ほだされちゃったよ。

「ああ……輪払、今何時?」

 思い出したように尋ねられた。面倒くせぇな、そう思いつつ寝がえりを打ち、時計を見る。

「……おお、もう12時だな。あけましておめでとさん。」

「……おめでと。」



ほだされちゃったよ、



「甘木起こすか?」

 起き上がり、ぐっと伸びをする。

「いや、いいよ。ぐっすり寝てるし。」

 和弘はそう言うと、思案深げに息を吐いた。

「なんか、こんなにおめでたくない年明けも珍しいよね。」

「そりゃあな。こちとら殺し合いしてんだからよ。」

 俺は和弘の隣りに座った。和弘は寝っ転がったまま、俺を見上げる。

「去年僕らなにやってたっけ?」

「____市羽目ん家でテレビ見てた。」

 一瞬、躊躇った。市羽目の名を言っていいものかどうか。

「____そうだったね。」

 和弘はよいしょ、と小さく呟いて起き上がる。その横顔はいつになく暗い。

「市羽目か。アイツ……敵国の人だったんだよな………」

「ああ。それがどうした。」

「アイツ、どう思ってたのかな?」

「なにを。」

「僕達と一緒に居る時。」

 伏し目がちな和弘の瞳。あーあー、見たくねぇんだよなぁ………コイツがこういう顔すんの。

 言葉がでなくて沈黙する。和弘はふうっと息をついた。

「僕達は親友だと思ってた、」

「俺は思ってねえぞ、あんな優柔不断野郎。」

「もう、建前はいいって。」

 和弘は俺を軽く睨んだ。 素直になれよ、少しはさ。

「………ちっ、悪かったな」

「____でもさ、市羽目は、僕らのこと、」

「?」

「……恨んでた、のかな?日本人だから。」

 そう言って俯いた和弘の横顔が、あまりに切なくて、なにかを言わなきゃいけない気分になった。でも、なにも言えない。回らない頭が憎い。

 なんでもいい、とにかく、なにか別のことを____


「A Happy New Year!!」

 夜中に見合わぬ大きな声。沈黙が破られて、俺は出入り口を見る。 一組の男女が扉を開けた。

「……ノイ君?」

 和弘が、きょとんとした顔で言う。俺はソイツらを知らない。ただとりあえず胡散臭い。

「シンネン早々うっさいよにーやん。かずっち、あけましておめでとう。」

 ちっちゃいガキが兄と思われる長髪野郎を見上げて言う___あれ、コイツ____

「な、なあ、和弘。」

「ん?なに、輪払。」

 ちょいちょい、と手で呼び寄せると、和弘は俺の口に耳を近づけた。

 声を潜める。

「___なんだあのニーソ女!下はいてねえじゃねえか!」

「動きにくいからはかないんだって。大丈夫、いずれ慣れるよ。」

 何でもないことのように和弘は言った。俺は当然のことながら焦る。

「いやいやいや頭おかしいだろ!」

「まあ確かに、ちょっと変かもね。でもそれより、あの兄の方がもっと変な人だよ。」

「え、マジで。」

「うん、マジで。」

 うげぇ、と思わず声がでた。露出狂の妹にそれ以上の変人の兄か。 心の底から関わりたくねえ。

「……とりあえず、自己紹介とかした方がいいか?」

「うん、だね。」

 覚悟を決めて振り返る。机から降りて、おかしな兄妹二人と向き合った。

「あー、和弘君、この人は一体、誰なんだい?和弘君の知り合いかい?」

 長髪野郎が和弘に聞く。

「あーその人は僕の親友。えっと名前は、」

「いい、いい、自分で言うから。」

 いつもは俺に突っかかるくせに、こういう時和弘は、なんの躊躇いもなく『親友』という。ったく、むずがゆいったらありゃしねぇ。

「俺はワバライトラ。輪っかの輪に、厄払いの払に、普通の虎で、輪払虎だ。」

「ふ〜むなるほど。仲々にかっこいい名前だねえ輪払君。私は戸羊ノイという。で、こいつは」

「戸羊ノユ。引き戸の戸に、羊に、片仮名でノユ。あとコイツって言うなにーやん、うざい。」

 長髪野郎は笑顔で、ニーソ女は無表情で、答えた。

「そうかよ。んじゃまあお二人さん、これからよろしく頼むぜ。」

 俺はとりあえず長髪野郎と握手した。 あーなんだこれ、すげえ殴りてぇ。

「うむ、よろしく頼むよ輪払君!!いやあ心強い仲間が増えたなあノユ。」

「よろしく虎の名のにーちゃん。あと心強いかはまだ分からないじゃんにーやんのバーカ。」

 へえ……結構言うじゃねえかこのガキ。

 俺は舐められんのが嫌いだ。好きなヤツはいないと思うが。
「そうかよ……頼りねえにーちゃんで悪かったな、クソガキ___!!」

 握手していた手を握ったまま斜め下に振り払い、長髪野郎の頭をなぎ払うように押し倒す。そしてうつぶせに倒れた長髪野郎の背を足で踏みつけ、握っていた右手をひねり上げる。その間約2秒。 これでもまだ、頼りにならねーか?

「あ、ちょっと輪払!!」

「はっ、悪かったな長髪野郎。ちょっとイラっときたもんで___っ!」

 その時、気付いた。

 冷たいモンが、首筋に当たってる。

「にーやんを放せ、とらっち。」

 いつの間にかクソガキは、俺の背後の机に立っていた。首筋にナイフ当ててやがる。 いつの、間に。

「___悪かったよ、痛くはしてねえから、そう怒んなって。」

 パッ、と手と足を放し、両手を上に上げる。つ、と汗が首筋を伝った。何だこの速さ………化けもんかよ。

「………さっきの発言はテイセイするよ。心づよいね虎の名のにーちゃん。」

「う、うへえ……なんでこんなことをするんだい輪払君!私は君のことを心強いと言ったのに、」

「ああ?なんか言ったか長髪野郎。」

 苛立まぎれにガンを付ける。長髪野郎は怖じ気づいたようだった。

「……なにも言ってませんすいません。」

 はあ、とため息をついて俺は和弘を振り返った。その間にとん、とニーソ女は机から降りる。和弘はちょっと楽しそうに見えた。

「オイ和弘、このガキいってえ何者だ?」

「……その子は、SEPの対象者だよ。あと、そこの超絶面倒くさい彼も。」

「その言い方はないでしょ和弘君!!」

「ニーソ女の方は分かるが、このビビリめっちゃ弱えぞ?」

「頭脳専門だってさ。戦闘能力はなさそうだね。RPGで言うと魔導士タイプ?あの、回復系しか出来ないヤツみたいな。」

「ああはいはい、真っ先に死んで必要な時に使えねーヤツな。」

「二人ともさりげにひどいよね!!」

「それにはさんせーい。」

「ノユまで!?ひどいよ!!」

 長髪野郎が大声を出す。耳につく、うっせえなぁ。 大声は嫌いだってのに。

「んん……もうなんなのうるさいわね、私の安らかな睡眠を邪魔しないで頂戴。」

 ごちゃごちゃ言い合っていたせいか、それともノイの大声のせいか。おそらく後者だとは思うが___とりあえず甘木が起きてしまった。

「あら、ノユノユ。」

「みーみー、あけおめ。」

「あけましておめでとう、御影君!」

「……あけおめ、御影。」

 みんなにつられて、よう、と声をかけてしまった。案の定睨みつけられる。俺の何がそんなに気に食わねえんだよ、ちくしょう。

「あら、年越したの?……実感、湧かないわねえ。」

「なんのイベントもなかったからな。」

「___新年か。」

 はぁ、と和弘は気の重そうなため息をついた。しばらく額に手をやって、意を決したように顔を上げる。

「? どうした、和弘。」

「御影、ちょっと着いてきてくんない?」

「え?別にいいけど。」

 和弘が御影の手を取って、教室の出口へ向かう。俺が遠目から観察してると、扉の手前で和弘はぴたっと止まった。

「皆はここで待ってて。輪払、ぜっっっっったい来んなよ!!じゃ!!」

やりすぎなくらい溜めに溜めて言い切ると、和弘は教室を出て行った。ほーお……これはもしかしてもしかしますか?

「ん?なんだろうなあ、あの二人。いきなり出てっちゃって。」

「ほんと、空気よめないなにーやん。」

 ノユのジト目に心底賛成する。コイツバカか脳味噌あるか?それとも青春に縁がないのか。 後者な気もする。

「まったくだ。さて、見に行くか!」

「え?ここで待っててって言ってたじゃ、」

「ったくてめぇはマジで面倒くせえな。こんなもん、見に行くしかねーだろが!他に選択肢ねーよ、ノベルゲーム並みだよ。」

「にーやんのバーカ。待ってるんなら待ってろ。」





 かつかつかつかつ

 ちょっと早足すぎるぐらいに廊下を歩く。御影の手は、握ったままだ。

「ちょっと和弘、少し手が痛いわ。そろそろ止まって____」

 そこで僕は、歩みを止める。突然の動きに、御影は少し驚いたようだった。

「和弘、一体どうしたの?」

 すー、はー。大きく深呼吸。僕は御影を振り返らずに言った。

「御影、君、僕のこと好きだ好きだっていつも言ってるじゃん?まあ、冗談だってのは分かってるんだけどさ。」

「____全く、和弘ったら本当に鈍感。」

「なんか言った?」

「いいえなんにも、ダーリン。」

「………僕は、」

「え?」





 なにが起こったか分からない。

 和弘はそう言った後、私の手をぐっと引き寄せ、私を少し乱暴に壁に叩き付けた。ちょっとだけ痛い。 いきなり、なにするの。そう言おうと思ったけど、れど、言うことは叶わなかった。何でって?

 塞がれたから。

「___ほだされちゃったよ、ハニー。」

 ぱっ、と顔を放して。和弘は微笑んだ。

「……え、えええええ!?えっ、まっ、待って和弘、」

 読者の皆さんは分かってると思うけど、私が冗談まじりに和弘に言ってる「ダーリン」だの「愛してる」だのは実は冗談じゃない。まあ和弘は、いまだに気付いてないみたいだけど、というか、気付いてないと思ってたけど。

「答えは?」

「あああああうう、へ?」

「告白のお答えだよ、御影………ってか顔真っ赤だね、君。無理矢理僕のファーストキスを奪った人とは思えない。」

「いや、いやあ、だって……自分がするのは平気だけど、和弘がこういうことするタイプだとは思わなかったっていうか。」

「なーるほどね。で?お返事は?」

 三回目の問い。意地悪な笑み。

「そ、そんなの、………OKに決まってるじゃない。私が普段から言ってるアレ、実は本気だったんだから……」

 私の答えを聞いて和弘は笑った。いつも通りの少し甘い、優しげな声を歪ませる。



「本気だったんだ?___知らなかった。」



 その笑顔の悪かったこと悪かったこと、いやかっこよかったけど、その顔を見て私はようやく気付いた。 この人、すごく悪い人だわ

「和弘、あなた……分かってたんでしょ!!」

 よく考えればそうに決まってる。両思いだと分かってなかったら、こんな大胆なことできるわけがない。完全に、お見通し。なんて悪い人なんだろう。

「なんの話?僕は知らないよ。」

 掴んでた手を放して、和弘はもう一度笑った。今度はとても純粋な笑顔で。

「___案外あなたって、慣れてたのね、こういうの。」

「んーまあ、ちょっとは。」

「気付いてないフリしてたの?」

「まあね。最初の方は、御影も冗談だったろ?僕だって御影のこと、ただの強すぎる美少女としか思ってなかったし。」

「私も和弘のこと、ただの同類の美少年としか思ってなかったわ。」

 和弘はそこで、茶化すように笑って。 じゃあハニーこれからは、正式にフィアンセってことで。

「ふふ、もちろんよダーリン。」

 私が答えたその直後。私達の鼓膜が揺れる。

 ヒューヒュー、という口笛で。

「お熱いねえお二人さん。真冬なのに暖房要らずだぜ。」

「ひゅーひゅー。」

「いやあまだ付き合ってなかったのか、知らなかったなあ。」

「ちょっ、皆!?」

 あの三人が物陰からひょっこり現れた。にやにやとゴシップの笑い。 きゃ、見られてた。

「わーばーらーいーーーーーーー!!!絶対来るなって言ったのに!!!」

「お前の命令なんぞ誰が聞くかバーカ!むしろカーバ!告白フラグ立ちまくりなこの状況、この俺が見逃すとでも思ったのか?情けねーヤツ!!」

「あー言ったなてめー!!オイちょっと前に出ろ、やってやるよこのヤロー!!」

 言うが速いか和弘は、近づいてきた輪払にハイキックを繰り出した。身長結構違うもんね。 輪払はギリギリで受け止める。

「おーっやるかあ?お前俺との喧嘩勝ったことあんのかよ!?」

「本気の喧嘩なんかただの一度も____いや二度三度あるけど____そんなにやったことないだろ!」

 輪払のパンチを和弘は屈んで避けた。すっと懐に入り込みアッパー、輪払はそれを放たれる前に後ずさって避け、若干和弘より長いアーチを生かして和弘の顔目がけローキック。和弘はそれを掴んで受け止め足を思いっきり引き、転ばせようとする。輪払は手をついて側転し立ち上がった。

「おいおい和弘、今テメー本気だったろ?」

「はっ、輪払相手に本気なんか出すかバーカ!むしろカーバ!こんなん序の口すらはじまってないっつの!」

「おーいそろそろキレるぞ和弘〜?」

「キレればあ?僕は知ーらない、僕からは絶対謝んないからな!!」

 その時、無言で飛んでくる二本のナイフ。

 一本は輪払の顔の横スレスレ。一本は和弘の顔の横スレスレ。ナイフはしばらく飛んだ後からんと落ちた。 投げたのはもちろん、あのニーソの君。

「二人とも、大人げないぞバーカ。」

「「………すいませんでした。」」



焦れったくってしょーがなかったのでくっつけちゃいました。御影が乙女すぎたな反省。

和弘はこのまま鈍感路線で行こうかなーとも思ったんですが、あえて慣れてる感じにしました。そういう子も好きです。

ってか告白フラグ立ちすぎだなコレww