「
Odyssey」
炎
無知な竜×無垢な人
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暫く留守にするつもりだ、と伝えるとキアの茶色い目が見開かれた。
ハの字に垂れた素直な眉と、きゅっと持ち上げられた口角。
そっか、という呟きが寂しげで、圧倒的な何かが胸をざわめかせた。
この可愛らしい生き物を抱き潰してしまいたい衝動が、血液のように体を駆け巡る。
次の瞬間、青い炎に包まれて真っ黒になっていく人間の映像が頭に浮かんだ。
「だから触れるなといったのに」と呟く記憶の中の自分の声に含まれるのは、若干の憐れみ。
そして、蔑み。
もし、キアがあんな風になってしまったら。
そう考えただけで、体が小刻みに震える。
堪らなく怖い。
生まれて初めて覚えた恐怖。
たびたびこいつに襲われる度に、慣れることなく戸惑う。
だから。
どうにかしようと思った。
「アイツを探しにいく」
「あいつ?」
「これ、仕掛けたバカモノ」
足元に落ちていた枝に手を触れると、ボッと微かに音を立てて炎が上がる。
小さな木切れは見る間に炭化して、風に乗って消えていった。
「……火の?」
「うん、謝ってくる」
まあ、これはやりすぎだと今でも思っているけど。
沸点の低い火の精霊を怒らせて、こんな魔法をかけられてしまった。
ちょっと間抜けだから、恥ずかしい。
当時はなんでそんなに怒るのか、正直分かってなかったのだけど。
キアに出会って知った。
自分を傷つけられるよりも、よっぽど嫌な事があるんだって。
きっと、あいつも堪らなく嫌だったんだろう。
「すぐ戻るよ」
「うん」
微笑むキアを見ていると、胸の中がぐるぐるとして、泣いてしまいそうだ。
火の精霊がいる場所は大体想像がつく。
そんなに時間はかからないはずだ。
戻ったら一番にキアを抱きしめようと思う。
いったいどんな手触りなんだろう。
小さくて細いキアを壊さないように、気をつけないといけない。
この胸にともる炎の名前を、俺はまだ知らない。
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触れると発火するので、竜は裸です。
わーお。
竜の姿だとでかくて不用意に物に触れてしまう為、人間の姿でいます。
キアは薬師。
竜の住む岩場に薬草を取りに行って出会いました。
全裸の竜と。
竜の体に触れて黒焦げになったのは山賊などなど。
岩場に全裸で美人がいたら、そりゃ手を出すって。
ちょっと哀れな山賊さん。