「
善高報道部部長は高嶺の花」
初恋
05
「おまえら、そもそも、何でオレの部屋にいるわけ?」
「親友の家に遊びに来てるだけだけど?」
「幼馴染の部屋に遊びに来た」
「いちゃつくなら他所でやれ」
「いちゃついてないー」
港の言葉に同調して頷く小高は、見た目には分かりにくいが楽しそうだ。
確かに二人は触れ合っていないし、中原を挟むようにして距離を保っている。見つめ合うでもないし、二人きりで言葉を交わしているでもない。
しかし、空気が甘いのだ。二人がお互いを意識している気配が、その中間にいる中原に降りかかる。鬱陶しくて堪らない。
「ハルの部屋に行けよ」
窓の外、数メートル離れた位置に見えるベージュの外壁。この窓とは直角に位置する出窓にはファンシーなレースのカーテンがかかっている。小高の権力の強い母親は乙女なのだ。
「やー」
「やじゃねえよ、邪魔」
「だって小高、二人きりだと変なことするし。タスケテ中原マン」
「変なことなんかしませんよ」
「するじゃん! 変態!」
「健全です」
港の事情で学校関係者には二人の関係は秘密だ。その為ウイークデーは我慢、逢瀬は週末に集中する。思い合っている相手とゆっくりと過ごしたいという気持ちは自然だし、中原もよくわかる。寮には外泊すると申請を出して、こうして会うのを反対するつもりはないが、何故その拠点が中原の部屋なのか、そこはおおいに突っ込みたいところだ。小高の家は中原の家のすぐ裏手。そこに行けば容易に二人きりになれるのに、何故中原を巻き込むのか。
「うちは母ちゃんがいるしね……」
小高が僅かに唇を歪めた。中原と目が合うと肩をすくめてみせる。
確かに小高の母親がいては、二人でゆっくりと部屋に引きこもるのは無理かもしれない。彼女は可愛いものが大好きだ。実際、港を大層気に入っていた。
「てかさー、中原と小高は?」
「ん?」
「オレ様の第一印象。可愛いとか、綺麗とか、褒めてくれていいよ?」
可憐? 天使?
中原と小高に期待に満ちた瞳が向けられた瞬間。ドアフォンの音が鳴り響いた。しかも連打だ。かすかに女性の怒鳴り声も聞こえる。
三人の脳裏にパッと浮かびあがったのは、同じ人間の顔だった。