Don't stop

 止まっているものなどあるのか。

 留まっているものなどあるのか。

 否応無しに時は進む。僕達に、立ち止まることは許されていない。

 何も変わらないように思えた、この、日常も、

 何も止まってなんかなかった。



Don't stop



「じゃあちょっと見回り行ってくるわ、ダーリン。」

「____いってらっしゃいハニー。」

 え?僕もう色々と諦めたんだよ。ハニーだろうがなんだろうが言ってやるさ。

 御影は恒例の見回りタイム。僕は、ここを守らなきゃ。二つくっつけた机に寝っ転がる。少しだけ足が余った。

「………」

 僕は背が高いとは言えない。ちなみに御影は背が高い。でも大丈夫、越されてはいない、___多分。ほ、ほら、男子は伸び始めるの遅いっていうしさ!!

「……はあ」

 もう二ヶ月か。いつまでたっても何も変わらない。会って殺して砕いて消して。もう面倒だ。
 僕が二度目の溜め息をついて目を閉じた、その時。

 物音がした。

「!」

 飛び起きて身構える。モップを掴む。………誰だ。

 人の気配、銃器の音。まもなく彼は視界に入って。

「手を挙げろ!」

 そう叫んで、現れたのは____



「____え?」



 一瞬の膠着。先に動いたのは、あっちの方だった。機関銃をこちらに向ける。

(……っ、ヤバい!)

 とっさに身を伏せる。ずだだだだだ、とけたたましい機関銃の音。

 だが彼は動揺してるのか、僕が伏せたことには気付かず中空に発射したままだ。壁の漆喰が削れて、白い煙が漂う。けれどもようやく……彼は、僕が伏せたことに気がついたらしい。

 銃口が下を向いた。

(ああコレ死ぬな、僕。)

 僕はギュウと目をつぶった。



ずだだだだだだだ

かかかかかかかっ



 銃の発射の音に混じって、なにか、金属的な音が聞こえる。

 妙だ。僕の身体は一向に、痛みを感知しない。 漆喰の白い煙が収まってきた。顔を上げる。

 僕の瞳に映ったのは、不機嫌な顔の彼女だった。

「ぬー、かずっちらしくない。」

「ノ、ノユちゃん!?」

 今では見慣れた、ニーソックスの少女。彼女は不満げに言葉を続ける。 何でうずくまったりしたの?

「……相変わらず下ははいてないんだね。ズボンとか、はけば?きわどいよ。」

「動きにくいからはかない。」

 ノユちゃんはいつものスタイルだ。長めの制服の上着。両手にナイフ(持ち手の端に穴があいていて、くるくる回したり出来るもの)。そして____下半身はパンツ一丁、のようだ。見えないから分かんない。いや見たくないし。もしかしたらはいてないという可能性もあるし、やだって絶対。

「って、そんなことよりノユちゃん、銃弾は一体……」

「銃弾?」

 ノユちゃんは年に似合わぬ凶悪な笑みを浮かべた。

「あそこに転がってるシガイのこと?」

「死骸?」

 僕は辺りを見回した。床には沢山の____真っ二つの銃弾が、転がっている。

 全部斬ったってのかよ、化け物。

 彼は低く呻いて逃げ出す。追おうとするノユちゃんに、僕は待って、と一言頼んだ。

「うぃ、分かった。」

 ノユちゃんは両太ももに付いている……ナイフ収納ケースとでも言おうか。よく、拳銃とかを収納出来るヤツ、スパイの女の人とか付けてるよね、あれのナイフ版。それにシュパッと、ナイフをさした。
「すごいね、ノユちゃん……銃弾を全部ナイフで、切り飛ばして、」

「のんのん。斬り殺したの。」

「……そっか。」

 のんのん、か。御影の影響強く受けてるな、末恐ろしい。

「どーしたかずっち、らしくない。あんなやつ、かずっちだったらうたれる前に殺せた。」

「まあ、ね……ちょっと、色々、あって……」

「? かずっち。」

「な、に……?」

 ノユちゃんはかがみ込んで、僕の目を見た。

「なんで泣いてるの?かずっち。」

「___え、」

 目元に指をのせる、濡れてた。 あぁ………泣いたの、久しぶり。

「あ、あれ___?」

「かずっちが泣いてるの初めてみた……かずっち、ノユ、出てった方がいい?」

「……ゴメン、少しだけ、一人に、」

「____うぃ。」

 ノユちゃんは静かに教室を出て行き、扉を閉めた。

 静寂。

「う、うぁぁ、ああ、うっ、つっ……」

心が締め付けられるように痛む。 だってあのとき、___そこにいたのは。

「なん、で、おまえ、が……うっ、なんで、なんで………市羽目、………市羽目っ!!」

 市羽目 悠。テロリスト。

 ___僕の、親友。

「何でお前がっ、僕のこと、」



「おいおい、市羽目だけじゃねーだろ?お前の親友は。」



 耳慣れた声。ハッとして、後ろを振り返る。

「ったく、くだんねー事で泣きやがって。相変わらずみっともねーな!和弘。」

「……うるさいよ、輪払!!」

 もう一人の僕の親友____輪払 虎は、嫌らしい笑みでニヤッと笑った。



市羽目 悠=いちはめ ゆう

輪払 虎=わばらい とら

和弘君の親友二人です。あともうちょっとだけキャラが出るかと。