲雀さんは足を止めて振り返った。


「何がしたいの」

「そ、それはこっちの台詞です!
 何処に行くのかも教えてくれないし、さっきっからだんまりじゃないですか」

「…帰るんだよ」

「それならあたしひとりで帰れます。もう離して下さい」


雲雀さんは一瞬あたしの手首を掴む力を緩めたが、次の瞬間思い切り引っ張った。
離してくれると油断したあたしは抱きついていた街灯を簡単に放してしまった。
肩が抜けそうなくらいの勢いで引っ張られ、そのまま雲雀さんの胸に顔をぶつけてしまった。
は、鼻打った…!
それを抗議する間も無く今度は手首を掴んでいるのとは反対の手で顎を掴まれ上向かされた。
街灯の光が雲雀さんの顔に陰を落としているのに、その鋭い眼光はあたしを竦ませるのに十分過ぎる。
彼は色白の顔を鼻先が触れそうなくらい近付けて呟いた。


「あの草食動物達や通りすがりの他人の前では歌えるのに、どうして僕の前では歌えないの」


静かな口調とは裏腹に彼の手には痛いほどに力が込められあたしを離さない。
いつも意地悪い笑みを浮かべているか、不機嫌そうにへの字に曲がっている彼の口は何故か歯を食い縛っている。
まるで押え切れない怒りを伝えるように。

訳が分からない。
どうして怒ってるの?どうして悔しそうなの?

雲雀さんの態度にあたしは混乱した。



2008.10.23


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