死神の帰る場所
本編
祝杯の肴は02

店の女の子を呼んで耳打ちをする弦太郎をぼんやりと見つめる。


心配……心配なんてもんじゃない。
二人して泣きながらつかみ合って言い争ったことだってある。
懐かしいなあ。

高校を卒業して直ぐ。
カミングアウトして勘当された弦太郎は、私と当時は健在だった私の両親が住むこの土地に逃げて来た。

きっと、あれから一度も実家に帰っていないのだろう。

一昨年、かな、叔父さんは定年を迎えたはずだ。
心細くなって、ちょっとは後悔しているんじゃないかなあ、といつも厳しい表情を浮かべている石頭を思い浮かべる。
叔母さんだって、一人息子が可愛くない訳がないだろうに。


まあ、お互いいい大人だし。
お節介はほどほどにしないとなんだけどね……。


「何よ、見つめちゃって。惚れちゃった?」

「ぶふ」

私のぶしつけな視線に体をくねらす弦太郎に、口に含んだ焼酎を吐き出してしまった。
もったいないなあ、もう。

「汚いわね、もう」

どっちがだよ、と思いつつも、ごめんごめんと謝っていると、コトリと硬質な音が聞こえた。

「こんばんは」

「……こん、ばんは?」

テーブルの横に立つ小柄で人がよさそうな男を見上げて、首をひねる。
誰だ?
……知り合い……? だろうか?
なんとなく見覚えもある気がするけれど。

「これ、ママの驕りなんですけど、せっかくだからご一緒にどうですか」

これ、と落された目線を辿ると、男が握った日本酒のボトルが、私のテーブルに置かれていた。

あ!
これ!
初めて治仁くんと一緒に飲んだ大吟醸……!

ぐっとテンションが上がって、顔が緩む。
それを諾と捕らえたのか、答える前に男があいている椅子に腰を下ろした。
ニコニコと笑みを浮かべながら開封して瓶を傾けてくる。

「あ、え、はい」

あわてて猪口を手に取った。

ママ、の驕りなのならば、まあ、遠慮も必要ない、のかな?
弦太郎をちらりと見ると、そ知らぬ顔で紫煙の先を見つめている。
いい、のかな。

「亀岡といいます。副社長がご迷惑をおかけしてます」

「……ふく、しゃちょう、さん? あ、私も」

日本酒の瓶を受け取って酌を返しながら考える。

副社長、ってことは仕事がらみ、かな。
誰だろう。
そもそも、寝具コーナーに企業の顧客は殆どいないから、他のコーナーの話だろうか。

「ダーリンのことよ」

「……は?」

ダーリン、とは?
    
ああ、もう、と何故だか急に機嫌が悪くなったらしい弦太郎の言葉に首を傾げた。 


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