無自覚と無理解の狭間で



「ヴェイグ!」

その声が、その音が、ヴェイグの期待を押し上げていく。耳に良くなじむその声は、りんと響いて、ヴェイグの胸を一つ、しかし一際大きく鳴らしていった。

「……リッド」

振り返りつつ、彼の名を呼ぶ。赤と青の色彩に、視線を奪われる。微笑をたたえた、彼の表情は柔らかく、けれどヴェイグはまだ、それを称する術を知らない。

「…どうしたんだ?」

「えっと、今って暇か?」

ヴェイグはこの船の中の人員の中でも、長身の部類に入る。リッドもこの船の中では背の高い方だが、ヴェイグよりは小さかった。

そのために、少しだけ下から見上げつつ、小首を傾げてリッドはヴェイグにそう言った。

リッドのそんな様を見た、その途端に、いきなり己の鼓動が早くなった気がして、ヴェイグは内心首を捻る。

「…おい、ヴェイグ…?聞こえてるか?」

「っ…あ、ああ。聞こえている…」

とくとくといきなり脈を早めた鼓動が不思議で、けれど不快ではなく。ヴェイグの疑問は大きくなるばかりだ。

いや、自分の心臓についての疑問は後回しだ、とヴェイグは思い直し、口を開く。

「今は、暇だ。…どうしたんだ?」

「ええと、その。ちょっと付き合ってくれないか?」

「?」

ヴェイグは首を傾げる。リッドは、少し切り出しづらそうに話し出した。

「ファラがさ。いつものお節介で依頼受けて来ちまったんだよ。ほんと、あいつ考えなしなんだよな、参るぜ…。

で、だ。なんか知らねぇけど、その依頼って、氷が使えるヤツがいねぇとダメらしいんだ。

けど、今この船の術師はみーんな出払っちまっててさ。

それで…」

「…オレに?」

続けようとするリッドが、その先を言う前にヴェイグは答えた。すると、少しバツの悪そうな顔をしつつ、リッドは頭をかきながら言った。

「……ダメ、だよな。すまねぇ」

いきなり来て、んなこと言われても、確かに困るよな…と呟いて、リッドはきびすを返して立ち去ろうとする。

どうしてそうなったのか分からずに、ヴェイグは慌てて声を上げた。

「駄目じゃっ、ない!」

「っえ?」

思わず大きな声が出てしまった。人のいない廊下に、ヴェイグの低めの声はやけに響いた。

そんなヴェイグの言葉に、リッドは驚いたように振り返る。平時でも大きな空色の瞳がまるくなって、リッドの童顔が強調される。

「…え、あれ。いいのか?」

戸惑ったようなリッドに、ヴェイグ自身も少し困りながら返答する。

「元々、断るつもりはなかったんだが……。」

「…そうだったのか?なんか、眉間に皺寄ったから、嫌なんだろうな、と思ったんだけど…」

リッドの言葉に、今度はヴェイグが驚いた。怪訝そうな顔をしてしまった、ということだろうか?全く自覚がなく、ヴェイグは困惑する。けれど、昔から「ヴェイグの顔は仏頂面で怖い」と称されて来ていたため、これもその延長線上か、と思い直す。

「…オレは、そんなに冷たい人間に見えるか?」

「へっ?」

リッドが更に目を丸くする。しまった、聞くつもりなど無かったのに。ヴェイグは、口を滑らせた自分を恥じる。こんなコトを聞かれて、リッドもさぞかし困るだろうに。

「…ん…。……冷たいってか、仏頂面、だよな。ヴェイグって。」

言葉を探すように、リッドは一度そこで区切って目線を逡巡させる。しかし思いついたのか、少し笑ってこう続けた。

「でも、そんなのってほんとに表面だけだろ。お前が優しいのも、実は結構熱いのも、みんな知ってる」

「……!」

リッドの言葉に、何か返そうとしたけれど、息が詰まった。どうやって返事を返せばいいのか、わからない。

困ったように眉根を下げると、リッドはけど、と付け加える。

「……でも、今のは本当に不機嫌そうだったぜ。…やっぱり嫌なんじゃねぇの…?本当にいいのかよ?」

「いや……大丈夫だ。」

全くの無自覚だ。わからなかった。リッドの言動のどこに、己が不機嫌になる理由があったのか、ヴェイグには見当もつかない。

「…そうか?無理強いはしねぇけど…」

「構わない。…準備を整えてくる」

まだ不審そうなリッドに、有無を言わさぬように自室へと向かった。

自分の感情が分からない。もともと、感情の起伏の薄い人間だと言うことは、自分でも分かってはいたが…。

ヴェイグは、自分の中の、無意識の自我に、疑問を感じていた。



リッドのことが、気になる。それは、何故だろう。

自問自答しても、答えは出ない。









「有り難う、ヴェイグ!おかげで助かったよー!」

ファラが嬉しそうに笑って、ヴェイグにそう礼を言う。

「サンキュな、ヴェイグ。今日は暇だった筈なのに、すまねぇな」

続けて、リッドがそう言って苦笑するのに、ヴェイグはふるふると首を横に振る。

「オレは…たいしたことはしていない」

「そんなことないよ!ヴェイグがいなかったら依頼、達成できなかったもん!」

だから本当にありがとう、というファラに、リッドは本当にな、と続けてぼやいた。

「お前、ほんとヴェイグには感謝しろよな。オレとお前だけで、どーやってこのクエスト片づけるつもりだったんだよ!」

「だって、キールがいるからいいかなぁって思ってたんだもん」

「キールは昨日から課題のレポート書いててぶっ倒れてただろうが…。なんでそう後先考えないで突っ走るんだよ?」

「そんなことないよ!ちゃんと考えてる!」

リッドとファラ、二人の丁々発止としたやりとりを見て、平時ならば仲が良いんだな、と思うところだったが、ヴェイグは言いようのない居心地の悪さを感じていた。不快感、とまで言ってしまっても良いかもしれないそれに、ヴェイグは酷く困惑する。

「本当に考えてんのかよ。じゃあヴェイグに迷惑かけることもなかっただろうが」

「うっ…それは…」

リッドにそう反論され、そこでファラは言葉に詰まり、ヴェイグに向き直ると、再度、ごめんね、と告げた。

「貴重なお休み、潰しちゃってごめんね…。あ、そうだ!その代わり、もしも困ったことがあったなら言ってね!

私に出来ることなら、なんでも力になるよ!」

力こぶを作る素振りをしつつ、ファラはにっこりとヴェイグに微笑みかけた。

ヴェイグも、それに「ああ、その時は頼む」と返答した。もやもやは晴れてはいなかったが、今度は顔には出なかったようで、ファラはその返答に再度嬉しそうに微笑んだ。

「…オレも、貴重な休みだけどな」

ぽつりと呟いたリッドの言葉は、そっと受け流されたが。







依頼主のところへ報告しに行ったファラを待っている間、リッドが口を開いた。

「ほんと、付き合って貰って悪かったな」

ばつの悪そうな顔でリッドが言うものだから、ヴェイグは首を捻りながら何故だ、と問う。

「ほら、あいつっていつも無茶するからさ…、悪ぃな、巻き込んじまって。」

「……」

ぽりぽりと頬を掻きながら、リッドは言うが、ヴェイグはいや、とゆっくりと、しかし力強く首を振る。

「…オレの決めたことだ。リッドを手伝うと決めたから、それに文句なんてものはない。それに…」

「……?」

それに、なんと続けようとしたのか…ヴェイグにも分からなかった。ただ、リッドの瞳が、じっとヴェイグの言葉の続きを待って見つめていた。

「いや…なんでもない」

「……そっか」

水平線の彼方に、己たちのギルドが見えて来ていた。

そこからは、二人は無言で、船の到着と、ファラが戻ってくるのを待ち続けた。

それでも、二人の間に流れる言葉のない空間は、居心地の悪いものなどでは決してなかった。







夕方、ヴェイグが食堂に行くと、夕飯の下拵えを早めに行っていたらしいクレアが厨房の方からひょいっと顔を出し、ヴェイグに微笑みかけた。

「ヴェイグ、今日はリッドとファラと依頼に行ったのね。お疲れさま。ファラが助かった、って言ってたの」

クレアは労うようにそう言って、その話題を出した。

「ああ…氷が使える人間が必要だったんだ」

こくり、と頷きながら、ヴェイグはそう言う。

「良かった。みんなと打ち解けられてないんじゃないかって思ってたけど、仲良く出来ているみたいね」

「…クレア……。」

ふふ、と笑うクレアに、少し眉根を下げながらヴェイグは声を上げる。

「なんだか、上機嫌なんだもの。そんなに楽しいクエストだったの?」

笑いつつそう続けるクレアに、ヴェイグは驚いていた。疲れたといえば疲れた、けれど楽しいものだったかどうかといえば…そうでもなかっただろう。

「いや……ファラの、フォローは大変だった」

気づけば猛然と駆けていってしまうのだ。その手綱をかろうじて握っていたが、リッドはいたく大変そうだった。ヴェイグは思いつつ、クレアにそう告げた。

「……。ねぇ、ヴェイグ。なにか、困ったことなかった?」

「…え?」

唐突に告げられたクレアの言葉に、思わず疑問符を出してしまう。

「なんか、変な顔しているんだもの。さっきまであれだけ楽しそうだったから…」

「……、…。クレアは、何でもわかってしまうんだな…」

それから、ヴェイグは少しだけ、今日のことを話し出した。自分の、気づかないうちの心境や、楽しそうな二人を見て、もやもやしたこと。…リッドのことが、何だか気になること。

それら一連の話を聞いて、クレアはふわりと微笑んだ。

「そう…。ねぇ、ヴェイグ。それは、きっと良いことよ」

「…そう、なのか?」

「ええ。きっと、良いこと。でも、これからが大変ね。リッドは、きっと手強いわ」

「…?」

「とっても鈍いし、きっと大変。だけど頑張ってね、ヴェイグ。私も応援するわ」

「…クレア?それは、どういう…何を言ってるんだ?」

声を上げるヴェイグに、クレアは昔幼い頃に秘密の約束をする時のように、唇に人差し指を当てた。

「私が答えを出すのは…きっと簡単。けど、それはヴェイグの本当の気持ちなのか、そうじゃないのか、本当のところ、私にはわからない。

だから、その感情の出口は、あなた自身が見つけるの。ヴェイグの気持ちは、ヴェイグだけの大切なもの…。ね?」

そう言って、ヴェイグに微笑みかけるクレアの笑顔は、とても綺麗なものだった。クレアが言うのなら、そうなのだろう、とヴェイグは思う。

それでも、ヴェイグにはまだ分からなかった。この感情は、どこから来るのか?どうして、変な気持ちになってしまったのか?疑問は尽きないが、その答えは、リッドにあるような気がした。

「でも、きっかけくらいのお手伝いは出来るわね。そうだわ、今からピーチパイを焼くから、ヴェイグはリッドを連れてきて」

「クレア、それは…」

「いいから。リッドはああ見えて人気者なのよ?早く行かないと、また誰かに引っ張られて行ってしまうかも」

リッドに声をかける、船員の誰か。それに、困りつつ、面倒くさがりつつも結局のところは折れて、そいつに付き合うリッド。そんな様を、ヴェイグは幾度となく見てきたのだ。

ガタン!と椅子が盛大に倒れた。憔悴した顔をしながら、勢いよく立ったヴェイグは、「リッドを探してくる、」と言って食堂を慌ただしく出ていった。

「……あの調子なら、もうすぐ、かしら?」

はやく、頑張って気づいてね。クレアは我が子を、…我が子の初恋を…見守るような気持ちでヴェイグの後ろ姿を見送りながら、パイを焼く準備を始めた。





バンエルティア号の船内は、実のところ非常に広い。

豪華客船と言って差し支えないほどの広さはあるのだ。(実質的には、ここは海賊船なのだが…もったいない話ではある)

その船内を足早に歩きながら、ヴェイグはずっと思案し続けていた。

クレアの言わんとすることはなんなのか…。分からないのがもどかしい。自分の感情の機微に疎いのが、こんなところで足を引っ張ることになろうとは。

思案していたヴェイグは気づかなかったが、その表情は鬼気迫るものを帯びていて、「ヴェイグのあんな表情は初めて見た。お化けくらい怖かった」と後にカイウスに語られることになろうとは思いもしていない。



船内をうろうろしたあげく、一周しかけたところで、あの少し暗めのダークレッドの髪色が視界に飛び込んできた。

なるほど、リッドであれば、お腹が空いて食堂に顔を出す、なんてことくらいいくらでもありそうなものだ。

灯台もと暗し、とはこのことか、とヴェイグは唇を噛み、リッドに声をかけようとする。

しかし、もうひとつ、小柄な体格の赤髪を見つけ、ヴェイグの言葉は出る前に出口を見失う。



「リッドもサ〜、ボクにはかなわないけど、結構歌のスジいいよネ!」

「えっ、本当か?オレ散々みんなにダメ出しされてきたから、そう言われると嬉しいぜ」



リッドと、マオだった。あまり見かけることのないコンビではあるが、楽しそうに話している分、気が引けて、ヴェイグは口をつぐんだ。自分が割って入れば、話を中断させてしまうだろう。



「天才ってのは凡人には理解されないものなんだヨ…ああ〜、ボークの時代ぃ〜い、はやくはやく来〜いっ☆」

独特な音感でマオは歌いつつ、自分の才能が評価されないことを嘆いた。しかし、やっぱりいつ聞いても不思議な音感のため、ヴェイグにはマオがどれだけ上手いのかはよく分からない。

「そうか…オレが酷評されてるのは…時代がオレに追いついてなかったせいだったのか!そうと決まれば…!」

多大なる勘違いをさせたまま、マオはそーだヨ!ぜったい!と根拠もないことをつらつら喋りつつ、歌いつつ笑う。

「るーるーるるーーるーるるうううー!!!」

鼻歌交じりにリッドが歌いだしたものだからたまったものではない。マオの音感、そしてリッドの……音痴が加わり、その一帯に響きわたる。思わずヴェイグが耳を押さえそうになったところで、マオがあーだめだめ!と声を上げた。

「そんなんじゃダメダメだヨ!ほら、もっとこう、腹の底から腹筋を使って!」

そう言いつつ、マオはつんっとリッドの腹をつついた。

その途端に、うひゃあっとリッドから変な声が挙がる。

「んー?あれ、リッドってば…お腹弱いんだ〜?」

「なっ、何言って…うわひゃっ、やめ、ぶふっ」

それそれーとマオが執拗にリッドの腹を狙い、リッドは反射的に笑ってしまうせいか、そのことごとくを受けてしまう。

「あはっ、ちょ、ま、マオっ、やめっ、うひっ…あははっ」

「まだまだいっくヨー!ボクのこちょこちょ秘奥義をとくと味わうんだネ!」

リッドの赤くなった顔、荒くなった呼吸。そんな様を見て、ヴェイグはなんだか胸の内のもやもや、それと同時に言い表せない焦燥感、そして今日リッドに話しかけられ、首を傾げられた時のように…いや、それ以上に早く脈打つ鼓動を感じ、困惑し、そして、言いようのないイライラがヴェイグを埋め尽くしていく。



「やめ、もっ、むり、だって、まお…あはっ、ひうっ」

「こちょこちょー!ほれほれ、ここがええのか、ええんですかーーーって、あれ?」

マオが息も絶え絶えなリッドを執拗に追いつめる。しかし唐突にひょい、とマオの体が宙に浮いた。

「マオ。いい加減にしろ。リッドに何をしているんだ…!」

「あっれ、ヴェイグ?どうしたのさ」

首根っこを掴まれて、しかもいきなり登場したヴェイグに、マオはぱちぱちと目を瞬かせる。ヴェイグは、嘆息しつつマオを床におろした。

「はぁっ、はぁ…っ、すまねぇ、た、助かったぜヴェイグ…笑いすぎて、はぁ…し、死ぬかと思った……」

ぐったりと体をくの字に折りながら、リッドはヴェイグに謝罪と感謝の言葉を述べる。なんとか体が動いてくれて助かった。しかし、もう少し早く声をかけていればこんなことにはならなかっただろう。ヴェイグは、謝るのはこちらの方だと思った。

「…その、クレアがピーチパイを焼いているんだ。それで、…」

「えっ、クレアさんのピーチパイ!?ボクも食べるー!わーい!」

その続きを言い淀んでいる間に、ばんざいをしたマオはぴゅっとチョロQのように食堂に走っていった。その様を見送り、あ、と気がついてまだ力が入らないのかうずくまったままのリッドの手を引いた。

「大丈夫、か?」

「あ、ああ…い、一応…」

ぐったり、と疲れ切った顔でリッドが言うと、ヴェイグはすまない、と謝っていた。

「マオが迷惑をかけたな…。もう少し、早く助けられれば良かったんだが…」

「なんでヴェイグが謝るんだよ?」

きょとん、とした顔でリッドがそう言った。もちろん、リッドはヴェイグが一部始終を見ていたことなど知る由もないため、無理はない。

「いや、…すまない」

「だから何で謝るんだよ」

苦笑しつつリッドが言うものの、うまい言葉が見つからない。

「そういえば、なんかさっき言ってなかったか?クレアがどうとか…」

クレアに何かあったのか?と首を傾げるリッドは、こちょこちょ攻撃から

開放されて間もなかったせいか、話が聞こえていなかったらしい。

「ああ、それが…クレアがピーチパイを焼いているんだ。恐らく、もうすぐ出来ると思う」

「マジで!?クレアのピーチパイってものすごく美味ぇよなぁ!…えっと…」

リッドが、そわそわと言った感じでヴェイグの顔色を窺った。

そんな様が、またヴェイグの鼓動を早くした。思わず言葉に詰まる。返事のないヴェイグに、リッドは困ったような声を上げた。

「…おい、ヴェイグ?どうしたんだよ」

「…いや、なんでもない…。そ、れで…リッドも、食べないか?」

ぴーちぱい、と続けたヴェイグに、いやった!と先程のマオのように万歳しつつリッドが満面の笑みを浮かべた。

「いいのかよ?」

「ああ、…そのつもりで、リッドを探していた」

「えっ…あ、そうなのか…な、なんかサンキュ…」

照れたように頬を掻くリッドに、ヴェイグは思わず微笑を浮かべていた。

その様をたまたま見てしまったルカが「ヴェイグさんの笑顔初めて見ちゃったよ…!もしかして明日は氷の槍が降って来るんじゃ…」とスパーダとイリアに語るなんてことは、当然ヴェイグは知る由もない。

二人は連れ立って歩きだし、その間は無言になった。しかし、食堂の少し手前で、ヴェイグは意を決したように口を開く。

「その、リッド」

「ん?どうしたんだ?」

ピーチパイピーチパイ、と呟いていたリッドが、横を歩いていたヴェイグを見つめる。

「その、今日は有難う」

「へ?礼を言うのはこっちだぜ?」

リッドが首を傾げるが、ヴェイグはそうじゃないと首を振った。

「…オレは、誤解をさせる事が多いんだ。怖い顔だとも言われる。

…けれど、リッドはオレを頼ってきてくれたのが…、嬉しかった」

「…そうか?そう言ってもらえると、オレとしても結構気は楽だけどさ」

少しためらいがちに笑うリッドに、ヴェイグは言葉を続ける。

「何かあったら、いつでも言ってくれるか。オレは……リッドの力になりたい」

するり、と口をついて出た言葉は、ヴェイグ自身、ひどく驚くようなものだった。

けれど、その言葉が、ぴったりとパズルのピースがはまったかのように、

己の胸にすとん、と落ち着いたのが、ヴェイグには分かった。

「え、あ……あ、りがと…」

少し頬を染めつつそう言うリッドに、唐突に自分の言った言葉がなんだかどうしようもなく気恥ずかしくなり、ヴェイグは「そろそろ焼けているだろう」と先ほどの話題を流す様にして、先に歩き出す。

それを追いかけ、リッドも後に続いた。

まだ、この感情の寄る辺はわからない。けれど、リッドの事をもっと知りたいと、思うこの気持ちは、きっと偽りないものなのだろう。

ヴェイグは、耳を赤く染めつつ、そう思った。











「ねー、もう。ヴェイグってばニブすぎだよネ!」

「ふふ、そうかしら」

「そうだヨ!ぜったいぜったいぜーったい、ニブすぎだよ!

氷のフォルスのせいで自分の感情も凍り付いてるんじゃないのかな…大丈夫かな?

ボクのフォルスでなんとか出来ないかなぁ」

「大丈夫よ、マオ。その気持ちだけで、十分なの。

きっとヴェイグは、自分の気持ちに気がつくわ。それまでは、見守っていましょう?」

「うーん、それにしてももどかしいヨ〜」

「確かにもどかしいけれど…これはヴェイグの問題だから」

「仕方ないなぁ。でも、本当にじりじりしてるときは、時々ボクがひと肌脱いであげるとするヨ」

「頼もしいわね。あら、ヴェイグ!リッドは呼んで来れたの?」








「リッド受け図鑑」様に押し付けますヴェイ→リドになります。(おい)
無駄に長くなったのに萌えが全くないですね精進します…



無自覚と無理解の狭間で







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