いいじゃない別に

「で、その人は一体誰なの?」

 御影は何故か不機嫌そうに言った。



いいじゃない別に。



「えーっと、輪払虎。僕の親友。」

 とりあえず返す。えっと、なぜ怒ってるの。

「一応な。」

 ………は?

「一応ってなんだよ。」

「俺は和弘が情けなくて心配だから一緒に居てやってるんだろ。」

「はあ?僕だって輪払はいつも一人でかわいそうだから一緒に居てやってるだけだし。」

「ふん、ネクラがよく言うぜ。」

「なっ、僕は別にネクラじゃないだろ!」

「むしろお前のどこにネクラじゃない要素があんのかを俺は聞きてえな。」

 馬鹿にしたように輪払は笑う。いつものことではあるけれど、やっぱムカつくもんはムカつく。。

「輪払こそ嫌味っぽすぎると思うけど?そういうのって嫌われるよ。」

「ネクラだって十分嫌われるだろが。はっ、馬鹿。」

「馬鹿ってなんだよ馬鹿って!輪払に言われたくないんだけど!!輪払の方こそ馬鹿だろ!お前この前焼き鳥屋で、」

「そーかそーか馬鹿の俺に馬鹿と言われるお前は一体なんなんだろーなあ和弘?お前こそ小学校の頃運動会で、」

「わーっわーっソレは言うな!!っていうか、そんな昔の話引っ張りだしてくるなよ!!」

「焼き鳥屋の件も似たようなもんじゃねえか。素直に負けを認めやがれ。」

 これだから幼なじみはイヤなんだよ!!面倒くさいことばっか無駄に知りやがって、んなこと覚えてんじゃねーよバカ、

「あーもう、うるさいな分かったよ!!どーせ僕はネクラで卑屈で臆病者だよ!」

「そこまで言ってねーじゃねーか。」

「あ、でも臆病者は輪払の方かな?お化け屋敷苦手だもんね!」

「おっ、お前はジェットコースター苦手じゃねえか!お互い様だろ?」

「お化けがこわいだなんて君って相当ダサイよねーっ、輪払!」

「良い年してジェットコースターに乗れない方がダサイだろ!!」

「僕はそうは思わないけどぉ?」

「_____二人とも、仲が良いってことだけは、よおっく分かったわ。」

 僕らのくだらない会話を止めたのは御影だった。未だに、絶賛不機嫌中。

「……なんか和弘、輪払としゃべってると、子供っぽいわね。」

「あー、小さい頃から一緒にいるから、つい。」

 僕は輪払の前では………取り繕う必要が、ないから。

「らしくなく、口喧嘩でも押されてるし。和弘、口は達者な方じゃない。輪払は別に口喧嘩がうまい感じじゃないのに。」

「……っ、あーもう、何でだろ、輪払の前だと口が達者にならないんだよね。」

「そんなのお前、子供の頃、お前が一方的に負けてたからだろ。お前いつの間にか嫌ぁな人間になったもんなー。ま、本気の口喧嘩じゃねえしよ。」

「そうなんだよね。通過儀礼、っていうか、お決まりっていうか。」

「……ああもう、聞けば聞くほど気にくわない。」

 御影は机から飛び降りて、僕にずかずか歩み寄ってきた。

「和弘。」

「な、なに。」

「どーーーーしっても輪払も仲間に入れたいって言うなら、ええいいわ、認めてあげる。ただし!」
 条件が、二つ。 彼女はVサインを作って僕の眼前に突きつける。

「一つ。私のお願いを三つ聞くこと。二つ、何事も輪払ではなく私優先にすること。」

「……二つ目は別にいいんだけど、一つ目が、めっちゃコワいです御影さん。」

「大したことは頼まないわよ。」

「………わ、分かったよ条件飲むよ。」

 何だかんだ、彼は僕の親友で。こんな状況で離れちゃうのは、お互いに少し不安だ。もし離れた先で、相手が死んでしまったら。考えるだけでぞっとする。誰よりも大事な親友、死なれたら……僕は、きっと。

 おかしくなっちゃうだろうから。

「よし。じゃあ、一つ目のお願い。」

 ごくっと小さく息を呑む。シリアスモードはここで終わり、ってことは、物語の中の僕にはシリアス以上に都合の悪い現実が降り掛かる。ギャグってさ、実際に自分の身に起きた場合に笑えないと思う。随分前から思ってたこと。

 そして、案の定。御影さんは、とんでもないことを言いやがった。



「いつでも、好きな時に好きなだけ、和弘にキスする権利ちょうだい?」



「……はああ!?」

「んじゃ、そういうことで。」

 むちゅっ。

 ん?あれ?今唇に何か柔らかいものが____え?ちょっと待って、え? 付き合ってもないのに?

「んふふ、喜びなさい和弘、私のファーストキスよ。」

「………僕もだよ。」

「案外ウブなんだなーてめえら。ファーストキスなんて何年前だ?」

「うっさいウザイ黙れ輪払。」

 隣で笑う輪払を下から強く睨みつける。 僕は唇に触れつつ思った。

 _____御影のどこがウブなんだ。



和弘の鈍感っぷりにめまいがしそうです。