死神の帰る場所
本編
捧げたモノ01

ぐちゃぐちゃと、本当にどうしようもない事を考えていたら、あっという間に治仁くんのマンションの前に着いてしまった。

有無を言わさず放り出されて、成す術もなく小さくなる車影を見送る。

そりゃ、弦太郎に言われたのは知っているけど、あんまりぞんざいすぎやしないかい?
心が折れかかっているんだから、私、泣いちゃうよ?


……キモいですね。
すみません。

治仁くんと会って話をするのを怖いと思う反面、ただ、会えるって事の魅力に釣られてインターフォンを押す。
いつものように無言のままオートロックの扉が開いた。

ああ、ドキドキする。



……。

ああ、そうか。
そうだ……。

この前にここを通ったのは、治仁くんとセックスした後だっけ。
セックスしちゃったんだっけ。

うわあ……。
治仁くんの部屋の手前で、そんな事を思い出すもんだから、顔が熱くなってしまった。

抱かれるって、なんて恥ずかしいんだろう。


パタパタと顔を仰いでいると、がちゃりと音がして扉が開いた。

「あ、」

「……」

治仁くん……。
一週間ぶりの愛しい無表情にじわりと胸が温かくなる。
重く圧し掛かっていた不安が一気に霧散して、心が軽くなった。

顔を見ただけで幸せになれるなんて、魔法にかかっているみたいだ。

……何でこんなに好きなんだろうなあ。

あ、目元のクマがまた濃くなってないかい?
また寝不足なのかな。
忙しかったのかな。

痛ましいその目元にそっと手を伸ばす。

「う、あ!?」

その手は、目的にたどり着く前に、治仁くんの大きな手に掴まれてしまった。
ぐいっと引き寄せられて、よろけながら玄関に入る。
治仁くんの硬い体にぶつかった顔は、長い指に顎を掬い取られて上を向かされた。

「お、じゃまし……む……む……」

白い顔が振ってきたと認識すると同時に、口を塞がれた。
遠慮なく侵入してきた舌を、そっと吸う。
ちゅぷりという水音の向こうに、パタンと扉の閉まる音が聞こえて、ああ、まだ開いていたんだとぼんやり思った。

……誰かに見られなかったかなあ?

「あン、ふ、……っ……」

私からも何かしないと、とそろそろと動かした舌は絡めとられて、すっかり治仁くんのペースだ。
とろとろに溶かされてしまう。


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