「
死神の帰る場所」
本編
祝杯の肴は04
side:弦太郎
この子が幸せじゃないなんて、そんなのは許せない。
許せないわ!
「亀ちゃん」
「ん? なあに?」
亀岡は、我関せずと、にこにこしながら酒を舐めている。
絶対に性格悪いわ。
我知らず視線が険のあるものに変わる
「坊ちゃんを帰らせてちょうだい。今から淳也を送って行くわ」
「え? ……え?」
「今から? んーまあ、いいか。いいよ」
「え?」
キョロキョロと私たちを見比べる従兄は無視してボーイを呼んだ。
先程少し飲んでいるから、車に乗せる訳にはいかない。
「……淳也」
「うん……?」
不安そうにしている従兄に向き直って姿勢を正すと、つられたように、従兄も背筋を伸ばす。
ふっと表情を崩してやれば、少し安心したようだ。
頬が緩んだ。
「ちゃんと話をしてらっしゃいよ。まだ時間が足りないのは分かってるけど。いきなり全てを伝え合うとか、出来っこないのも分かってるけど。決定的に足りてないわよ。意思疎通が。あなたたち」
ね? と首を傾ければ、従兄が僅かに遅れてこくりと頷く。
「幸せにならなくちゃ、お仕置きよ?」
体の前で腕を交差させてポーズを決めて見せたら、真剣な顔が瞬間的に歪んだ。
まあ、失礼だこと。
そんな従兄の尻を叩いて店の外に追い出した。
本当に、世話が焼ける子なんだから。
テーブル席に戻って、ふう、と息をつけば、亀岡の視線が纏わりつく。
何か言いたい事があるのだろうけれど。
無視よ、無視。
「亀ちゃん」
「ん?」
「そのお酒、まだ奢りじゃないからね?」
「……ええええ?」
情けない声を出す亀岡に、ふふんと鼻で笑う。
「当たり前じゃない。まだ“付き合ってない”んだもの」
賭けの内容は付き合うか付き合わないか、だったんだから。
まだ私の負けじゃないわ。
「でも」
声の含みに視線をやると、にたりと笑う亀岡と目が合う。
ああ、やな笑い方。
「時間の問題でしょう? ママがあんな世話を焼くから」
「……ふん」
そうよ。
分かってるわよ。
だって、きっとその方が幸せなんだもの。
あの従兄が幸せなら、それで良いのよ。
「私も、いただくわ」
大吟醸の瓶に手を伸ばせば、先に瓶を浚った亀岡に猪口を渡された。
「ありがとう」
「いいえ。たっぷり慰めますよ」
「あら怖い」
猪口を傾ける。
口に含んだ御酒の芳醇な香りに、ふわりと頬が緩んだ。