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とりとめのない小品

人魚の夢を見る男の話

少し読みにくいです。
文学作品風。
そしてBLなのか悩むところ。
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 その日私は、ある男の家に遊びに行った。男の家は大層立派な洋館で、柱のちょっとした装飾ですら溜息が洩れるような美しさだったのだけれど、どこか物悲しい印象が強く心に残っていて、不思議と羨むような気持にはならなかった。
 自ら私を迎え入れた男は、顔を綻ばせながら、客間ではなく男の部屋へ案内してくれた。この家を訪れた目的のものを早速見せてくれるのだという。いそいそと歩みを進める男の後ろ姿を見ながら、さて、この男の名前は何というのだったかと考えていたが、思い出す前に男が立ち止まって私を振り返った。大きな錠が設えられた重厚な扉が、長身な筈の男を小さく見せていた。大きな音は出さないようにだとか、君だから特別に見せるのであって他言は無用だとか、勿体ぶる男の態度にいい加減に業を煮やして、君はどうやら私に見せたくないようだね、などとつい言ってしまった。途端に、いや、そういう訳ではないのだと愛想笑いを浮かべた男は、物々しい錠前の鍵穴にこれもまた大層重そうな鈍い色の鍵を差し込んだ。ガチャリと大きな音が、否応に私の胸を期待に膨らませた。
 室内は薄暗く、窓には雨戸がかかっているようだった。こちらだよ、と男が薄い布を引くと、その向こうに部屋の半分ほどもある水槽が現れた。おお、と思わず息を飲む私に、男がくすりと笑いを洩らした。ライトの加減なのか、青く発光しているように煌めいて見える水をいっぱいまで湛えた美しい水槽。水面が揺らめくと部屋の天井に波紋が青く映し出された。
とても珍しい魚なのだよ、と唾を飛ばしながら興奮気味に語る男の声が遠くに聞こえる。私は、目の前の分厚い硝子の向こうからこちらを見つめる双眸に魅入られていた。
 それは、私には少年のように見えた。
 青白くくすみのない肌──それが、性器まで真っ白であったのだ!──と、海草のように揺らめく緑の黒髪。美しい全裸の少年が水中に閉じ込められているようにしか見えない。小さな歯を見せながらぱくぱくと口を開閉するのが、無表情でありながらもとても切なげだった。こんな処に少年を閉じ込める男に憤りを感じると同時に、私が彼でもきっと同じようにしたのではないかと思ってしまっていた。その位、美しい少年だったのだ。
 あるいは、少年の姿に見えていたのは私だけだったのかもしれない。ずいぶん長い間男の部屋に留まっていたように思うのだが、少年が浮かび上がって呼吸する場面を見ることはなかった。男も終始、魚としか言っていなかったように思う。だから、私は、人魚というものがいたのなら、ああいうものではないかと今も信じているのだ。


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