善高報道部部長は高嶺の花
初恋
04

 中原元基はこめかみを押さえてため息を漏らした。見た目は抜群に可愛らしい、しかし、中身はおおいに残念な親友をじとりと見返す。そのことを知る人間が少ない事を幸いと言うべきか。

 港は、なんだってそんな勘違いをしたのだろう。

 小高春馬は、中原より一つ年下の幼馴染である。中原は幼い頃から小高を弟のように可愛がっていたし、小高も中原を慕ってくれている。仲は良いし、気心も知れている。お互い特別に思っているのは間違いないが、そこに、愛だの恋だの、そんなむず痒い感情は誓ってない。
 絶対にない。
 もし小高と、だなんて考えただけで、中原の背筋がぞっとした。

 善高は全寮制の男子校。週末の外出は自由だし申請さえすれば外泊も可能、とは言え、同性ばかりの閉鎖空間での生活は多感な年頃の少年達の感覚を狂わせるらしい。校内では同性のカップルは珍しいものではないし、いつしかそれが普通だと思ってしまう。
 その風潮にすっかり染まってしまったとしても、港の勘違いはあり得なかった。

 なにより、小高が哀れに思えてならない。小高が好きな相手、追いかけるように善高に入学したその目的は、中原ではない。

 もう一度深くため息を漏らせば、港がそのピンクの唇を尖らせる。

「なんだよー。中原が聞いたんでしょ。こいつの第一印象」
「まさかの第一印象だな」
「えー、だってー、ふつーそう思うでしょ」

 中原のデスクとセットになった椅子を港がガタガタと揺らす。反対向きに座り背もたれに抱きつくようにした腕に顎を沈めたその姿は可愛らしいが、やってるとこは小学生だ。中原には、十年以上使っている椅子の耐久性の方が気にかかる。

「元にい、知らなかったんだ」

 床に胡座をかきベットに背中を預けてスマホを覗き込んでいた小高が、中原を見上げた。その黒い瞳は純粋に驚いている。

「ハルは知ってたのか」
「だって、あからさまだったよ? 人の顔ニヤニヤ見ながらイチャイチャイチャイチャ……」
「なっ! イチャイチャなんてしてませんー。ちょーっと近くに寄ってみたりしただけじゃん」
「近すぎるんだって」

 小高にもため息をつかれた港が更に唇を突き出した。

「可愛い顔してもダメ」
「どんな顔してもオレは可愛いんだよ」
「うんうん、可愛いね」

 なんの話をしているんだ……。

 バカップルの会話に微かな苛立ちを覚える。


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