「
Odyssey」
軸
不死の魔物×囚人
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彼が何者なのか、詳しくは知らない。
犯した罪の大きさと、その力の強大さから、時の番人として封じられたのだと言っていた。
人間ではない。
それは、もう、見た目からして違うのだから聞かなくてもわかる。
「魔物は歳をとらないのか?」
思えば、30年前からその風貌は何一つ変わらない。
ふと頭に浮かんだ疑問を口にすれば、彼は可笑しそうに目を細めた。
「否。老いる。この場が、そういう場なのだ」
地を這うような低い声は、地を震わせ、ワタシの心を震わせる。
恐怖だ。
本能的な恐怖は、感情を無視して私の体を震わせた。
「ランス。お前も一日の半分、ここにいるのだから、わかるだろう」
「そうか」
40歳を超えた筈のこの体が不思議なほど若々しいとは気づいていたが、そうか。
「魔物になった、という訳ではなかったのだな」
ふっと笑いを漏らすと、彼の腕がワタシの腰を抱いた。
覗き込む瞳の虹彩の色が玉虫色に輝いている。
機嫌が悪い。
「どうした」
「恩赦だ。刑期が短縮された」
「いつ」
「明日には」
じっと彼の顔を見つめるが、その表情からは感情を読み取ることができない。
ただ、虹彩の色がくるくると変化して、それがとても美しい。
彼に食料を届けるのが、囚人であるワタシへの罰だ。
食料は動物や人の死肉。
血の滴る重たいそれを荷車に載せて、時軸へと通う。
ワタシの前にこの役を務めていた囚人は彼に食われたらしい。
その前の囚人も。
その前も。
囚人が戻ってこなければ、他の囚人がこの役につく。
ワタシは何故か食われなかった。
代わりに、彼はワタシに触れた。
驚くほど優しく。
そして、情熱的に。
「ここにいろ」
囁きが、ワタシの体を震わせる。
それが恐怖ばかりではないことを、ワタシも彼も知っている
ワタシがいなくなれば、他の囚人がこの役につくだろう。
そうして、いつかまた気に入る者が現れれば、彼はその者に触れるのだろうか。
こんなにも、愛しげに。
それはなんて辛い罰なのだろう。
我知らず頷いていた。
ワタシの頬を撫でる彼が嬉しそうに微笑む。
ああ、なんて幸せな罰。
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あれ、お題……?
ランスは親殺し、集団殺人の罪です。
自衛ですが、その殺害現場があまりにも凄惨だったため、少年でありながら重罪となりました。