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とりとめのない小品

強欲な男の話

18禁
脅迫者(ヒモ)×被害者(大学生)
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ね、三大欲って知ってる?
人様のベッドで断りもなく煙草をふかす下品な金髪を見上げて問うと、んむ? とくぐもった返事が返ってきた。

「三大欲」

「サンダイ……? なに?」

ゆっくりとこちらに向けられた顔面には、男にしては綺麗な手でスマホが固定されたまま。
視線がこちらに向くこともなく、エンドレスで流れる単調な音楽もポヨンポヨンと気が抜けるような効果音も止まない。

「三大欲」

「サンダイ……?」

……ああ。
面倒臭い。

既に話しかけたことを後悔している。

たまには会話をしてみようかと、思った。
なぜそんな気になったのか。
馬鹿げた試みだ。
この男と会話なんて成り立つ訳がないのに。
何も意味のない、雑談。
そんなものを求めた、らしい。

二分前に戻ってやり直せたらいいのに。

ああ、駄目だ。
ふうう、と腹に溜まったものを空気と一緒に吐き出す。
「たら」「れば」は嫌いだ。
そんな事を言い出せば、十年前のあの日の自分を呪うだけ。
この男が最低なのは何も今に始まったことじゃないのだから。
自分をそのレベルまで落とすことはない。

「三大欲、食欲と睡眠欲と、あと一つ。知ってる?」

降った話題を途中でやめるのも不自然だし、こちらが折れたようで気に入らない。
面倒臭いが、実のある話題では無いのだからすぐに終わるだろう。
渦巻きながら立ち上る紫煙の行く先を見つめながら問い掛ける。

今日、通学電車の中でこの話題で盛り上がっていた高校生の集団がいた。
そんなに面白い話題だろうかと、少し気になって試しただけ。
やっぱり面白くもない。
それが分かったのだから、良しとしよう。

「……く」

「え?」

くるり、くるりと形を変えながら空気に溶けて行く毒を孕んだ白い煙。
吸い込むのはごめんだが見ている分には嫌いじゃない。
その煙の根元から不明瞭な声がした。
男の指先が唇に張り付いた煙草を摘まんで灰皿に押し付けるのを無意識に目で追う。

「性欲?」

「ご名答。僕は排泄欲って習った気がするけどね」

一瞬、目線が絡み合う。
出会った頃からたいして変わらない男の顔は、今自分がいくつになったのか分からなくさせる。

さあ、会話は終わりだ。
目を伏せて鼻先でヒクヒクと揺れる見慣れた男の性器を再び口の中に迎え入れる。
むわりと暖かいのは、男の熱なのか、先ほどまで包んでいた己の口内の熱さなのか。

「排泄! 排泄とか! ウケる」

ケラケラと笑う声に微かに肩を竦める。
ツボが全く分からない。

こっちのツボなら嫌という程知ってるんだけど。

下品な笑い声に合わせてヒクつく薄い腹筋を無感動に目に映しながら、奉仕のレベルを上げる。
戯れのような愛撫から、的確な快感を与えるものへ。
そして終焉へ向けたものへ。

「……っは、さいこ、」

生命を繋ぐためでもなんでもない「コレ」は「排泄」と言って問題ない、と思う。

僕に求められてるのは排泄の介助。
はっ。
言葉通り、シモの世話、ね。

「しょうちゃん」

「……ん」

指で輪を作り上下に動かしていた手を掴まれて、額を押された。
眉に反抗心をのせながらも男の制止に素直に従う。
引き抜く時に搾り取るように口を窄めたのはもちろん嫌がらせだ。

「しょうちゃんの中でイきたいな」

腕を軽く引かれれば意図したところを察して、ベッドに腰掛ける男の膝に跨る。
口も「中」だろうにと心の中では毒づいて。

「……っ、ふ、……ン」

「しょーちゃん、やーらしー」

自分の尻に埋め込まれていたシリコンのオモチャを抜き取ると排泄感に自然と体が震えた。
じっと見つめて来る男の視線に耐えられず、目を伏せる。

「オレのペロペロしながらこんなにして、しょうちゃんはえっちだなあ、もう」

「っア、……は、ぁ」

立ち上がった僕のペニスを男の指がつついて揺らす。
触るなら触ってくれないかな。
期待する体。
浅ましい。

「よしまさにいちゃんのちんちん、いれて、いいですか?」

構文を諳んじるのと同じ。
教えられた通りにおねだりをして見せる。

「欲しいの?」

「ほしいの、にいちゃんの、ちんちん」

「どこに欲しいの?」

「しょういちの、……しょういちの、おしり……ください」

言葉の合間に節ない吐息を短く吐き出して、首を傾げて強請る。
秋には二十歳を迎える男が何をしてるんだか。
声変わりもしていなかったあの頃ならまだしも、この成りじゃやる方も見せられる方も罰ゲームでしかない。

「しょうちゃんはイケナイ子だねー」

「……っくだ、さい」

「イイよ。あげる」

「アっ、」

きゅっと両の乳首を強く抓られて、反射的に反った喉から高い声が漏れた。
男の性器を支えて、先程まで楔を埋め込まれていた場所に擦り付ける。

「ふっ、は、あ、は、……あ、……ア、ア」

ゆっくりと腰を落として脈打つ男を飲み込んで行けば、僕の内側が歓喜に震えた。
気持ちイイ。
良くて、とても、最悪。

「しょうちゃん」

「っン、あ、な、に? ……ふ、あ」

「気持ちイ?」

「んっ、あ、ア、……い、きもち、いっ」

腰を振りたくりながら質問に答える。
僕の動きに合わせてたまに腰を持ち上げる男の視線を感じながらも、伏せた目を持ち上げることはない。

「オレさ」

「んっ、あ、」

「食べるのも、寝るのも、エッチも、」

「ア、っや……あ、あ、」

「好きだし、チョー大事だけど」

自分のイイ所に擦り付けながら、教えられた通り男のモノを締め付ける。

「あ、っハ、あ! あ!」

奉仕のはずの動きに快感を得て、快感に貪欲な体の内側が奉仕に繋がる。
目前の絶頂に向けて集中していると、頬を両手で挟み込まれて唇を食まれた。

「一番大事なのはしょうちゃんだよ」

ああ、しまった。
目の前には僕の顔を映しこむ瞳。
真正面から見つめてしまった、優しい眼差し。
それを向けられる事が何より嬉しかったランドセルを背負った自分が、まだそこにいる気がする。

「っ、────っ!!!」

「ッく、ふ、」

ズンと何度か奥を付かれて達したのをきっかけにキツく目を閉じて視線をたちきる。



大事、ね。



そりゃ、そうだ。
僕がいればそのどれもが満たされるのだから。


「ね、しょうちゃん」

「幾ら?」

「……んー……五万、くらいかなー」

だるい。
ずるりと僕の中から男を抜き取って、サイドテーブルに置いたバッグから財布を取り出す。
面倒臭くてそのまま財布を男に渡すと、小さく笑い声が漏れた。

「あーあ、こんなに可愛かったのになあ」

視界の隅に映るわざとらしくスマホを操作する男を残して風呂場に向かう。

そりゃ、十年も経てば変わる。

男がのぞく液晶には幼い日の僕の痴態が映し出されているのかもしれない。
ふ、と笑いが漏れる。
あんな写真を切り札だと思っている男の頭の弱さが愉快でならない。
今この国でそれを持っていることが何を意味するのか分からないのだろうか。


バカな、喜政。

出会った頃から、変わらずバカな喜政。


ほんと、バカ。


あと二年。
そうしたら、僕は、あなたの全てを奪って、そして全てを満たしてあげる。
それまでせいぜい求めたらいい。

欲望の赴くままに。


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