まものの心
二寸の恋心B
05

 最近になってやっと、なのだ。ハイルとの心の通い合い、駆け引きや、ちょっとした機微を楽しめるようになってきた、それなのに。同時にキノを苦しめだした物足りなさ。ハイルが足りない。共に過ごす時間が増えたというのに、決定的に足りないのだ。

 何が足りないのか。

 激情である。情熱である。欲望である。


 最近のハイルはキノをまるで生娘のように扱う。確かに、誰かさん(魔王)のおかげですっかり変わってしまった外見はユニコーンが好む純潔の乙女さながらではあるのだが、よく思い出して欲しい。中身はキノである。たった四寸の卑しい虫である。もう、いっそ、こう、ぷちっと、ぺちゃっと、あの逞しい前足で思い切り潰して貰いたい! さらにはその内に隠し持った美しく磨かれた鋭い爪をにゅうと突き出してキノの皮膚をプツリと穿ち、そこに生まれた血液の珠を舐めとっていただきたい。何度も何度も、あのヤスリのような舌で皮膚をひっかいて貰うのだ……と想像して思わずイっちゃうキノである。
 ああ、そうだ、昨夜は素敵だった。骨が軋む程荒っぽく押さえつけられたのだっけ、とキノはペロリと唇を舐めた。ハイルのあの前足の、大地を踏みしめてカチコチに硬くなった肉球が少しひやりとする、その感触を背中で受け止めるのがまた何とも言えず堪らなく感じるのだ、と変態は思考を飛ばす。早い段階で両腕を失っていた為、抗うことも、気を散らすことも、抱きしめ返すこともできず、ただただ翻弄された。ハイルの求めに抵抗するという選択肢を持たないキノではあったが、さりとて自身の体勢ひとつままならないのは、なかなかに倒錯的であった。
 ちらりと見下ろした袖の下の欠落した部分の行き先を思う。愛しい人のたくましい体にじわりじわりと染み込んで、あの少し硬い皮膚の下、内臓から血へ、血から肉へ、内からその全てをキノが支配していく様を妄想してあらぬ所を熱くさせた。

「ちょっと、キノさん。顔が崩壊してる。よだれ、垂れてるよ」
「ふふ、ふふふ」
「戻っておいでー」

 すらりとした魔王の指がキノの濡れた口元に触れ、そのまま輪郭を辿って頬をくすぐる。優しいその愛撫に甘えて顔を傾けたキノの素直な様子に、自然と魔王の頬も緩む。この幼子のような柔らかさは確かに好ましいものではあるが、羽化以前のキノのカサカサとした枯れ葉のような肌触りも捨て難く魔王には懐かしく思われてならない。

「あの姿も可愛いのになあ」
「ですから、そんなこと仰るの、あなたくらいなんです」

 またか、心底呆れて息を漏らすキノに、魔王はしきりと首を傾げてみせる。


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