とるに足らない出会い

「にーやんにーやん」

「なんだいノユ。」

「あの人たちヤバいよ。」

「ヤバいってなにがどうして」

「あの人たちはねっからの人殺しだよ、にーやん。」

「……はたしてノユが言えたことかな?」

「イヤミっぽいこと言うな、にーやんウザい。」

「ウザイとか地味に傷つくなあ。で、どうするのノユ。あの人達はスルーするの?」

「ドウメイを結ぶ。」

「同盟?それまたどうして。」

「仲間になっといた方がいー、けど、ずっといっしょにいるのは危ない。」

「なーるほどね、じゃあまずあの暗い目の少年から先に_____」

「あのー」

「「うわっこっち向いた!!」」

「………さっきからわざとですか?丸聞こえですけど。」



とるにたらない出会い



「ふむふむそうか、それはすまない。陰口とは陰で言っているから陰口だものな。聞こえてたら意味がない。」

 机の上に座って、彼は悪びれもせず笑った。

「べつにカゲグチ言ってたわけじゃないじゃん。にーやんってバカなの?」

 隣りで言葉を発したのは、彼と一緒に居た少女。机の上に体育座りして、ゆらゆら前後に揺れてる。

「む。ノユ、兄に向かってバカ言うもんじゃないぞ?傷つくぞ?」

 ……ああ、兄妹だったわけね。『にーやん』って、『兄ちゃん』のことか。

 うさんくささに辟易とする。御影が面倒そうに口を開いた。

「そこらへんの事情は別にどーでもいいんだけど。あなた達名前は?それが知りたいわ。」

「あ、申し遅れた。私は戸羊ノイと言う。で、こいつは」

「戸羊ノユ。引き戸の戸に、羊に、カタカナでノユ。あとこいつ呼ばわりすんなにーやん。」

 ノイ君は笑顔で、ノユちゃんは無表情で、答えた。

「___変わった名前だね。僕は、所木和弘。」

「私は甘木御影。よろしく____するかどうかは未定だけど、一応。」

「こちらとしてはよろしくする気満々だよ。ね、ノユ。」

「いちいち同意もとめるなにーやん。うん、ノユたちは、仲良くしたい。そっちは?」

 年齢というのは精神と比例する、とは限らない。その実例のような物を目の当たりにしてる気分だ。
 もしかすると、ノユちゃんと話した方が効率がいいかもしれない。ノイ君の方はちょっと、面倒くさそうだ。

「そうするといいよ、かずっち。にーやんはちょうちょうちょうちょうちょうメンドクサいから。」

 突然の声。ノユちゃんの言葉。 え?なに?心読まれた?

「ドクシンジュツこころえてるんだ、ノユ。だから気にしないで平気。」

 いや逆にすごく気になるんだけど。君、見た目で言うけど小3くらいだよね?

「ぶー。小4でしたザンネン。でも、学校には行ってないよ。」

 なんで?

「えっとねー____」

「ちょっと待って、二人共。口に出さないでなに話してるの、ついてけないじゃない。大体私ですら和弘とテレパシー使えないのに新参者のあなたがいきなり使えるなんて理不尽よ、紛うことなき理不尽だわ。」

「僕からもちょっと待って突っ込みどころが満載なんだけど、まあ下の名前がどうこうはもう諦めたしいきなりあだ名で呼ばれちゃったしもうどうでもいいんだけど、別にテレパシー使ってるわけじゃないから、僕にノユちゃんの気持ちは分かねーし。あと『私ですら』ってなんだよお前は俺の何なんだよ、」

「えっフィアン、」

「言わせねーよ?っとしまった口調が荒れた。」

 常に共に過ごしてるうちに、御影のことが少しだけ分かってきた。案外この子はおふざけを言う。冗談だって少しは通じる。出会い始めは付き合いづらかったが、慣れてみればなんて事はない。
「なんだなんだ?君たち二人は恋仲なのか。」

「本当に面倒くさいね。」

「へ?」

 鈍感な彼に冷たい目を向ける。僕はため息一つで全て諦め、ノユちゃんの方を向いた。

「___で、小4の君がどうして、読心術なんて心得てるのさ。」

「かずっちニュースとか見る?」

「んー、まあまあ。」

「あのね、なにかと話題のSEP、あれの対象者なんだ、ノユたち。」

「SEP?」

 SEP。Spy Education plan。我が国が最近発表した計画だ。憲法第九条改正に基づき、急遽作られた計画。スパイ養成計画。まあつまりは、近いうちに本格的に戦争をしますよ、っていう、宣言。そもそもなんでそんなことが必要になったかというと____

「そりゃあ、日本のことを恐れる国が少なくなってきたからさ。」

 ノイ君が言った。どうやら彼も、読心術が使えるらしい。

「第二次世界大戦でドイツ、イタリアとともに勝ってから、日本の国としての地位は著しく向上した。いやむしろイタリアとドイツは途中で降参したから、日本の単独勝利と言っていい。つまりまあ今の世界は日本が動かしてるってー訳だ。それはもう日本史又は世界史で習った通りだと思うが、それからもう何年経った?100年くらいか?まあどうでもいい、とにかく、長い年月が経って他の国々があの戦争を忘れかけてる。まあ、アメリカなんかは、核爆弾落とされたことを未だに根に持ってるようだが。まあそれもそうか、確かにひどいことをしたからなあ日本は。」

「____だから、諸外国から喧嘩を売られることがなくなったから憲法を作ったのに、も一度自身の力を世界に示す羽目になったんだって事。分かった?御影。」

「? 知ってるけど。」

「ですよね。」

 だって、『分かった君達?』なんて今ここで君達に言ったら、確実に変人扱いじゃないか! 主人公って辛いね。

「「なに言ってんの?」」

「ほら見ろ!」

「落ち着いて和弘。で?つまりノユノユ達は、只者じゃないって言いたいの?」

 御影が呆れまじりに言った。ノユちゃんはこくりと頷く。

「うん、ノユはふつうの人じゃないって意味じゃタダモノじゃないよ。」

「ノユは強いからなあ。僕が頭脳専門なものだから、僕が今までここで生き残って来れたのは、ぜーんぶノユのおかげだし。」

「へえ、そうなんだ。」

 御影ほどじゃないだろうけど、ノユちゃんも____人殺しの神様に愛された人なんだろう。

 僕は、どうなのかな。

「どうだろう、私達と手を結んでみないか?んん?」

「なんかウザい、にーやん。」

「____どうする?御影。」

「あなたが聞かれてるのよ、和弘。あなたが答えなさいな。」

 私はどちらでもいいわ、と付け足し。まいったな、僕が全責任を負うってワケか。

「………うーん」

 会ったばかりの人達。この環境で、そんな人達を信じていいのだろうか?ノユちゃん達がテロリストではないという確信はない。けど、だけどこの人達は___

 すごく面白そうだ。

「ねーノユちゃん、好きな怪獣は?」

「ジェロ●モン。」

 試しに聞いたらものすごい返事。うっわマニアック、僕も見た目しか分かんない。………敵国の人じゃ、さすがにコレは知らないだろーな。

「OK、手を結ぼう。………よろしく、二人共。」

「「よろしく」」



 こうして僕らには、心強いんだか強くないんだか、なんだかよくわからない仲間が____二人、できたのだった。



〜オマケ〜

「あーあ、OKしちゃった。」

「え?嫌だったの御影。」

「だってぇー、せっかくの和弘と二人っきりの新婚生活が」

「僕のちょっぴりの後悔を返せ。」